序
……心地よい風が辺りを吹き抜け、俺の肌をそっと伝っていく。戦いに疲れ、大切な者の死に絶望しきっていた俺の心を、まるで優しく包み込むかのように。
そこは、名も与えられていないありふれた草原。旅路の途中で一時の休息にと立ち寄った俺は、その静寂の中、一人眠りに就いている。黒い鎧を着たまま、生まれ持った金の髪をガサツにも乱しながら草むらに寝転がる俺の横には、俺が愛用する白い剣があった。
それは、≪聖剣≫の二つ名を持つ伝説の剣―≪アポロ≫。正統なる勇者の血族にのみ装備が可能とされるその剣は今、俺の手の内にある。
しかし、アポロの使い手である俺自身には、勇者の血など1ミリも流れていない。つまり俺は、アポロの正しい主ではないのだ。むしろ俺は、聖剣であるアポロが滅する対象である≪魔≫の血を引いている――いわば魔族。
そして、魔族である俺がこの剣を振るおうとすれば、俺の右腕は瞬く間に魔を封じる聖なる業火に焼き尽くされてしまう。今になっても思う。なぜ俺は、この剣を装備しようと思ったのか。
「アイザック様、そろそろ起きてくださーい!」
少女の声が、静寂を引き裂いて俺の耳に届く。アイザックとは、俺の名である。さて……そろそろ行かねば、か。
「……っ」
「ああ……今行く」
少女に呼ばれた俺は徐に起き上がり、束の間の睡眠を終えてもとの旅路に戻る。魔を滅する伝説の聖剣……アポロを手に取って。
「ぐぅっ……ッ!」
たった今右腕に燃え上がった炎が、俺に使命を与える。そしてこの痛みが、俺に過去の無念を思い出させる。
俺は魔族にして、聖剣を操りし者。その旅の目的は……蘇りし≪魔王≫の討伐。
このたびは本作品を読んでくださりありがとうございます。
更新ペースは普通より遅いかもしれませんが、
最後まで書き切りますのでこれからもよろしくお願いします。




