幼馴染みでボクっ娘の押しが、半端ではないです!
快晴に恵まれた一日の始まり。
スズメがチュンチュンと囀る中、学生服に身を包む俺は、いつものように勉学に勤しむため市営バスの停留所へ向かって歩いている。
するとーー。
「やぁユウト、今日もいい天気だね」
電信柱の陰から現れたのは、紺のセーラー服に袖を通した、ボーイッシュという言葉が似合う、大きな瞳が印象的な女の子。肩にかかるかかからないかだった髪の毛は、今ではその豊満な胸にまで伸びている。
「おっ、おはよう」
俺には物心がついた頃から一緒に遊ぶ親友がいた。そいつはご近所さんで幼馴染みという、この真琴の事なんだけど……。
いつからだろう?
昔は男女関係なく外で走り回って遊んでいたんだけど、すらりとした身体は気がつくと出るところは出、その、今ではかなりエッチな身体になっていると思う。
それに先ほどから甘い、良い香りが風にのり微かに届いている。
ボディーソープの香りかな?
真琴に対しドキドキしていると、俺との距離を一歩縮め、上体を屈め上目遣いでこちらを覗いてきた。
「良く眠れたかな? ボクはと言うと、実は一睡も出来ていないんだーー」
そう言い微笑むと、その柔らかそうな下唇に人差し指を押し当て、続ける。
「嬉しくてね」
俺はそんな真琴の事を、今では完全に女の子として見ていて、……いつからかは分からないけど、気がつけば大好きになっていた。
昨日の放課後。
真琴に校舎裏へ呼びだされていた。
そんな人気のない場所に女の子と二人きりで会うのもなんだか恥ずかしいのに、その相手はあの真琴だ。
変な態度をとって嫌われないよう、俺が妄想しているような事は、何も起こらないと自身に言い聞かせた。いつもと同じように接するよう、心を落ち着かせるために深呼吸も果てしなくした。そして待ち合わせ場所に向かったのだがーー。
待っていたのは、なんと告白!
好きな子からの、愛の告白である!
もちろん即オッケーを出したし、俺もずっと好きだった事、またその想いを言えばこの親友と言う関係も壊れてしまいそうで臆病になってしまってた事を、一生懸命に伝えようと頑張った。
するとまだこちらが話している途中だったのだけど、突然抱きしめられた。
熱を帯びた柔らかな真琴の身体が、ギュッと棒立ちになってしまっている俺の身体に押し当てられる。
今、どう言う事になっているのか、頭が理解をした時には、既に心臓の音がばくばく鳴り響いてて、完全に手に負えない状態。
とても恥ずかしかったけど、でも真琴の心臓も俺と同じくらいばくばく鳴っている事に気付き、なんだか嬉しかった。
そして抱き合ったまま、真琴の顔が近づいてきてーー。
「まっ、待って真琴、そそそれは、まだ早すぎると思う! 俺たちはいま、そう、いま付き合いだしたばかりだしーー」
すると真琴はキョトンとした表情になり、暫くすると両の瞳を閉じ眉間にシワを寄せ逡巡してみせたのち、その大きな瞳を開いて八重歯を覗かせた。
「そうかい、わかったよ。ボクも少し気持ちが高ぶってしまって、たしかに急ぎすぎたかなと思うよ」
真琴との距離を保つべく、彼女の両肩に手を置いているのだが、くの字に曲がってしまっているのでまだ抱き締められているままである。
そのため真琴の顔は目と鼻の先と、息がかかる程のとても近い場所に。
「お互いに初めてだからね。それと最後までするのもまたの機会にするよ」
「さっ、最後までするつもりだったの? 」
「そうだよ、ボクらは相思相愛のかんけいだからね。年も高校二年生と、初めてを経験していてもおかしくない年齢でもある。しかも互いの気持ちも確認し合ったんだから、そうなるのは至極当然の成り行きだよ」
「いや、でも、俺は真琴の事を大切に思ってるし、その、まだ心の準備が……」
「その気持ちは嬉しいな。でもボクはずっとキミを見てきたし、そうなる事をずっと願ってきた。でも無理矢理は良くないよね。一人で慰めるのは虚しいだけだけど、今回はしょうがない。なんてったって告白が成功しただけでなく、キミの気持ちも知れたわけだからボクは満足する事にしたよ」
そう言うと身体は離れたが、代わりに手を握られる。
とても柔らかい。
そして指を絡めての、恋人繋ぎだ。
「でもできたら、このままで帰りたいな」
下校時間帯が過ぎたとはいえ、部活の生徒はまだ練習に明け暮れてるし、ホームルームが長引いたクラスの生徒たちはちょうど遅い帰宅を始めた時間帯である。
手をつなぐのは嬉しいけど、やはり恥ずかしさが勝ち、抗議の意味を少しだけ込め真琴を見やると、彼女は妖艶な笑みを浮かべて見せた。
そしてその艶やかな唇が開く。
「ボク達の関係、付き合っている事をみんなに知らせるんだ。キミはそう言うのに鈍いから全く気付いてないみたいだけど、その可愛い外見や仕草のため、狙ってる女子は大勢いるんだよ」
そこで言葉を区切った。
そしてもじもじしながら、上目遣いで見つめてくる。
「ダメかな? ……本当は、こうして繋がっていないと、ボクは得た幸福を失う不安で押し潰されそうなんだ。でもキミが嫌なら、諦めるけど……」
こうして空が夕焼けに染まる中、終始ドキドキしながら真琴と手を繋いで帰る事になった。
でもそのまま知らない大人達に混じりバスに乗るのは恥ずかしすぎたし、当初の他の生徒達に見せつけるという目的から逸脱していたので、学校前のバス停に着く頃には手を離して貰っていた。
そして現在、家近くのバス停に向かう途中であり、大通りに出るための小道を並んで歩いている最中である。
手はと言うと、例のごとく指を絡めて握りあっているのだが、ゴミステーションに向かうご近所さんであるおばちゃんが、まあっと言った顔をしたあと朝の挨拶をしてきた。
真琴がハキハキと挨拶を返す中、自分でも顔から湯気が出ているのではというぐらい顔が真っ赤に染まってしまっているのがわかった。
やはりこの手を繋ぐという行為は、それだけでも恥ずかしいのに他人にも見られる機会も多いため、かなりの勇気がいるものである。
それとこのままバス停に着いたら、真っ赤な顔のままバスで揺られる羽目になる。
今の内から、少しでも冷ましておかないと。
大通りに出たところで、思い切って真琴の前へ回り込む。
「まっ、真琴! 」
「わかったよ、ボクはキミに苦痛を味あわせたいわけではないからね」
何も説明をしていないのに、すぐに手を離してくれた。
「でも少しでも繋がれたおかげか、ボクは少し満たされたよ。それと安心をして欲しいから言うけど、今から放課後までは、イチャイチャしたい気持ちを我慢するから。実は昨日あれから色々考えたんだけど、そうした方がいいような気がしだしてたんだ。……でも、その後、帰ってきたら、久々にキミの部屋に遊びに行ってもいいーー」
その時だった!
大通りの対向車線から大幅に逸れたトラックが、歩道を歩く俺たちに向かい突っ込んで来ているのが見えた!
このまま行けば、俺たちは車に轢かれる直撃コースなのでは!?
そしてそこからの映像は、スローモーションでコマ送りをしているように見え始めた。
真琴は身体ごとこちらを向き、また俯いたままこちらに話しかけているため、その迫る危機に気がついていない。
そして咄嗟に、無意識の内に動いていた。
俺の異変に気付いた真琴が顔を上げると、迫るトラックの方へ振り返ろうとしている。
その状態の真琴を、俺はトラックの正面から無理矢理押し出すようにして突き飛ばした。
全身に衝撃が走る。
視界が強制的に動かされる。
そして満天の青空を見上げるような形で視界が固定された後、意識が遠のいていった。
◆
ここはどこだ?
目を見開くが、見渡す限りの闇。
思い出せない、さっきまで何をしていたのかを。
「おはようございます」
その時綺麗な声が響いた。
そして一筋の光が射し、目の前に佇んでいる女性の姿が露わになった。
率直な感想、女神様かと思った。
透き通る艶やかな白肌に、目鼻がくっきりとした相貌。手櫛でも引っかかる事がなさそうな桃色に染まるサラサラヘアーは、純白の衣服に包まれた胸元まで伸びている。
「女神様、ですか? 」
あまりの神々しさに、咄嗟に出てしまったバカバカしい質問。言った後で自分でも恥ずかしくなる。
しかし答えはーー。
「最近の皆さんは、ほんと物分りが良くて助かります。でしたらどのようにお亡くなりになられたかは、覚えてらっしゃいますか? 」
亡くなる?
誰が?
そこで記憶が蘇る!
トラックがスローモーションで迫ってくる記憶が。
俺はそこで、真琴を突き飛ばし、轢かれたんだ。
そしたら今の俺、死んじゃったって事?
いや、そんな事よりーー。
「教えて下さい! あいつは、真琴は無事なんですか? 死ぬ直前に、俺が突き飛ばした女の子の事です! 」
すると女神様が、一つ咳払いをした。
「さて、あなたは失くした命を私に拾われたわけですが、それがどういう意味だかわかりますか? 簡単な事ですよ? 」
「女神、さま? 」
女神様は何を言っているんだ?
俺はただ、真琴の安否が知りたいだけなのに。
「おやおや、急に物分かりが悪くなられてしまわれたようですね、……面倒臭いです。では簡単に説明しますので、よく聞いてて下さいね」
この人は、ラノベとかに出てくる、チートをくれる女神じゃないのか?
「あなたは死にました。そして星へと帰る寸前に、拝借してきました。そしてあなたの肉体の時間を巻き戻し、今に至るわけです。つまりあなたは、私のモノなのです」
そこで女神は、こちらに向かいビシッと人差し指を突き出した。
「そしてここからが本題! これから今までとは別の世界、魔法が存在する私の世界に足を踏み入れる事になります。そこで、ある物を調達してきて貰う事になるのですが、それを手に入れた瞬間ミッションクリアとなりますので。ちなみに成功した暁には、望む物をなんでも与えましょう」
望む物を、なんでも……。
俺が望むモノはーー。
「あっ、ただし、皆さんが言うような、チート能力とか言うのはありませーー」
その時、空間が震えている気がした。その震えは次第に酷くなってくる。
「こっ、これは、何事なんですか!? 」
明らかに女神が狼狽の声を上げた。
そして突如として震えが収まった時、女神の向こう側の暗闇に、紺色の制服に身を包んだ少女がいる事に気がついた。
あれはーー。
「やあユウト、探したよ」
こちらから見えるように、女神の陰からヒョコッと顔を覗かせたのは、あの真琴だった。
「キミを追いかけて来たんだ」
「追いかけてって、……もしかして真琴も死んじゃったの!? 」
「ボクはこの通り、ちゃんと生きてる人間だよ」
そう言うとその場で回転をして見せたため、スカートが遠心力で浮き上がりその奥にある聖域が見えそうになったため、急いで視線を逸らした。
「でもキミに助けられたのは二度目だね。前回はまだボクの力が弱かったから、探し始めれるようになるまで時間がかかりすぎちゃって、結果見つけ出すのに途方もない時間を使っちゃったわけだけどね」
その時、女神がずいずいっと真琴の方へ歩を進め、腰に手を当て仁王立ちになり止まった。
「お前は何者なの? なぜ人間がここに来られるの? 簡潔に答えなさい! 」
「うるさいな、ボクとユウトの邪魔をするなら、ただではおかないよ? 」
真琴と女神が真っ向から対峙する図となっている。
「……どうやらここに来た以上、ただの人間ではなさそうですけど、私を、あの螺旋の王族の流れの存在と知っても、そんな事が言えるのかしら? 」
「そんな事がどうかしたの? もしかしてそれって、自慢のつもりなのかい? 」
「……もういい、消えろ! 」
「やれやれ」
女神が凄い形相で真琴を睨む。
すると空間が歪みチクタク音を立てる時計が早回しでグルグル動くような音が鳴り響き始めた。
対する真琴は、右手を女神に向かいスッと突き出したかと思うと、何事も無かったかのように、俺の方へと歩みを始める。
「ぐっ……」
女神が両手で胸を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
そして空間の歪みや異質な時計のような音はなくなり、元の何もない暗闇の世界へと戻っていった。
「その程度じゃ消滅しないよね? でもいいねこの空間。前の世界ではボクが力を使うと簡単に歪んでしまいそうでフラストレーションが溜まってたから、結果この場はいい息抜きになったかも。まあこの肉体では、この程度の力しか使えない、と表現する方が正しいんだけどね」
そんな真琴が俺の目の前までくると、立ち止まりモジモジしだした。
「その、さっきは死なせてしまってごめんね。言い訳になっちゃうんだけど、実は会った時に言うセリフとか決めてて、でもキミを前に話してたら歯止めが効かなくなって、自分でもなんか大胆発言してるなと恥ずかしくなってきちゃってーー」
なんだか、いつもの真琴で可愛い。
「俺はーー、真琴が無事ならそれで満足だよ」
真琴が頬を朱色に染めながらも、にっこり笑顔を見せる。
「キミのその優しさは、存在が変わってしまっても変わらずだね」
「存在が変わっても? 俺は転生して今の俺なわけ? それに前の俺は、真琴に逢ってるの? 」
「そうだよ。キミは己の身を犠牲にして、力を失った上で脆弱な人間に転生する羽目になると知ってても、以前のボクを助けてくれたんだ」
真琴は遠くを見るような目で、俺の顔を見つめている。
「話がよくわからないけど、真琴にまた会えたのは本当に嬉しいな。それと、ありがとう。なんだか助けたつもりが、助けられちゃったみたいだしね」
「いいんだよ、ボクはこれからずっと、ずっとずっとキミに恩返しをしていきたいと願ってるのだから」
真琴はそこで、俺の身体を舐め回すように視線を下から上へと這わせていく。
「……それよりさ、人間になったキミは本当に美味しそうだよ。正直に言うけどさ、他の女の子と比べて、ボクのこの人間の肉体は少し、ほんの少しだけ、その、旺盛のようなんだ。……初めてだからテクニックはないだろうけど、その分頑張るからさ、今すぐ食べたら、ダメかな? 」
「食べるってどう言う意味なの!? そっ、それよりさ、これからどうするの? 」
真琴はご馳走を目の前にした猫のような表情を改めると、顎に手を当て考え始める。
「出来たら元の世界に戻りたいけど、生憎ボクは精密な力の使い方を苦手としているんだよね」
「そしたらあの蹲ってなんだか薄くなってしまってる女神っぽい人に、お願いするのは? 」
すると真琴から、盛大にため息を吐く音が聞こえた。
「あれはダメだよ。どうせキミを引っぱって来たのもBOXに入ったクジを引くような感じのたまたまだったろうし、連れてくるやり方が完全に盗っ人だから信用にも欠ける」
女神っぽい人ならぬ盗っ人さんは、そんな俺たちのやり取りを聞いてかどうかわからないけど、心なしかさらに薄くなったような気がした。
あとそれに合わせて自身を射す光も弱まってるっぽい。
「だからね、いっその事、この盗っ人さんの世界でのんびり暮らしてみるのはどうかなと思ってるんだけど、キミはどう思う? 」
「そうだね、地球に戻る手掛かりがあるかもしれないし、兎に角どんなところか行ってみてから考えてもいいかも」
「決まりだね」
そこで真琴が、言いにくそうにまたモジモジし始める。
「そこでお願いなんだけどさ、キミが望む事で出来る事は、これからなんでもするからさ、その、良ければなんだけど、キミの、キミの子供を身ごもってみたいんだ。この身体だとそれが出来るからさ……」
「こっ、子供を作る!? ……でもそれって、ようは結婚するって事、だよね? 」
真琴は弱々しく、聞こえるか聞こえないかのか細い声で『うん』と言った。
「結婚は、いっ、いいけどさ、その子供と言うのは、……今すぐにはちょっと。……物事には順序があると思うからーー」
「わかってるよ、今はこれで我慢するから」
そうして抱きしめあった。お互いの肌と肌を擦り寄せるようにして密着させ、腕と脚も絡ませて。
満たされていく想いと、もう離したくないと言う満たされない気持ちが天秤に揺れていく。
そうして確かめるように暫く抱き締め合っていると、不意に真琴と目が合った。
「真琴、ちょっといい? 」
「うん? 」
「これからさ、何が起きても、ずっと一緒にいようね」
返事の代わりにコクリと頷く真琴。そして互いに顔を寄せ合う。
最初は唇を軽く彷徨わせるようにして触れ合わせていたけど、すぐに抑えきれない気持ちがいっぱいになり、気付けば強く、強く強く唇を重ね合わせ続けていた。