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そしてメイドの生まれた日

 戦闘の火蓋は瞬時に切って落とされた。


 俺を中心に展開される幾重もの魔法陣。瞬きをする間に展開され、効果を発動させ終えて消える物。ほかのものと組み合わさり、重なり合い、効果を集積していく物。それぞれの役割に従い、望む通りの結果を残してくれる。

 注ぎ込んだ魔力も、これを作るための技術も、割りと出し惜しみなしである。

 何故か。


(使いやすいアシストがいて助かりましたよ)

(……ドラゴンをなんだと思っているのだ。ここまで回路をフル稼働させて、さらに急かすなど、鬼畜の所業だぞ)

(そもそもそっちの尻拭いです。諦めなさい)

(くそ……)


 レッドドラゴンに面倒をある程度肩代わりしてもらっているからだ。


(なんなのだ、この膨大な作業量は!)

(まずはあっちの復讐の全権をどうにかしませんと、倒しようがないので、全力で頑張ってくださいよ。俺はその間回避にいそしみますので)


「はぁああっ!」


 魔王さんが全力で殺しにかかってくる。

 うん、頼むから手加減してください。


 早い。

 鋭い。

 おっかない。


 駄目だ、面倒くさい。

 たかだか回避がここまで面倒くさいとか、モチベーションだだ下がりなんですけど。

 ああ、そうだ。限界まで勇者の剣に魔力を貯めて自爆覚悟でここら辺一体概念ごと焼き尽くせばそれですむんじゃなかろうか?


(やめろ。やめてくれ。やめてくださいおねがいします)

(いや、冗談ですよ、面倒くさい)

(呼吸をするように面倒くさい連呼するのをやめないか?)

(えー)


 だって面倒くさいし。

 引き篭もりに働かせるんじゃねー。ベッドの上でゴロゴロさせろー。


(そもそも、あの人閉じ込めて時間稼ぎもできないし、根本から苦手なんですよ)


 処理の問題で、平行して長く他の魔法を使うことは正直難しい。全権といえど魔法。手順をふまないで発動できるわけじゃないし、俺の使う認識の全権は概念に関わる物だから、尚のこと無理だ。

 おかげさまでこの無茶苦茶な攻撃を全力で回避し続けるという、なんとも面倒なことを続けているのだ。


 なんなんだろうか。

 この回避先に斬撃が先回りしているとか、

 いきなり地面が腐食して猛毒の瘴気を放ち始めるとか、

 呪いが光弾状になってゲリラ豪雨ばりに降り注いだりとか、

 最終的にはいつのまにか刀が何本も自動で襲い掛かってくるとか、


 あれですか。俺に死ねと。いや、殺し合いなんですけどね?


(レッドさーん、まだですか?)

(レッドさん呼びをやめい)

(いや、本当にちょっと俺の動体視力と三半規管と運動能力が限界なんで、急いでください)

(……その割には緊張感ないな)

(緊張している暇もないと受け取ってくださいよ)

(とりあえず、あと三分待て)

(三分ですよー。言質取りましたからね?)

(分かった分かった。わかったから目の前のことに集中しろ)


 ぎゅんっ、と一気に魔王さんに距離を詰められた。

 まっずいなぁ……。


 分身でもしたのか、二刀流になって連撃が襲い掛かる。


 ドガガガガガガガガガギャギギギギッギギギギギガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!


 うん、剣戟の効果音じゃない。

 でもって腐食耐性全振りじゃないと、これやってるだけで俺死ねる!

 あと腕が滅茶苦茶ツラい!


 一度大きく相手を弾き、距離を取る。


 そのまま全力で逃走。

 次々目の前が腐り落ち、瘴気に塗れる。

 息を止め、瞬間的に結界を張り、強行突破。

 距離だ。距離を取るんだ。


 近づかれると本当に厄介すぎる。

 いや、まだ殺されはしないんだけどね? ずっと耐性張るとレッドさんの処理が重くなりそうで怖くて怖くて……いっそ今度はもっと楽な展開方法考えて簡略化とかするか? 絶対こーいうロクでもない案件はまたあるんだろうし、ドラゴンズが役にたたねーのが実証されたし。


(……言いたい放題だな)

(あ、終わりました?)

(ああ……)

(そいじゃ、起動させますか)

(…………本当に起動させるのか?)

(? いや、そりゃ起動させなきゃしょうがないじゃないですか)

(………………本当の本当の本当にか?)

(??? ええ、起動させますけど?)

(……そうか、わかった。いや、もう何も言わん。お前の好きにするがいい)


 静かに勇者の剣(レッドドラゴン)は嘆息した。

 なにがそんなに気になるんだ?

 まあいいや。


我、万象(code:)に概念を(second)適用せん(line)――全権行使(Akashic)(/)概念変更(edit)!」


 詠唱。

 たった二言だが、起動させるだけならこれで充分。

 本当は作業中も詠唱してればある程度早くできたけれど、処理能力の高い相手の前で詠唱とかしてたら、最悪手の内読まれて対抗策を練られかねない。

 しかたなく無詠唱で処理してきたけど、正直長い、キツイ、重い、面倒くさいとここまでの大規模式になるとデメリットが目立つ。


 ……こんな式を組まないのが一番なんだけどなー。

 うん、布団に今すぐダイブしたい。


 俺の内心の低いテンションなど無視して、魔法陣が動き出す。

 複雑かつ有機的に、しかしどこか規則性をもって、重なりあっていた物がずれ、噛み合っていたものが回転を始め、それがまた別の魔法陣に回転を加え――連鎖的に、劇的に、全体像が変化していく。


 まるで巨大な一つの構造物のように、花が蕾を開くように、強大な意思を湛えた魔法陣が、ついにその力を解放する。


「……よし」


 復讐の全権さえ抑えれば、正直他の全権は怖くない。

 このまま概念変更の効果を発動させて勝負をつけさせてもらおう。


「あなた今、わたしに何を――!」


 困惑した様子の魔王。

 無視して効果を発動させる一言を言い放つ。


「跪きなさい、主人の前ですよ。()()()()()?」

「な!?」


 彼女の顔が驚愕に歪む。

 俺の科白の内容もそうだが、自分の体がそれに従い勝手に動いたことが大きくショックになっているようだ。

 先程の俺の魔法で行ったことは至極単純。

 彼女の復讐の全権の概念を変更し、俺への奉仕という内容に――つまり俺の命令へ絶対服従のメイドにしたのだ。

 全権であるが故に、それを発動すれば彼女のありとあらゆる事柄にそれが適用されてしまう上、内容が内容なので俺に逆らうことも害することもできはしない。


 完璧である。


(こんなくだらん魔法のために、我は必死に演算をしていたのか……)

(勝てるんですから文句言わないでくださいよ)


 げんなりと呟いたレッドさん。

 そもそもそっちの不手際で迷惑を被っているのだから、文句を言われる筋合いはないのだけれども。


「くそっ、ふざけるな貴様ぁ!」

「ふざけてませんよ。大マジです。あなたのせいでこっちがどれだけ迷惑被ったと思ってるんですか」

「知るか! 今すぐ魔法を解け! お前を殺してわたしは――」



「――黙りなさい、小娘」



 静かに一言。

 割とイライラしたので殺気もそこそこ籠めておいた。


「あなたの主張など関係ありません。重要なことは、俺の平穏にあなたが水を差した。その事実だけですよ。迷惑をかけたのですから、当然罰を受ける覚悟もできているのですよね?」

「ッ!」

「安心してください。別にエロ触手的な欲求を満たそうとか考えてませんから。ただ俺の身の回りの世話をして欲しいんですよ」

「なに……?」

「あれ? そこまで変なこといいましたか?」

「それを言うなら最初から最後まで変だったが……そんなもので済むのか?」

「いや、俺にとっては普通にイヤなんですけど。というか、そもそも俺が怒ってるのは俺の生活に影響出したからですから。正直人間がどうなろうと、何人死のうとそこまでどうにも思いませんよ。目の前で死なれるのは流石に寝覚めが悪いし、死体漁りが湧くので助けますけど、見ず知らずの人間が万単位で死のうと本当にどーでもいいですし」

「そんな、理由で……わたしの復讐は……」

「あーはいはい、どうせそんな理由ですよ、あなた達にとっては」


 でも、ですよ?


「俺にとっても、あなたの復讐という感情がくだらないと感じてしまいます」

「なんだと……?」

「俺はあなたじゃありません。同じ体験をしても同じ感想を抱くかどうかは定かではありませんけれど、恐らくここまで復讐に拘ることはないでしょう。そもそもの価値観が違いますから。いえ、その上で否定をさせてもらえるのなら、同じ非生産的行動でも、まだ迷惑の規模から俺の平穏なだらけた日常のほうがマシだと思いますよ」

「ふざけるな……っ、そんな、そんな単純な理屈で……!」

「ええ、感情というものがありますから、そう簡単じゃありませんよね。勿論理解しています。ですが、これで今回は頭が冷えたでしょう? 幾ら激情で全権を得るに至っても、それ以上の何かがあればいずれソレに負けてしまうのです。絶対なんてありません。この世の全て一瞬の幻想なのですから、終わらない道理がありません。世界を滅ぼしたいほどの悲劇も、それによって巻き起こる呪詛も、全部一過性なのですよ」

「……っ」

「いつか無くなるそれに全身全霊をかける? ええ、それもまたありなのでしょう。俺にはまだ理解出来ませんが、いつか理解できる日が来るのでしょう。ですが、今がそうではありません」


 勇者の剣を突きつける。


「さあ、選びなさい。このまま首を刎ねられるか、それとも俺の元で在り続けるか。もっとも、俺の身の回りの世話をさせる以外の選択肢は選ばせませんけれどね」

「!」


 魔王さんの目が見開かれ、俺の顔をまじまじと見つめ始める。


「主……様?」

「はい?」

「……なんでも、ない」


 ほぅ、と静かに溜息をついてから彼女は立ち上がる。


「いいでしょう、これからは大人しくあんたの世話をしてあげるわ」

「そうですか、ありがとうございます」

「で、あんた、なんて名前なの?」

「今回はアーロンを名乗っていましたが……アレンです。家名はありません」

「……ふぅん。それじゃ、これからよろしくね。()

「その呼び方するなら、名前聞く必要ありました?」

「別に良いでしょ? それに、わたしが初めて名前を呼ぶご主人様は、もう決めてあるのよ」

「……まあ、別にいいですけど」


 別に無理強いする必要も感じないし、ご主人様呼びも悪くない。

 と、そこで割りと重要なことを思い出した。


「魔王さん。あなたの名前は?」

「……コドクよ」

「コドクさんですね。では、今日からよろしくお願いします」


 かくして、俺の元に刀で魔王なメイドが爆誕したのである。


 ※面倒ごとは助けた三人に丸投げしました。勇者の剣は適当に大森林に突き刺しておきました。

 何事もなく早めに次話投稿できました。

 次は本編のほうに投稿します。

 あと英語のルビが難しくて難しくて……

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