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魔王と対面してみた件

「畜生――やっぱ死なねえって!」

「強化してるのに、足りない……!?」


 リイレと呼ばれたハイエルフの少女が動揺するが、レインは予想していたかのように、舌打ちを打つ。


 そもそも、全権は無敵の魔法ではない。


 全てにその概念や事象を適用する――が、当然の如くその発動には代価が伴う。

 発動させるに値する起因が必要なのだ。

 それは詠唱であったり、仕草であったり、あるいは秘薬であったり千差万別だが――いづれにせよ、膨大な魔力とそれを動かす起因の二つがそろって初めて文字通り意味を為し、世界を変える力になる。


 理屈から言えば全権は、至極全うな、常識的な魔法なのである。


 ――もとより、魔法全てにそれは当てはまるのだが。


 起因が魔力に意味を与え世界を作るのならば、規模が存在し、その規模によって、その魔法を使う術者によって、その手間は大きく増減する。


 故に、戦場での魔法の行使は、如何に早く、的確な魔法を使えるかにかかっている。


 いくら世界全てを滅ぼすような魔法でも、使う前に術者が殺されれば意味がない。


 一秒とかからず放てる魔法でも、効果がなければ意味がない。


「今は全力で下がるぞ! 切断二発も使っちまったし、お前の強化も品切れだろ!」

「くっ……!」


 そして魔力は有限である。

 彼は暗殺者としても、魔法使いとしても優秀だが――全権を何度も使えるほどの規格外ではない。


 レインの提案は至極全うなものである。

 今ここで使える手段に、目的を打倒しえるものは何もない。

 ここで粘るだけ無駄なのだ。

 まだ逃げるだけの余力がある今のうちに逃走するのが最善である。

 だが――


「いやいや、見逃さないって」


 口調は軽く、

 しかし含む意味は泥のように重く纏わり付く。


 呪いの力により、発現するはずの意味は、事象は捻じ曲げられ、そしてその矛盾に耐え切れずに自壊していく。


 魔王から溢れ出す瘴気は、即席の呪詛となって、徐々に二人の身体を蝕んでいく。


「厄介そうなのは、目の前に出てきた時点で潰さないと」

「くそったれ……!」


 逃がす気は魔王にはさらさらない。


 しかし、負ける気もさらさらない者が、この場にもう一体。


「ガルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 レッドドラゴンが咆哮と共に牙を剥く。


 その目には最早普段映る理性は見当たらない。

 瘴気に当てられ、今は本能のまま戦っているような状態だった。

 何度も何度も魔王の攻撃を受け、魔王の瘴気を吸い続け、それでもドラゴンであることを忘れぬ以上、ドラゴンとして世界の安定のため、自我すらなくとも戦おうとしているのだ。


 ぎらりと、魔王の目が冷たい光を帯びる。


「――哀れ、そして愚かね」


 肉を引き裂き貫く音が、やけに大きく響き渡った。


 訪れたのは一瞬の静寂。

 それを打ち破るのは、血が地面をぬらす音。


 黒く肥大化した刀身が、レッドドラゴンの首から生えていた。


「ガ、カ――」

「所詮は獣。自然に与えられた役目から、いくら傷つこうとも逃げられない、哀れな存在」


 静かに、しかし何処か寂寥を感じさせる声音で魔王が呟く。


「――もっとも、それはわたしもかもしれないけど」


 すっ、と自然な動作で刀を構える。

 ぴたりと止められた視線の先には、逃げようとする二人の男女。


 ――いつかの自分を思い出すな、と自嘲気味に口元を緩めた。


「でも、止まらないわ」


 振り抜かれた一閃は、レインとリイレに確実な死を与える――


「え?」


 ――()()()()()


「まったく――最近は死にそうな人間くらいにしかでくわしませんね」

「えと、それわたしのことですか!?」

「他に誰が居ますか? 今目の前に居るのは、死にそうなドラゴン一匹と、殺されそうなエルフ二人と、殺そうとしている魔王一人くらいですよ?」


 軽やかに二人の男女が着地する。


 一人は黒髪赤目の青年。

 もう一人は僧侶のような少女。


 そんな装いの二人が、レインとリイレと魔王の間に降り立った。


 迫るのは死の斬撃。


 しかし、青年はそれを無造作に片手で握りつぶす。


「ふむ……思ったよりも消耗しているのでしょうか? 威力も仕組みもたいしたことないですね?」

「あのー、仮にも魔王の一撃なんですが……。というか、急展開過ぎるので、ちょっと状況を整理する時間をください」

「な、なんなんだ、あんたら!?」

「一体、どうやってここまで……!?」


 二人が驚愕の声を上げるが、アーロンとミリアは無視してやいのやいの話し合っている。


「というか、実はあんまり驚いてませんよね?」

「いやー、探知系強化された時点で大体実力分かっちゃいましたし……」

「あー、そこでですか」

「大体、初対面のいたいけな少女に改造手術施してる時点でもう、随分アレな人だって分かりますしねー」

「アレな人っていうか、ヒトですらないんですが……まあさておきましょう」


 やれやれと首を振り、だが油断なく右手を魔王に向けている。


「……さて、お初にお目にかかります、魔王様」

「その口上、流行ってるのかしら? そこの暗殺者も言ってたわよ?」

「あれま、先を越されましたか。まあ、全権持ちなら先を越されても仕方ないですかねー」

「……あなた、何者なの?」

「しがない只のエロ触手でーす」


 魔力が高まっていく。

 にやりとアーロンの口元が歪む。


「――とりあえず、お先に失礼しまーす」


 閃光。


 魔王の目さえ眩ませるとんでもない光量だった。


「くっ!?」

「では」


 瞬時に()()()


 男女四人とレッドドラゴンがその場から姿を消す。

 残されたのは、戦闘の残り香と、魔王のみだった。


「……やってくれるわね」


 少し悔しそうに魔王は目を細め――すぐに笑みを浮かべた。


「でもいいわ。次は絶対ににがさない」

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