表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第一章 深き森の始まり


 中学から今にいたるまで、俺はファンタジー小説や漫画など

 中二病的な何かに影響されて生きてきた。

 けれどそれは現実では起こりえないことで、実際魔法とか剣とか見たら

 多分小心者の俺は逃げるだろう。逃げれる自信も無いが、とにかくその場から

 逃れようと動くだろう。小説の主人公やヒロインのように英雄的に勇敢に

 誰にでも頼られるような行動は俺にはきっとてできない。そもそも異世界にいける事

 など現実的に起こるはずもないのだ。そんな立場に立たされることも無いはずだった。

 だがそれは半年ほど前の話だ。今俺は、剣を握り、一人の男と稽古をしている。


 片手に握られる剣はひどく重い。

 

「自身の命を守るのに重要なのは何だと思う?」


 長い赤髪と紅蓮の瞳をした40代半ばの男。

 全身は灰色のローブ姿で男の腕は太く、多くの傷が目立って見えた。


 

「逃げる事ですか? 師匠」

 

 師匠と仰ぐこの男、半年前俺を背負っていた男。

 この世界が異世界だと知って、そして俺自身が昔の俺とは似ても似つかない姿

 で幼い子どもの姿をしている事を知ったあの日、俺はこの男の弟子となった。


「逃げる? 確かに逃げる能力は必要だ。だが最も必要なのは

 己が最強と呼ばれるほどに強くなることだ」

「最強……ですか? 師匠はどうなんです?」

 

 この半年間、俺は毎日のように師匠に剣を教わっている。

 この世界には4つの大国が存在し、ここはアローガルと呼ばれるローディアス王国の

 一隅に存在する町だ。毎日のように剣を交えたけど、実際のところ師匠が強いのか

 弱いのか、それはわからない。本気で剣を振るうところを見たことが未だに無いのだ。


「10年後、相も変わらず師であり弟子であり続けたのならば俺の強さがわかるだろう

 ま、それでも俺の強さに気づけなかったらお前はその程度の人間だった

 ってことだ」

 

 師匠はそう言うと素早く剣を振りぬいた。

 剣は風を切り、中空をに音が響く。

 瞬間腕に握られた剣が弾かれ、背後の地面へと跳ね上がりながら転がった。

 

「っつ……10年とか全然自身ないんですけど」

 

 弾かれた剣を見据えながら俺は師匠に視線を向けた。

 師匠は冷めた目つきでこちらを眺め剣を鞘へとしまうと溜息をついた。


「はぁ、私の元である程度修行をしたはずなのに、剣の基礎である姿勢すらも

 まともに維持できないとは、本当に才能の無い子だ……これは考える必要があるな」

「すみません……」

 

 基準となる体力は最初からある程度あった。そもそもこの体は俺がこの世界にやってくる前から存在しているらしく、10キロ走っても昔のように息が上がるということはなかった。だが、筋力は歳相応の物しかなく、剣をあげるのはいつも苦労する。

 鉄アレイを何個か持っている感じの重みで一振りするのも一苦労だ。

 師匠はそれを軽く片手で持ち、空を裂く。


「そうだクロウス、お前森は好きか?」

「森ですか?」

 

 森といえば呼吸を楽にしてくれる空気の良さ。さらには夏場は涼しく

 冬場は幻想的な風景を覗かせる。息をすれば心が癒やされ一息つくことができる。

 昔は近所の公園によく気晴らしに出かけたものだ。

 

「森ですか?」

 

 何故そんなことを聞くのだろうか、師匠の顔を伺うようにして覗き込むと

 男は口元を手のひらで隠し、何かを考えるような姿勢を取った。


「好きか嫌いかと言われると好きな方ですが……それが何か?」

「そうか~好きか」


 師匠は笑う。

 

「師匠?」

「そうか、好きか……フハハハ」

 

 そう言って師匠は庭園を後にした。

 その夜、俺の部屋の扉が音もなく開かれた。

 赤色の、獣のような姿をした怪物。

 目は赤く、口もとには牙すら生えていたかも知れない。

 そんな化物が俺の部屋に現れる。

 そして怪物は言う。


「死ぬか生きるか、お前の命がどの程度の価値があるのか試すときが来た。

 行くぞ、クロウス」

「え?」

 

 俺はその日の事を決して忘れない。

 あの、死にほど苦しい日々の始まりを俺は決して忘れはしないだろう。

 推定年齢7才の俺にはこの試練はとても、とてもつらく、そして苦しいものとなった。

 

 ローディアス王国歴327年、アレングローラ帝国暦657年、エルロア聖国歴411年

 ゲルディア王国歴116年、4つの大国が微かに動き出したその年、俺は森の中へと

 ほおりこまれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ