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魔族を蝕む聖剣の光  作者: うさぎボーイ
第六章 「赤髪の将軍と魔王との邂逅」
100/141

「絶望を燃焼せよ」

記念すべき100部分目です!

ここまで読んでくれた皆様に感謝です!

ありがとうございます!

これからもよろしくお願い致します!

 ※


 ――サンメラ王国の女性将軍、イクシス・ラギシークはアイザック一行の一員である。サンメラ王国の女王・ホルスがとある魔族に取り憑かれたことによって起きてしまった悲劇をアイザック達と共に乗り越え、その後、アイザックの剣になると誓った。


 だが、そんな彼女は今……とある“絶望”と対面していた。


「そんな……バカなぁ……ッ!」


 “ありえない”。まず一番最初に浮かんだ泣き言はそれだった。その絶望は、イクシスが持つ強力な武器≪星の魔玉≫すらまるで歯が立たない程大きく、そして凶悪なものだった。


 彼女はその勝てる気が全くしないような相手を眼前にしてすっかり戦意を喪失してしまい、その場で跪いてしまう。虚ろな瞳はひたすら木目の床だけを見つめていた。


 そしてそのまま立ち上がることもままならないでいる。あの絶望がイクシスを凄まじい重圧によって押し潰さんとしているのだ。しかし彼女はそれでも、今一度立ち上がる為手足を震わせながら必死の思いで全身に力を、そして魂を込める。


 そうすること数十秒、やっとの思いでイクシスは立ち上がれた。そして再びあの絶望と相まみえる。すると彼女は――


「――やっぱ体重増えてるじゃないかぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ――あらん限りの叫びをあげた。目の前の絶望……即ち人の体重を測定する機械の針が指した位置を見て。そう。絶望とは、彼女の体重が増えてしまったことだったのだ。主に食べ過ぎが原因である。


 彼女が先程立ち上がる時に苦労したのももしかしたら増えてしまった体重のせいかも知れない。まあ、もしかしたらの話だが。何にしても増えてしまったのは揺るぎようのない事実だ。太っちゃったのだ。イクシスは。


 僅かながらではあるものの、決戦前夜にして無駄な贅肉がついてしまったことでイクシスは自らに対して失望せざるを得なかった。ちなみに彼女と同じ大食いのイリアもこの後イクシスと似たような絶望を味わうことになるが、それはまた別のお話。


 こんなことなら風呂上がりに体重測定器になんか乗るんじゃなかったと、バスタオル一枚のイクシスは深く後悔する。とりあえず彼女は寝巻に着替えることにした。


 はらりとタオルが脱ぎ捨てられ、少女のしなやか……とはあまり言えないふくよかな肢体が顕になる。イクシスは歳の割に発育が良い方で、特に胸は並の大人の女性のそれよりもやや大きい。余談だが、イリアと比べた場合はイリアの方が若干勝る。


 ハリのある双丘の上に、寝やすさを重視して縫われた衣服を着用する。上着のボタンをやや手間取りつつ全て留めた後、下着とズボンも履いた。これで寝る準備はバッチリ。


(服がちょっとキツくなってきたかも……)


 増量がもたらした弊害だろうか。自業自得とはいえ己の堕落を実感する瞬間ほど惨めになれるものはない。ひとまずイクシスは脱衣所を後にし、イリアの待つ部屋へと戻った。


 ※


 アイザック一行は、男女で別れて部屋を取っている。勿論、別に一緒の部屋を取ったところで間違いなど到底起こり得ないのだが、念の為にそうしている。


 時に、同性と二人っきりになると、異性がいる時には出来ないような話をしたくなるものである。イクシスもまたそんな衝動に駆られ、イリアと卓を同じくして自らの悩みを吐露していた。


「イリア……私はまた太ってしまったよ」


「あらら……」


 その悩みとは無論、先程自身に起きた予期せぬ増量のことである。かたやイリアは、それが自分の身にも起こっていることも知らずにまるで他人事みたく呑気にその話を聞いていた。


「いや、私は確かによく食べる方だが、食べている分動いているハズなんだ」


「遠距離支援で殆ど動かないイリアと違って私は近接で魔物と激しく戦っている。 運動量の差は歴然なのに、何故体型は然程変わらない?」


「戦い方は近接型でも人の貶し方は遠距離型なんですねイクシスさんって」


 イクシスに遠回しにディスられ若干苛つきを見せたイリアだったが、今のイクシスの心にはそれも意に介せない程余裕というものが無かった。


 イクシスの首がだらんと脱力し、顔面がそのままテーブルに落ちる。紫色の長髪がだらしなく垂れ、その一国の将軍とは思えない程情けない姿は彼女の底無しの絶望をこれ以上なく明確に表現していた。


「でも正直イクシスさんって、私より食べてますよね?」


「えっ?」


「いや、えっじゃないですよ。 さっきも私がフランクフルト三本食べ歩きだったのに対してイクシスさんは四本食べてたじゃないですか」


「うぐっ……それは……」


 もしこの場にアイザックが居たならば三本も大概だろうと諌めただろうが、この二人の基準では寧ろ三本はフラットよりは少し高めというくらいのものであった。イクシスは自分よりも多く食べているだろうというイリアの指摘にぐうの音も出ず、歯を食いしばる。


「あと多分、オーブのあの驚異的なまでの軽さもまたイクシスさんの増量に一役買ってるかと」


「何!?」


「冷静に考えたらアレ、身体に全然負荷が無いじゃないですか? そのせいもありますよ、多分」


 イリアのその指摘もまた、確実に的を射ていた。「確かに」とイクシスは思う。斧などの武器形態に変異したオーブは魔力の塊であるが故、物理的な重さを殆ど持たない。極端に言うと、使い手が例え赤ちゃんだとしても問題なく振るうことはできる。


 そう。身体への負荷が少ないということは、つまり脂肪燃焼率もまた少ないということ。己を鍛えられるか否かという観点で見た場合、オーブはその要素が皆無と言える。利便性を追求した結果、イクシスの肉体はいつの間にか鈍っていたというわけだ。


 だから太った。その点イリアは確かに動きこそしないが、あの重たい杖を常時持っているかもしくは背負っている。ゴツガケ山脈を歩いているだけでも相当の脂肪燃焼効果があったハズだ。まあそれでも結局太ってしまってるわけなんだが。


 こうしてイクシスは、無駄肉がついてしまった原因を知った。そして自分の浅はかさを心底恥じた。イクシスは決めたのだった。これからは普通の鉄製の剣や斧もダイエットのために使っていこうと。


「……その点、アイザックは賢明だな」


「オーブの力だけに頼ることなく、これまで使ってきた聖剣も捨てずに振るっているんだからな」


「……それが、アイザック様が自らに課した贖罪ですからね」


 ……魔族なのに聖剣使いという、理にかなわない組み合わせ。本来なら紫紺の魔玉だけ使っていれば良いじゃないかという話だが、オーブの能力だけに頼っていると結局イクシスのようになってしまうことが明らかになった。


 アイザックのプライドも強ち無駄ではなかったということだ。聖剣の焔は彼の中に流れる魔の血だけでなく、彼の脂肪までも燃やしてくれていたらしい。おかげでアイザックの体脂肪率は極めて少なく保たれている。筋骨隆々の肉体美の持ち主だ。


 苦労を伴えば、相応の見返りがくる。アイザックはその身をもってイクシスに教えていた。そう、努力は報われる。


「……よし!」


「そうと決まれば早速、街に繰り出して武器を買いに……」


「明日にしてください」


「……分かった」


 気が逸ってそのまま外出しようとしたイクシスをイリアが引き止めた。今日はもう遅い。ダイエットの前に、まずは早く寝て明日に備えることの方が先決だ。


 果たして明日に迎える魔王との戦いは、イクシスの体脂肪率をどれだけ減らすことになるのか……いや、それは然程重要なことではない。

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