プロローグ
俺の名前は綾波・紅狼
大学を中退してプー太郎生活を何年か過ごし気づけば24才を迎えていた。
そして気づけば周りの連中は学校の先生やサラリーマンになっていて、同窓会で
あった同級生たちはみんなキラキラきらめいて見えた。
眩しくて遠い存在で、手の届かない人たち。
無性に家に帰りたくなった。
情けなくて、それに自分にも自信がなくて。
何をやっても中途半端で、何からも逃げてきた。
人付き合いも、勉強も、ありとあらゆることから目をそらし
ありとあらゆる事柄から逃げた。
今日もまた俺は逃げる。
どうせ、彼らは俺がいなくなったことなど気づかないだろう。
俺なんて道に生えた雑草程度にしか認知されていない。
俺は同窓会に来たことを後悔しながら会場のホテルを飛び出した。
ちらつく幾つもの雪。
雪は路上に降り注ぎ、そして路面の熱によって溶けていく。
「あいつらカッコ良かったな~それに比べて俺ってなにしてるんだろう……」
何年も適当にバイトしてやめて、またバイトしてやめる。
なんの成長もなく、なんの変化もなかった数年間俺は
いまだに子供のままだった。
大人、子供。
20歳から大人だという人がいるが、実際はそうではない。
多くの人々と出会い、多くの経験が人を人格者へと、大人へと成長させるのだ。
俺はそういった点ではいつまでも子供だった。
駄目な人間で、何をやっても本当に何をやっても続かなかった。
幼いころ大人たちは未来のために俺たちに道を示そうとしてくれたが
俺はそんな大人たちの声を無視し続けた。俺は道を完全に踏み外していた。
もしもう一度人生をやり直すことが出来るのなら、俺は
幼い子どもに戻りたい。あの頃に、そしてあらゆることに挑戦したい。
恋がしたい。友達がほしい。もっと勉強してもっと良い生活がしたい。
とにかく今までの俺が出来なかったことを悔いなくやってみたい。
星々が並び流れる空を見据えてなんとなくそんなことを思った。
そして一つの星が流れる。
青い綺麗な光。
「あ……流れ……」
その声と同時に急ブレーキの音が俺の耳へと飛び込んできた。
瞬間、体が中を舞う。数秒後、薄っすらと車のヘッドライトが見えた。
中から人が出てくると、慌てふためいたようにこちらを見据え、すぐに
その影は車に乗ってどこかへ行ってしまった。
「……」
声が出ない。
体が重い。
何故だろうか、ひどく眠たい。
瞼が自然と降りていく。
…………
……
それからどれほどの時間が経ったのだろうか。
俺は眠りから覚めるようにして、おぼつかない意識の中、目を覚ました。
「あれ……」
先ほど見えた車も道路さえも俺の視界には写り込まなかった。
そこは、病室のベットでも自宅というわけでもない。
その場所は誰かの背中の上だった。
赤い髪をした誰か。
その誰かは俺の声に反応し声を放つ。
「まだ寝ていろ。国境は後もう少しだ。このサウラ砂漠を超えれば
我々を追う者も、もういないだろう。だからまだもう少しだけ眠りなさい」
男の言葉に俺はなぜか従ってしまった。
体が重い。眠い。それに寒い。
冬の季節に薄着で歩いているような感覚。
冷気が皮膚を挿した。
でも、俺を支える誰かの背中はとても暖かく、何故かとても心地の良いものだった。
俺は再び目を閉ざす。