挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

文通(意味深

作者:九田無
 ◆尾木謙也

 ありふれた言葉だけど、自分の葬式を見るというのは、なんとも不思議なことだ。
 葬式といっても、もはや棺は火の中だ。
 煙突から寂しげに煙が上がり、下では母や姉が泣いている。
 他人事のように、「よく泣くな」と思ってしまった。
 最初は泣いてくれることに喜んだりもしたが、今でも何も感じることはなかった。虚無である。空虚だ。
 幽霊とはモノは考えるが、心動かされることは無いのかもしれない。
 どこに行けばいいかも分からない。しかたなく、生前の知り合いを眺めるのだった。

 思うに私は、普通の人間だったと思う。中間といえる高校に通い、クラスの地位はそこそこ。
 特に孤立することもないが、特にクラスで誰かを引っ張ることもない。
 ──“普通”、正にそれだ。
 そんな私の友人は、意外に多い。
 まあ友人と言えない、知り合い程度がほとんどだ。友人と言い張る方が恥ずかしいかも。
 じゃあ選定した結果というと、実は四人と少ない。
 私は家族の暗い空気を見飽き、友人達を覗いていた。
 どこかぎこちないクラスの空気。
 クラスでは意外と私の存在は大きかったのかもしれない。また少し、嬉しくなる。
 授業は進み、放課後になると、クラスでは私の友人達四人が集まっていた。
「正直、尾木ってウザかったよなー」
 そんな言葉から、話は始まった。
 酷いものだ。いなくなれば、これである。
 つつ、と涙が頬をつたった気がした。幻覚ではない。真だった。
「いなくなってせいせいした」
 一人がそういった。酷い。人間性が酷い。
 私はいなくなりたくなかった。
 歯をくいしばらなければ、嗚咽が漏れそうだ。
 心にドロドロとしたものが、湧き出るのがわかる。
「そういうことは、よくねえよ」
 冷水を浴びせるような、一声が発せられる。
 それも一人の友人だった。友人に数えているけれど、実際私は彼を嫌っていた。
 些細な理由だ。語るまでもない。
 彼をぬいたメンバーで、彼の陰口を叩くこともあった。
 嬉しさとともに罪悪感を感じた。申し訳ない。
 すると友人が言う。私が彼を嫌っていた事を。陰口というのは褒められたことじゃない。なのに言ってしまう。不思議だ。それを嫌っているのに。
「別に気にしねえよ。ただやっていいことがあるだろうが」
 それでも彼は変わらなかった。
 一本の芯が確りとしているんだ。
 だから彼は他の友人達をさとし続けた。彼らもうすうすとはわかるのだろう。
 高校に入ればイジメなどするような人間は、自然といなくなる。嫌な人間がいても、イジメという手段に出るやつがいない。
 だから決して、人が良くなったわけじゃない。
 自然と話は変わり、私のいい所を言い合うようになり、そして彼らは教室を出た。
 私はお礼を言いたくてたまらなくなった。
 死んだら私の好き嫌いは治ったのだ。
 ここで手紙を残すことを思いつく。書いたことなどほとんど無いのだけれど。
 適当な紙片に、落し物箱に入っていたシャーペンを頑張って動かす。
 これがポルターガイストなんだろう。
 上手くかけない。生前は達筆だったのに。
 でもなんとかありがとう、と言葉になる。
 軽いものは持ちやすいようで、私は軽々と紙片を浮かせ、友人たちを追いかけた。
 まだ下駄箱だった。前からそうだ、私たちは行動が遅い。
 内履きを戻す時、顔を上げる瞬間を見計らい、彼の前にヒラヒラと紙を舞わせる。
 彼は気付いた。
 私はハラハラと横で見ていた。
 彼は一瞬目を開き、ついで微笑んだ。
 自然な笑みだった。
「どういたしまして」
 彼は天井を──その先の空を見上げて──いや、空のさらに“先”だったのかもしれない。
 とにかく見上げながら、微笑みながら、そういったのだ。
 私はすぐ隣にいるのに。
 私はおかしくて、たまらなくなった。

 それ以来、ブラリと彷徨う日々を過ごしている。
 こうやって、第二の人生──いや、霊生か? とにかくそれを過ごすのも、悪くはない。そう思い始めた。
 ちなみに、霊にも文通は可能らしい。

 終

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ