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じゃんけんが強くなりたかった少年の話

作者: アメモリ

 僕がまだ小学生のとき。

 僕のクラスには、「じゃんけん」がとても強い子がいた。名前は忘れてしまったが、その子はクラスでも人気者で、元気な女の子だった。

 小学校では、給食のおかわりを巡って、毎日のように激しいじゃんけん争いが行われていた。小学生にとっての給食とは毎日の楽しみであり、みんなこぞってそのじゃんけんに参加した。もちろん僕も、だ。

 ただ、いつも勝つのは、決まってその女の子なのである。誰も彼女がじゃんけんで負けるところを見たことがない、という噂さえあったが、とにかく、彼女が参加したじゃんけんでは既に勝敗が決まっていた。

 もちろん、いつか彼女を打倒することを夢見たクラスメイトたちはたくさんいて、負けると分かっていながらも彼らは挑戦した。それが楽しみになっていたのかもしれない。

 ただ、僕はじゃんけんが弱かった。それ故に、彼女とじゃんけんがしてみたい、という幼き夢はなかなか叶わなかった。給食のおかわり争奪戦という大人数のじゃんけんでは、いつも最初の方に負けてしまうのだ。

 実は一度だけ、彼女に聞いてみたこともある。

「どうしたらそんなに強くなれるの? ……じゃんけん」

 と。すると彼女はこう答えるのだ。

「じゃんけんなんて運だよ。アタシはただ運がいいだけ」

 もちろん、今になってよく考えればその通りなのだが、当時の僕は、彼女は何か秘密を隠しているに違いない、と子供心に思っていた。

 それから僕は、じゃんけんに勝つ方法、じゃんけんが強くなる方法を模索した。模索したといっても小学生だから、毎日練習する、くらいしか思いつかなかった。

 一人ではもちろん練習はできないから、学校帰りに友だちと毎日したり、母を付き合わせたりした。そんな僕の様子が面白かったのか、みんなは笑いながら僕の練習を手伝ってくれた。自分で言うのもあれだが、今思えば、僕はちょっと変な子供だった。夏休みの自由研究で「じゃんけんが強くなるには」というテーマを掲げるくらいには。

 だが結局、彼女と一対一でじゃんけんをすることは叶わなかった。卒業式の日に、彼女に勝負を申し込もうかとも考えたが、恥ずかしかったのでやめた。僕は弱かった。僕は彼女に憧れていたと同時に、もしかしたら好意を抱いていたのかもしれない。まあ、今は名前すら思い出せないわけだが。

 僕は中学生になった。あの頃、僕がじゃんけんに抱いていた情熱も、美人の数学教師によってあっさりと消されてしまった。こうやってみんな夢を忘れていくんだな、なんて感慨深げに呟きながら、今日もまた、僕は冴えない顔で学級委員の仕事をこなす。

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