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異世界人が同僚になったようです。  作者: 戸塚たかね
第一章 ヒロイン不在なんですけど、キレていいですか?
1/3

第一話 主人公は現地人のようです。

 異世界とこちらとをつなぐ通路のようなものが存在するとしよう。

 今はそれを仮に「ゲート」と呼ぶことにする。

 実際にはそれはゲート(門)の体はなしておらず、一方通行な通路のような性質を持っている。

 もちろん見た目も扉ではない。というよりその「ゲート」は「ゲート」と呼ばれる「場所」があるだけで、物質的な区別は無いのだ。空気である。空間である。

 どういう原理かは未だ解明されていないが、ともかく時折その「ゲート」を潜って異世界からこちら側にくるものがいる。

 ただ、どうもそれは異世界側で故意的に使用されているわけではなく、偶発的に作動するものらしく、こちらに来るものは誰もが用意なくこちらの世界に踏み込んでしまう。

 しかしそれでも、この異世界からの来訪者たちはこちらの世界とは全く別物の文化や技術を時折もたらすので、多くの国では歓迎されていた。

 これは特にその傾向が顕著な国での小さな物語。


 * * *


 ルクアシア帝国。

 領地自体は大きくはないが小さくもない国だが、世界で最も大きいヴァルトリア大陸の中では最も国力のある国の一つだった。

 理由は単純明快。他国に比べて技術力が圧倒的に高いのである。

 資源国家ではないにせよ、他国では加工できない無用の長物である資源を有益なものへと変える技術がある。その技術は門外不出で、他国には真似出来ない技術力が帝国の国力を強大にしていた。

 ではその技術力は一体どこから来ているのか。

 答えは明確。「ここではない別の世界から」だ。

 そんなわけでこのルクアシア帝国では異世界からやってくる人間を国賓としてもてなし、手厚い保証と地位を確立させることで他国への流出を防ぐ、といった方法をとっていた。一種の囲い込みだ。

 そんな異世界からの来訪者たちは自ら「珍客」であるとか「異世界人」と名乗ることもあれば、こちらの人間が「神の使い」であるとか「英雄」であるとか二つ名を名付けたりする。

 ちなみに俺は異世界人のことはたまたま来てしまった人間、「偶来人ぐうらいびと」と呼ぶことにしている。別に来たくて来たわけではない人間が大半だ。

 もちろん、来たくて来ている奇特な人間も中にはいるが…。


 * * *


「ジンジャー、そんなにひどいのか今回の偶来人は」


 石造りの室内。ベッドに小さい本棚に飾り気のない木製のテーブルセットと室内は簡素だったが、家主は違った。砂色の短い髪の毛に鍛えられた体躯、鋭いブルーグレーの目を持ち軍装に身を包む壮年の男は、盛大なため息とともにテーブルを挟んで目の前に座る老齢の男に問いかけた。


「お前さんは異邦人たちのことを偶来人……偶然来た人間なんて呼び方するが、ありゃ違うね。執念だよ。どうやったかしらんが、執念で向こう側の門をくぐったんだ」


 ジンジャー、と呼ばれた老齢の男は出された茶を飲みながら呆れた声でそういう。茶は出がらしのように薄い。しわくちゃの顔をもっとしわくちゃにして、ほとほと困ったという様子。そんな様子の老齢の男に壮年の男は「よせよ」と手をふった。


「そんなわけあるか。ゲートは一方通行だしこの国みたいに出口が固定されてるケースはあっても入り口は揺らいでいて存在したりしなかったりする曖昧なもんなんだろ?そういったのはゲート研究者のお前だろうが」

「今まで現れた異邦人たちの話や伝承、等々諸々を総合するとそういう結論だったが、もしかしたらあちらにもワシのような門の研究者がおるのかもしれんな」

「で、それが成功して来たのがアレだって?冗談じゃねぇ」


 言うと、壮年の男はむすりと不機嫌そうな表情を作って腕を組んだ。よほど気に食わないのだろう。


「ともかく、どうあがいてもお前さんは関わることになるんだから覚悟はしておいたほうがいいぞ、リシャール」


 老年の男に言われて、壮年の男――リシャールは今度こそ部屋のホコリが舞い上がるほどの盛大なため息を付いたのだった。

 壮年の男の名前はリシャール・グンナー・イェーゲルフェルト。歳は45歳。ルクアシアの軍人の一人だ。十数名からなる一小隊の隊長ではあるが質素な生活から見ての通り、薄給。大した地位にはない。

 対してジンジャーとよばれた老年の男――トマス・サヴィヤルヴィは御年73と歳こそ食っているものかつては英雄と呼ばれ、今もなお皇帝の相談役として君臨する現在進行系で名実ともに権力のある貴族。

 一見この二人はなんの接点も無いようだったが、何故かよく二人で一緒にいるのが目撃されていた。

 平軍人であるリシャールは基本的に宮廷内に用事がないため、宮殿内で二人がつるんでいることはないが、貴族であるトマスがやたらと軍の訓練場に顔を出しては、二人で楽しげに――ときには何か真剣に話しているのだ。リシャールはトマスを尋ねることはない。だがそれについて誰かが問うと、リシャールはただ「サヴィヤルヴィ卿にはお世話になっているので無下にはできない」と苦笑し、トマスは「アイツは見どころがあるんだ」とはぐらかす。軍の中では一種触れてはいけない話題の一つになっていた。

 例えばリシャールはトマスの隠し子であるとか、実はリシャールは身分を隠しているだけで有力な貴族なのではとか、まさか皇帝の一族に連なるものなのかとか。有る事無い事噂されている。

 もちろん真実は当人たちのみが知るところである。

 だが不思議は軍内部だけでなく、貴族たちの中でもそれが暗黙の了解となっていることだ。そして軍の者たちは、リシャールが宮殿へと呼ばれた今日この時この瞬間、その理由をなんとなく察したのであった――。




変更履歴

2016/11/25:改行レイアウト修正

2016/11/24:誤字修正(「由来出て」→「揺らいでいて」)

2016/12/12:改行修正

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