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異世界人が同僚になったようです。  作者: 戸塚たかね
第一章 ヒロイン不在なんですけど、キレていいですか?
3/3

第三話 他人になすりつけるのが上手いようです。

不定期更新です。

書き溜めがないので投稿間隔がまばらです。

 宮殿をでて少し歩くと、宮殿と城下町のちょうど中間、台地の中腹が削り取られそこに慎ましやかな土地が広がる。でっかい階段の踊り場的な立地だ。

 この台地の中腹の土地は、高級住宅街になっていた。道行く人々の装いは豪奢で、沢山の従者達を引き連れている。

 リョウスケに用意されたのは、宮殿に負けず劣らない豪華な邸宅だった。ただし、この高級住宅街の外れにあり、高い木々で囲まれ、まるで隠されたようになっているが。

 オッサン兵士――リシャールといったか。そいつを筆頭にフルフェイスの兜をつけた何人もの兵士に囲まれてリョウスケは馬車で邸宅へとやってきた。



「まるで犯罪者の護送だな……」



 小窓から外の様子を伺っていると、兵士に囲まれたリョウスケの乗る馬車を身なりのいい人間たちが戸惑いがちに見ている。何を言っているかは聞こえないが、何かヒソヒソと話している様子も見受けられた。

 しばらく小窓から外を覗き込むように様子を見ていると、脇からにゅ、とオッサン兵士ことリシャールがリョウスケの顔の前に手をだしてきた。正しく言うなら、小窓と顔の間に。



「猊下。恐れ入りますが小窓にお顔を近づかないでいただけますか?」

「何でだよ」

「狙撃の可能性もゼロではありませんので」

「狙撃!?」

「馬車の外壁には一部金属が使われておりますしそもそもの作りが頑丈ですので矢を通すことはありませんが、小窓は普通のガラスですので狙撃されたらお顔に刺さりますよ」



 と、憮然とした表情で言ってくる。

 リョウスケは慌てて小窓から顔をはなして背中をピッタリと背もたれにつけた。



「お、俺狙われてんのか?」

「さぁ……今のところそういった情報は入ってきておりませんが。何故です?」

「だって今お前狙撃の可能性もあるって!」

「ゼロではないと言っただけです。そこから矢を射られたら入ってきてしまいますよということをお話させていただいただけです」



 リシャールは涼しげな顔でいう。無精髭も映えてるし、外のフルフェイスのピカピカの鎧を来ている連中よりも薄汚れた感じだが、そもそもなぜこの男が馬車内にいるのか。リョウスケにはわからなかった。

 二人のやり取りをみて、リョウスケの眼の前に座る爺さんがリシャールに話しかける。



「リシャールよ、お前は相変わらず心配性だなぁ」

「心配性と言うより仕事が丁寧なだけですよ、サヴィヤルヴィ卿」

「そもそも馬車の小窓を撃ち抜くほどの矢の名手がおるかの?」

「実際以前一度ありましたよね?サヴィヤルヴィ卿。ご自身それで肩を射抜かれたことがあるのをお忘れですか?」

「ありゃ特殊な例じゃわい。タイロンの森の戦闘エルフ族一の弓の名手並の射手が皇都内にゴロゴロいてたまるかい。それにあれはわしが怒らせたんじゃ。自業自得って言ったのはお主じゃろ」

「居ないという保証はありませんのでね、一応ご説明まで」

「硬いなお主」



 リョウスケの眼の前には金糸を豪華に縫い込んだローブの白髪の爺さんは卿、と呼ばれてるくらいなのだから貴族だろう。リョウスケを門の外で迎えたうちの一人だ。横のリシャールとやけに親しげだ。全くもってこのリシャールという男の立場がわからない。

 リョウスケは意を決して聞いてみる。



「なぁ、アンタ。アンタってもしかして偉い人?将軍とか」

「自分ですか?全くそんなことはありませんが。ただの平兵士です」

「小隊長じゃろ、リシャール」

「春に新人が増えたので序列が繰り上がっただけですよ。そのうち新人が育てば晴れて小隊長も解任で平兵士に戻ります」

「へ、へぇ……じゃ何で、平兵士が馬車に乗ってんの?」



 リョウスケが問うと、爺さん――サヴィヤルヴィとリシャールが顔を見合わせた。



「猊下、この男は貴殿の護衛ですぞ?」

「有事の際猊下を逃がすために同乗させていただいておりますがそうですよね、小汚い平兵士は外がお似合いですね。自分は降ります」

「おい待てリシャール」

「皇都内ですし問題無いでしょう、サヴィヤルヴィ卿。此度の猊下は体裁をお気になされるようだ」



 と言って、サヴィヤルヴィが止める間もなくさっさと馬車を降りてしまう。動いている馬車を止めること無く、薄く扉を開けるとまるで空気のようにスルリと降りていく。途中で降りるくらいなら最初から乗らなければいいのに、とリョウスケが思っていると、サヴィヤルヴィがため息を付きながら頭をかいた。



「猊下。あの男は平兵士ではありますが腕は一流です」

「でも馬車に乗る必要は無いですよね?」

「表の兵士で止められない場合は中で交戦可能性があるんですよ。最悪、御者を乗っ取られることもあります。その場合中に一人いないとそのまま誘拐されることになります。一番腕が立つのがあの男なのであの男が同乗しておりました」

「でも平兵士なんですよね?」

「そうですが……」



 サヴィヤルヴィが歯切れが悪く言う。困ったというような表情をしていた。と言うより、呆れた、といった表情だろうか。

 リョウスケは知っている。この表情は散々家族に向けられてきた。

 異世界に来てもこんな眼で見られるのか。腹が立つ。とリョウスケは心のなかで思う。そんなリョウスケの思いを知ってか知らないでか、サヴィヤルヴィは苦笑交じりで言う。



「猊下、あの男――イェーゲルフェルトは出世欲がなさすぎるのですよ。ほとほと困った男です。生涯現役だかなんだか知りませんがね、アレは機転がものすごく効く男なのです。故に、護衛には適任なのですよ。わしも両手で数えられぬほどあの男に助けられております」



 そんなサヴィヤルヴィのつぶやきに、リョウスケはどす黒い感情を消す。どうやら先程の呆れ顔はリョウスケに向けられたものではなく、リシャールに向けられたものらしい。やれやれ、と頭を振り、話し続ける。



「上に行くと面倒だから、だとか上に立つような柄じゃない、とか色々言ってのらりくらりと交わしまくっているのです。しかも自分の功績を他人になすりつけるのがとんでもなく上手い上によほどの状況にならない限りだんまりを決め込む質でしてな。あの男がもっと積極的に自分の能力を使ってくれればこの国はもっともっと発展するのですが」

「はぁ……」



 功績を他人になすりつける、という言い回しは聞いたことが無い。一体どんな男なのか。

 サヴィヤルヴィは好々爺然とした笑顔を顔に浮かべ、リョウスケをまっすぐに見る。



「というわけで猊下。猊下のお知恵とお力であの男をやる気にさせてくださいませ」

「は?」

「期待しておりますぞ、猊下!」

「えぇ!?」



 ニッコリ、とサヴィヤルヴィが笑う。どうやら老人の中では決定事項らしい。

 そもそもそんな癖のある人間をリョウスケがどうにかできるのか。異世界人としてのチートがあると言っても、リョウスケはまだ十代だ。対して相手はおそらく四十代。それもただの平兵士かとおもったらそうでもないらしい。しかも能ある鷹は爪を隠すどころか話を聞いたところから想像するに恐ろしく頭が良い。そして、怠惰だ。果たしてそんな男をリョウスケが御することができるのか。いや、無理だろう。

 リョウスケの想像していた異世界生活とは斜め上な方向へと事が走り始めていた。

 前途多難である。



 * * *



「あれ、リシャール。降りてきたのか?」



 馬車から降りてきたリシャールに、フルフェイスの兵士の一人が視線だけよこしてそういった。



「いやぁ、あれ以上中にいたら猊下様を殴っちまいそうでね」

「なんで」

「バカな上に態度悪くって」

「あぁ……」



 リシャールが深い溜め息を吐きそのままフルフェイスの兵士たちの隊列に溶け込むように加わった。他の兵士たちもリシャールが隊列に入ったことを特に咎めず、変わらず馬車を囲んで行軍する。



「いやー、本人希望じゃないのに着いて早々宮殿追い出されるってことは使い物にならん異世界人ってことは察しがつくけど、それほどか」



 表情は分からないが、声だけでわかる。兵士はやれやれ、とでも言いたげだ。

 リシャールもそれに合わせてため息をつき大げさに頭でもかきたいところだが、そうもできない。なぜなら、あれだけ窓に顔を近づけるなと言ったのにあの異世界人――リョウスケが小窓からこちらを伺っているからだ。

 先程より気を使っているのか、がっつりと覗き込む様子はなく、目の当たりだけでこちらを見ている。だが、目が出ているということはその上、額部分まで出ているわけであって。



「なぁ、リシャール。猊下が小窓から頭出してるんだが」

「見るな見るな。バレてないと思ってるんだろう。それに一応注意した。あれで額を射抜かれても俺は知らん」

「知らんってお前……猊下付き騎士になったんだろ?それになんだその装備。壊れた革鎧なんて。装備代なら経費で落ちたろうに」



 フルフェイスはうぅん、と唸ってリシャールを見る。

 革の鎧はまるで燻されたように煤けた黒色をしており、関節の部分部分にしか着いていない。通常の革鎧なら胴体を覆うように広い面積が取られているのだが、リシャールのつけた革鎧は前面部分、それも脇腹をカバーできない程度のもので腰板もない。腕には金属の手甲、足には同じく金属の足甲をつけているようだがどれも微々たるもので重装備ではない。



「いや、新調したよ。それも特注で。しかも注文した加工がおもったより難しくて結構高かったわりに見た目が地味だから上からどやされたけどな。ちゃんと説明してなんとか経費で落としたよ。経費で落ちなかったら俺は二ヶ月飯抜きだったわ。それにこれから糞暑い時期が来るのにフルプレートアーマーなんて着てたら蒸し焼きになっちまう。馬鹿だ」

「俺達はフルプレートアーマーなんだが……?」

「俺と違って単身行動じゃないし宮殿護衛で内勤だからいいんじゃないか?真夏に暑さにやられてぶっ倒れないようにな」

「お前ホント変わってるよなぁ」



 飄々としたこのオッサン、リシャールには様々な逸話があった。

 サヴィヤルヴィ卿とよくつるんでいるからか、実は王族の隠し子だとか貴族の隠し子だとか、はたまた実は貴族そのものだとか。出自だけではない。彼は平兵士なのだが有能な新人がはいると必ず彼が小隊長に繰り上げになって有能な新人たちが彼の下につく。そして異例の出世をとげるのだ。それもとんでもない戦果を上げて。そのくせ本人は目覚ましい結果も残しておらず、未だにうだつの上がらない感じだ。

 何を考えているのかわからないこの男は軍内でも気味悪がられている。同僚との付き合いも薄く、貴族に重宝されているというよりサヴィヤルヴィ個人とだけ仲がよく、だが軍上層にはやたら気に入られている風で、上層情報にも詳しい。

 そこへ、今度は異世界からやってきた猊下付き騎士になった。はっきり言って、どういう立場なのかわからないから同僚たちからも嫌煙がちだ。

 とは言え今回ばかりはまたまた事情が違うのであったが。



「それにしても今回の猊下はそこまでなのか?四日で追い出しなんて聞いたこと無いぞ。それとももう上層部を掌握して自由行動か?」

「人心掌握なんて出来てるわけ無いだろ。上からは役立たず通告だな。ていうか当たり前だろ。十代だぞ?お前十代のころどうだった。天才級に頭良かったか?強かったか?」

「いや、まぁ……大したことなかったけど」

「いくらこの国とは違う未知の新技術を使う国の出身だからってガキに何がわかるってんだよ。お前アレの掘り方一から十まで知ってるか?もちろん上の部分も含めてだぞ」



 そう言ってリシャールがアレ、と親指で指したのはなんの変哲もない井戸。だが上級区らしくとても頑丈かつ美しく作られているものだ。

 だがこれも生活用水ではない。道の脇に建てられたものは生活用水というより防火の意味合いが強かった。それもかつての異世界人が技術を伝えたという手押しポンプ式だ。鉄を多く使うため一般家庭には広まっていないが、こうして主要な街の要所要所に防火用として設置されている。元は異世界人が広めたものであるが、今では普通に使われている。この国、この世界の技術だ。



「いや、知らんが……」

「だろ?俺も知らん。そもそも役に立つ専門知識なんてもんはそれなりに歳行ってないと身につかねぇよ。ガキに何求めてんだか」

「猊下をガキ呼ばわりはやばくねぇか?」

「なぁに本人に聞こえなきゃ大丈夫だろ。実際ガキだしな。それに四日で王宮外通達だぞ?後ろ盾もありゃしねぇよ。話した感じ大分頭の暖かいバカだしな」

「ひでぇいいようだ」

「俺は酷い男なんだよ」

「やだなぁ……」



 視線こそ交わさないがそんなようなことを二人で言う。

 仰々しい行軍も見せかけだけで内情はこんなもんだ。帝国は平和なのである。少なくともここ皇都リューンは。



 * * *



 一方その頃馬車の中では。



「で、サヴィ…何さんでしたっけ?」

「トマス・サヴィヤルヴィでございます。トマスで結構ですよ」

「トマスさん、俺が着たからには安心です。必ずや魔王を倒してみせましょう」

「はい?」

「ですから魔王を……」



 異世界転移してきたのだ。だとするなら転移してきたリョウスケは勇者で魔王討伐をしなければならない、というのがお約束ではないだろうか。

 そう考えて張り切ってリョウスケは目の前のトマス・サヴィヤルヴィに問う。

 サヴィヤルヴィは困った顔をして頬をかいた。



「えーと、魔族の王ということでしょうか?」

「そうです。魔王です」

「隣国は王が魔族ですが、交易も多く特に国家間で問題はありません。ので討伐なんてとんでもない」

「え、じゃあ俺がこの国の魔王のパターン?」



 いや逆に魔王に転生して魔王する場合もある。その場合は人間と仲良くして技術発展を任されるパターンか。だがそれもトマスの困惑気味な顔で打ち砕かれる。



「えー、猊下。この国は帝政でして、現皇帝陛下は人間族ですしお若いですので当分皇帝の座はあかないかと」

「じゃあ魔物の大量発生?」

「特に最近凶暴な獣が多くなったとも聞きませんし、猟師たちが適度に狩ってますから問題ありませんなぁ」

「大飢饉?」

「今年は豊作でして」

「隣国との戦争?」

「ですから、隣国とは安定した外交をさせていただいております」

「邪神爆誕とか」

「神話上邪神に分類される神はおりますが人間に仇をなすどころかそもそも降臨もしたことありませんよ。所詮神話ですから」

「不毛な台地の開拓とか」

「入植者が増えましたので順調かつ計画的に開拓させていただいております」

「じゃやっぱり魔王討伐…」

「隣国の魔王殿は虫も殺さぬほど穏やかなお方ですよ。種族差別はよくありませんぞ」

「じゃなんで俺を呼んだの!?」



 リョウスケは最後は叫ぶように言った。きっと馬車の外にも聞こえていただろう。

 サヴィヤルヴィに食って掛かるようにしていったが、サヴィヤルヴィは気に留めた様子もなく、ゆっくりと息を吐いた。



「……呼んでおりません」

「……は?」

「ですから、お呼び申し上げたわけではないのです」

「だ、だって俺は、あの時メールで」

「”めーる”と言うものが変換されませんでしたので何かはわかりませんが、そもそも我々は猊下のような異世界人をお呼び立てする方法を持ってはいないのです。ただ、時折王宮の中央の”門”に異世界からの旅人が現れるということを知っているだけでして」

「帰れる方法は?」

「門を意図的に開くことはできません。そもそもあちらへ行き来する方法が有りましたら、技術者を学ばせに行かせますよ」

「ハアアアアアアア!?」



 今度こそ、リョウスケの絶叫が馬車内、いや皇都内に響いた。


(´・ω・`)「都合よく転移先に自分が解決できる問題が起きてると思ったら大間違いだぞ、少年。ラノベの読みすぎだ」

( ´∀`)「オマエモナー」

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