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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
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「憎しみの鎖」

 ※


 ――ザザンガルドの朝は、眩し過ぎる程に明るい太陽の光で迎えられる。燦々と輝く太陽は海の青色を薄めつつ人々を照らしつけ、朝の到来をやや強引に伝えていった。


 起床した俺達は宿での朝食を済ませると、今晩に控える決戦に向けて買い出しに向かった。ちなみに、モルドは本日限りで終わる予定の将軍としての職務があるため不在である。


 街に出て店を見回ってみると、店で接客をしている人達は昨晩見た顔と本当に同じだった。かなりの労働時間を過ごしているのが窺える。もしこれをアルハート王が法により強制しているのだとすれば、まさに圧政と呼んで差し支えない政策を行っていることになる。


 ここまで国民に過労を強いるのには、恐らく観光業を今よりも盛んにしたいという狙いがあるのだろう。と俺は推測した。ザザンガルドはリゾート地として有名な場所。その立ち位置を新規参入者に奪われないようにするには、必然的にリゾート地としてのクオリティを上げることを余儀なくされるわけである。


 しかしだからといって、これでは国民の人権を蔑ろにしているのと同じことだ。どの道、決して許される政策ではない。


「……ん?イクシス。 今更普通の鉄の斧なんて必要なのか?」


「あっ、いや……これは……ちょっとな」


 何やら後ろめたいことがあるのか、露天で武器を購入していたイクシスは俺の問いにオドオドした態度で答えを濁した。せっかくオーブがあるのにお金が勿体無いと俺は思ったが、まあ、彼女には彼女なりの考えがあるのだろうと取り敢えず納得することにした。


 ……ふと、俺はここから数マイル先にあるザザンガルド城を見上げてみる。今、あそこでモルドが最後の執務に取り組んでいるところだろうか。


 ……モルドは確かに、悪しき王を打ち倒そうと決心した賢き騎士である。元々はアルハート王に仕えている身だったのに、立派だ。しかし俺は同時に思う。モルドには、信頼できる仲間があの城には居なかったのかと。


 アルハート王を敵に回すということは、かつての自分の仲間も敵に回すということだ。これはあくまで例えばの話でそんなことは万に一つも無いのだが、もしも俺の故郷……バレア王国の王がアルハート王のように独裁者だったとして、将軍の俺が反旗を翻すことになった場合……俺は、エリス様やイリアはおろか、一般の兵士一人にすら剣を向けられる自信がない。


 仲間と笑って過ごした時間が、きっと俺の剣に歯止めをかけるだろう。思い出はそう簡単には消えない。例えその時が、その思い出を忘れなければならない時であったとしても。


 モルドにはそういうのが無いのだろうか。あるいはあったとしても、既にそれを割り切れているのだろうか。もし後者だとしたら、俺はモルドを心の底から尊敬する。まさに勧善懲悪の鑑だと。


 弱きを助け強きを挫く。それを徹底しようとした場合、いつかは仲間さえ手にかけられる冷徹さも求められてくる。そう、弱き民を助けるため、強き友を倒さなければならない時に。


 ……なんて、ガラにもなく変なことを考えてしまった。俺自身はまだ仲間と戦う必要なんてどこにもないのに。


 とにかく今は目一杯、仲間と過ごすこの時間を大事にしよう。いつかどの道訪れる、別れの日に備えて……。


 ※


 ――ザザンガルド城内。その回廊の一つを、とある赤髪の眼鏡をかけた青年が歩いていた。彼の名は≪モルド・レアビイルト≫。ザザンガルド国王・アルハートの圧政に終止符を打つべく王への反逆を決心した将軍である。


 しかし当然ながらそのことは城内では漏らしていない。また、国への反乱を目的として結成された団体と繋がっていることも悟られてはいない。今日が反逆戦争当日であるが、モルドは今も王に絶対の忠誠を誓う将軍を演じている。


 そして、そんなモルドのことを怪しむ者は今のところ城内には居ない。しかし、ただ一人を除いては。と言うのも、モルドのことを日頃から警戒している将軍がいる。その者は丁度、この回廊を歩いていたところモルドと鉢合わせしたのだった。


「……モルド、昨晩は帰りが遅かったな」


「なぜ帰還後、すぐに城へ戻らなかった?」


「昨夜お前の姿を目撃した者によれば、一度町外れの小屋に寄っていたようだが……王への報告を後回しにしてまでその小屋で何をやっていたんだ?」


 ……この緑髪の青年の名は≪ラスロー・ゲネビア≫。モルドと同じザザンガルド王国の将軍の一人だが、こちらはモルドと違って真に王への絶対の忠誠を誓っている。


 そしてラスローは、モルドの不審な動向を怪しんでいる唯一の人物である。モルドは常日頃から、その一つ一つが絶大な称賛に値するであろう戦果を幾つも築き上げてきたお陰で王を含めた城内の者の殆どを篭絡しているが、ラスローの疑いの目だけはどうやっても晴れないでいた。


(小屋に入るのを見られたか……そこを調べられなかったのは不幸中の幸いといったところか)


 作戦は今日決行される。それ故、今更そんな場面を見られたところでガサ入れさえされてなければ、モルドにとってはどうでもいいことだった。


「すまなかったな。 丁度その時は極端に空腹だったものでね」


「正直に言うと、報告の前にこっそり腹ごしらえをしていたんだ」


 勿論、それは嘘だ。しかしその嘘は真っ向から彼の身の潔白を証明してはおらず、寧ろ王よりも空腹を優先したという無礼の告白になっている。


 しかしそれはモルドの計算だった。敢えて自分が失態を犯してしまったと言うことによって、“反逆”などといった確信に迫りかねない発想を曇らせる働きが見込める。


「我らが敬愛する王への報告より自らの腹を満たすことを優先しただと……恥を知れッ!」


 モルドの狙いは当たった。今のでラスローのモルドへの好感度は最早底辺すら突き抜けていっただろうが、これで作戦決行前にモルドが反逆因子であるとバレる可能性は限りなくゼロに近くなった。


「良いかモルド……私はお前のことを将軍などとは決して認めんッ!」


「お前は欲にまみれた俗物だ……いずれその座から引きずり下ろしてやる」


 ラスローに辛辣な言葉を突きつけられたモルド。しかしその表情は微動だにしない。眼鏡の奥の双眸は紅き輝きを平静に保っている。


 やがてモルドとラスローはすれ違った。ラスローの足音が聞こえなくなるまで遠くなった頃……。



 ……モルドはようやく、内に秘めし“殺意”を、垣間見せる。



(愚王の傀儡如きがよくもあれだけ吠えられるものだ)


(自分が将軍の器だとは元より思っていない)


(しかしラスロー……貴様如きに私が殺せると思うなよ……ッ!)


 ……この時のモルドの形相は酷く歪んでいた。牽制しあっていた頃はこうなる前兆をまるで見せなかったのに、彼と離れた途端解き放たれたように憎悪を滲ませている。


 ラスローがモルドを嫌うように、モルドもまたラスローを嫌っている。そんな二人を繋いでいる憎しみの鎖は今夜という時を以てついに分かたれる訳だが、モルドはその瞬間を今の地点で大いに楽しみにしていた。


 モルドの憤激の表情は、徐々に微かな笑みも帯びていく。どうな風に殺してやろう。どんな風に貶してやろう。モルドは彼以外誰も歩いていない静寂の回廊で一人、狂気に満ちた妄想を膨らませるのだった……。

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