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ありのまま

作者: 創牙

 ありのままって何だろう?

 ある日ふと思った。

 ありのままっていうのは言い換えればあるがまま、つまり自然の状態ということだ。

 自然の状態、自分らしさ、個性。

 僕にはありのままがない。


「ちょっと――――――」

 高級な香水の香りがした。

 綺麗な女性が顔だけを覗かせる。鴉みたいな真っ黒なドレスに身をつつんでいた。

「私これから出かけるから。ディナーはいつも通りね」

「はい、お母さま」

「じゃ、いってきまーす」

 バタンと扉が閉まる。僕はホッと息を吐いた。


 僕は礼儀正しく大人しく、両親の言うことを何でもホイホイ聞く大人のミニチュア。

 もちろんこんなの僕じゃない。


 電話が鳴る。

「もしもし、どちらさまですか?」

 灰色の髪の女性が出る。エプロンを身に着けたその腰は曲がっていた。

「お坊ちゃま、お電話ですよ」

「誰から?」

「お坊ちゃまのクラスメイトからでございます」

 加藤さんって人、と彼女は付け足す。

「えー、出たくないよぅ。今はいないって言ってよぅ」

「ダメですよ、お坊ちゃま。ほら、ほら」

 渋々受話器を受け取る。


 僕は甘えっ子で人見知りで、この老女の孫のような存在。

 これも僕じゃない。


「もしもし、もしもーし。おっ、やっと出たか!相変わらずお坊ちゃましてるねぇ。金持ちはいいなぁ」

 どのクラスにも一人はいそうな、元気な男子の声。

「加藤君・・・・・・どうしたの、こんな時間に」

「んっ?あー、いやぁね、我らが学級委員長様に是非とも明後日提出のレポートを見せていただきたいと思いまして・・・・・・」

「いいよ。明日持っていけばいい?」

「うおおおおおおおおっ!マジサンキュー!さすが学級委員長!!」

 バイバイと言って電話を切る。僕は溜息を吐いた。


 僕は優等生で真面目で優しく、誰からも慕われる学級委員長。

 違う違う、僕はこんなに出来た人間じゃない。


 夕食後。

 僕は大きなベッドに寝っ転がるとスマホを見た。


 闇乃『加藤ってやつ、マジうぜぇ。死ねばいいのに』

 闇乃『あーダンプに撥ねられて死なねえかなぁ』

 闇乃『つか、いっそ殺すか?www』

 闇乃『加藤 健 16歳 男 県立A高校1‐B19番 サッカー部所属 元中は・・・・・・』

    リン:to闇乃『何コレ、キモwww』

    闇乃:toリン『うっせぇクズ死ね』

 闇乃『田中 凛 25歳 女 OL HNはリン 

    ↑この女クズwww』

  ―――――リンさんにブロックされました。―――――

 闇乃『これから加藤健を殺しに行きます。俺は本気です。ナイフだってちゃんと用意してあります。今日    中に殺します』

      86リツイート 102お気に入り

    春子;to闇乃『コイツ何言ってんの?』

    かず;to闇乃『ばかじゃねえの』

    ずんだもち;to闇乃『どうしたのかな・・・・・・』

    ヒュー:to闇乃『お前こそ死ね』

    リイと;to闇乃『ほっとけよこんな奴。構うだけ無駄』

    かず:toリイと『それな』

             ・

             ・

             ・

             ・

 通知音が鳴る。

「おっ、本人登場」


    カトケン;to闇乃『あの・・・・・・俺、あなたに何かしましたか?もし何かしてしまっていたなら謝ります。ごめんなさい。だから、こういうこともうやめてください』


 適当に文字を打ち込む。しばらくして送信しましたの文字が流れた。


    闇乃:toカトケン『絶対殺す』


 これが僕?いや違う。そんなわけない。

 こんなの僕じゃない。絶対僕じゃない。


 スマホを投げて布団にくるまる。自分が怖かった。


 ありのままの自分ってなに?本当の自分ってどれ?

 わからない。もうなにもわからない。

 

 誰か、助けて・・・・・・・


 

 またも通知音。今度はどうやらクラスメイトからのようだ。


 遥『どうしたの?』

                         『どうしたのってなにが?』

 

 ドキッとした。まさか・・・・・・。


 遥『加藤くんのこと・・・・・・』

                         『えっ・・・・・・』

                         『ど、どうして・・・・・・?』

 遥『私、ずんだもちって名前でやってる

   んだけど・・・・・・』

                         『そ、そうだったんだ』

 遥『ねえ』

                         『あ・・・・・・えっと』

                         『あ、母さんが呼んでる』

                         『晩ご飯の時間だ』

                         『ごめん』

                         『ちょっと行ってくる』

                         『ごめん』

                         『おやすみ』

                         『また明日』


 もちろん全部嘘だった。震える指でどうにか打つ。

 頭の中は真っ白だった。


 次の日。

 老女が起こしに来たが具合悪いからと言って追い出した。

 ずっと布団を被ってうずくまっていた。

 深夜に通知音が鳴った気もするが、見ていない。怖くて見れなかった。

 今でも怖い見てしまえば今まで築き上げたものの全てが壊れてしまいそうで、怖い。

 それでも開いたのは、変な使命感からだ。

 薄暗い布団の中で青い光が僕を照らす。


                         『おやすみ』

                         『また明日』

 遥『え、ちょ・・・・・・』

 遥『行っちゃった』


 

 闇乃『ありのままってなに?』

    ずんだもち:to闇乃

『私にもわからないなー。ありのままってなんだろうね?

 でも、私は、自分が楽しいなって思える時が一番ありのままの自分なんじゃないかなって思ってるよ。

 もしも闇乃くんが闇乃くんでいるときが一番楽しいのなら、それが君の本当の姿なんだと思うなぁ。』

    

    ずんだもち:to闇乃『闇乃くんが楽しいって思えるのは、いつ?

              何をしているとき?』


 楽しい・・・・・・?

 楽しいってなんだっけ・・・・・・?


 俺が楽しいのは―――――

『ケンちゃん、こんなのも解けないの?』

 あれは確か・・・・・・・小学二年生くらいのことだ。

 僕にとっては簡単なかけ算の問題を教えてほしいと言った少年。

『ここはこうやるんだよ!』

『うおおおおおっ、すげぇ!解けた!!』

 たかが一問解けたくらいで飛び上がって大喜びした少年。

『お前ってやっぱ凄いな!』

 算数のノートを持って笑う少年。

『さすが学級委員長だなっ!!!』


 そうだ・・・・・・僕はあの時、嬉しかったんだ。

 多分、もう戻れない。


                         『加藤君・・・・・・話があるんだけど』

                         『ごめん』

                         『謝って許される話じゃないんだけどさ』

                         『僕なんだ』

                         『闇乃って僕なんだ』

                         『なんかむしゃくしゃしててさ』

                         『完全に八つ当たりなんだけど』

                         『ホントにごめん』

 健『知ってた』

                         『えっ?』

 健『お前が闇乃だって知ってた』 

 健『許してやるよ』

                         『え・・・・・・?』

 健『だから許してやるんだってば』

 健『そのかわりさ・・・・・・・・』


 涙で視界が滲む。しょっぱかった。


  『俺馬鹿だからさ、また昔みたいに勉強教えてくれよ』

                       

                  

                        

 

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