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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
9/38

夜風に巡る 前

「ここが大広間。何かの祭事の時にパーティーなんかが開かれてる場所だ。ここを右に行けば女官や住み込みの侍女達が住んでいるエリアに行けて、左に行けば城勤めの貴族様達の執務室や応接室なんかがある。

 目の前に見える階段を上れば謁見の間がある二階に行ける。まぁ俺達がいけるのはせいぜい謁見の間までで、その奥にある陛下達のプライベートスペースには絶対に入れないけどな」


 城内に入った二人は広い一直線の廊下を進み大きな広間に辿り着いていた。

 ディンはその広間の用途を説明しつつ、簡易的に王城内のつくりについて説明を続けていく。クロウディアはそれを聞くとそっと目を目の前の階段に向ける。

 王城の中に入り、上に向かう道を見て思い出した昼間の女性の姿。遠目で確認できたのは蒼い髪程度であったが、何処か心の中から抜けきらないでいたからだ。


「……そうか。

 とりあえず侍女や女官の所になど行ってもしょうもないであろう。執務室の方に行ってみようか」


「違いないな」


 そんなことを思考しながらクロウディアはディンに声を掛けると一人大広間の左側にある通路に向かい歩き始めた。その様子を見たディンは苦笑を浮かべながらクロウディアの横に並び立つと軽い雑談を交えながら二人は大広間から進み始める。


「このまま進むとちっと城内を回るように移動して、中庭に出れるぞ。普段は政務の休息がてらに貴族様達が使用しているけどそこは俺ら騎士や侍女達にも解放されてる」


「ふむ。ここまで来たのだ、せっかくだし覗いて行こうか」


 広く、されど等間隔に設置されている扉の前を歩きながらディンはクロウディアに声を掛ける。

 その言葉に大広間から結構歩いてきた事を思い、クロウディアは答えた。


「ほぉ・・・・・・。さすがに中庭は手が掛かっているのだな」


「政務の合間の憩いの場って奴だからなあ。陛下も此処だけは結構手を加えてらっしゃるらしい」


 それからさらに数分ほど歩いていると、二人の目の前にようやく中庭が見えてきていた。

 まだ距離は離れてはいるがそんな距離からでも分かるほどに中庭の樹木は剪定されて形が整えられているのが垣間見られ、植えられている草花なども正門へと続く道にあった花壇のものよりも希少なものであるのが伺い知れる。

 クロウディアがそれを見て感心したかのように声を漏らすと、ディンは何処か誇らしそうに胸を張りながら答えていた。

 自分が手を掛けた訳でもないんだろうに。そう思いながらクロウディアは苦笑を浮かべるとようやく目前へと迫ってきた中庭を改めて注視しようとして、人影がある事に気付いた。先客であろうか、そう思いつつ中庭へと足を踏み入れると花などを観賞しながら歩く。

 ディンもその人影に気付いたのであろう、足を止めると中庭に踏み入るのを躊躇した。


「ディン?」


 それに気付いたクロウディアが声を掛けると、ディンは小走りにクロウディアに駆け寄ると顔をクロウディアの耳元に寄せて呟く。


「金髪の御方がリーナ王女殿下で、蒼い髪の御方がシャール・エスト公爵令嬢だ」


 その言葉に改めて人影に目を向けると確かに二人の女性、いやまだ少女といった年頃だと見受けられた。

 一人は蒼い長髪のどこか儚げな雰囲気を纏っている少女。それは月光と相まって魅惑的なまでにその存在感と美しさを主張させている。見目も麗しくこの月夜に遊ぶ妖精のような錯覚すら覚えた。

 もう一人は金の長髪の少女。落ち着いた雰囲気を溢れさせながら一挙一動に気品が感じられ、遠目で見てももう一人の少女に微笑みかけているその姿はただ美しい、そう思わせるのに十分な容貌を兼ね備えていた。

 二人はまだクロウディア達に気付いていないのか、中庭の端にある大きな幹の木の傍で何かの談笑を交わしていた。


「・・・・・・美しいものだな」


「うお・・・・・・」


 ぽつりと漏れたクロウディアの声にディンが硬直する。

 この昔馴染みが生まれて今までそんな事を言った事もなければ興味すら示していなかったのを幼き頃より共にあって知っているが故に。

 その様子を見たクロウディアは苦笑を浮かべながら口を開いた。


「私とて木や石と言う訳でもないという事だ」


「結構笑えないサプライズだったぜ」


 ふーっと息を吐きながらディンが相槌を打つと、クロウディアは肩を竦めながらまた王女と公爵令嬢の方に目を向けてみる。

 どうやらあちらもクロウディア達の存在に気付いたようだ、目が合うとにこりと二人に微笑みかけられたのでクロウディアは胸に手を当てて深く一礼する。それを見たディンは王女達が此方を見ているのに気付くと、慌てて右手を左胸の上に置き、最敬礼をした。

 さく、さくと草を踏みしめる音が聞こえ始めそれは次第にクロウディア達の下に近づいてき始める。どうやら王女達が此方に向かい移動しているようだ。そう感じ取ったクロウディアは先ほどの蒼い髪の少女の事を一瞬だけ脳裏に、自然と思い浮かべていた。


「こんばんは。見回りご苦労様です」


「こんばんは。お勤めご苦労様です。お二人とも楽にしてください」


 さくっと少し大きな音を立てながら歩みが止まると、優しい音色の声がクロウディア達に向かい掛けられる。

 クロウディアとディンはそれを聞くとそれぞれ姿勢を但し改めて王女と公爵令嬢に向き直った。


「お声を掛けて頂き恐悦であります。

 姫様達はこのようなお時間に共も付けずに出歩かれては・・・・・・」


 まず口を開いたのはディンであった。

 見ると王女達の傍には護衛の騎士も侍女もおらず、二人の少し落ち着いた服装を見ると私事で出歩いていたのであろう事が見受けられた。

 二人はその言葉に申し訳なさそうに顔を伏せながら答える。


「すいません、月が綺麗だったんで中庭で見ようってお話になって」


 公爵令嬢が言うと、王女もそれに続いてごめんなさい、と謝罪の言葉を口にする。

 ディンはそれを聞くとわたわたと慌てながらまた頭を下げながら取り繕うかのように言葉を発していた。


「い、いえ!御二人の身の御安全を考えてつい口にしてしまっただけです。御二人がお気を病むような事ではありません」


「・・・・・・では御二人が戻られるまで我らが付きますので心行くまで月見を楽しんで下さい」


 それを見たクロウディアは普段のディンの様子を知っているだけにふっと溜息を零しながら王女達に向き合い提案をしていた。

 二人はそれを聞いたきょとんとしていたが、言葉の意味を理解すると花が咲いたような美しい笑みを浮かべながらクロウディアに声を掛ける。


「ありがとうございます」


「お手数を御掛けします」


 その言葉にクロウディアは改めて一礼すると、手に持っていた槍を改めて握り直すと、未だに隣で慌てているディンに声を掛ける。


「そういうことだ」


「そうなんだ」


 何処か抜けているやりとりを目の前で見せられ、王女達の笑みが深まる。

 クロウディアの声にようやく我を取り戻したディンは帯剣していた剣の柄に手を掛けながら周囲に向け気を配り始めた。


「そう言えば貴方はお城では見かけた事がありませんよね。失礼ですが一体?」


 周囲に気を配り始めた二人を見ながら、ふと気付いた事を公爵令嬢が問いかける。それを聞いたクロウディアは思い出したのか、王女と公爵令嬢に向き直った。


「本日から第四混成騎士団にて厄介になる事になりました。クロウディア・アスティアと申す者であります。どうぞお見知りおきを」


「あ、私はシャール。シャール・エストです」


「ご丁寧に。私はリーナ・ウェイドです」


 クロウディアが自己紹介をすると、二人も微笑を浮かべながら名乗り返す。

 それを見たクロウディアは手に持っていた槍を器用に左手一つで一転させると、胸の前で水平にしてみせる。

 突如の行動に王女、リーナとシャールの身体がびくりと跳ねるのを見て、クロウディアは微笑を浮かべながら口を開く。


「美しい月夜です。

 手慰み程度ですが御二人の記憶に残るような余興を興じて御覧にいれましょう」

 

 言うと、二人が見ている前で槍に魔力を流し込む。力が流れてきた事により槍はその白と黒を幻想的に明減させ始めた。

 それを確認したクロウディアは穂先をゆっくりと地面に突き立てる。するとその地点からぼんやりと緑色の光が立ち上り始め、それは次第に美しい花の形を形どる。その光景にリーナ達が驚いたように見つめていると、その花は風に巻かれるように霧散する。

 あっと声を漏らしそれを名残惜しむが、それも直ぐに終わる。花を散らした風が今度はきらきらと二人の周りを踊るように周り、月明かりだけの光源しかなかった中庭に優しい明かりで二人を包み込む。

 地面から槍を抜いたクロウディアは今度は空いている右手に魔力を集めると、ほんの小さな種火を創り出すとそれをふっと空中に放り投げ、今度は水を生み出すとその火を覆う様に纏わり付かせる。火に水が触れていないのであろう。火は水の中でも煌々と燃え続け、水の反射作用によってそれは幻想的な視覚を与えてくれる。

 パチン、という指を鳴らす音が夜に響くと、その水の形が徐々に動物の形へと変化していき表面だけが凍り始める。取った姿は兎だ。

 火が目の役割を果たし、流動する水がその魔法で作られた兎に流動感を与え表面の凍りが生命の形をたもち続けているその光景は月明かりを受けて見るものの心を奪うような美しさを兼ね備えている。


 二人の視線がそれに釘付けになっているのを見たクロウディアはくすりと微笑むと、その兎に魔力を纏わせ二人の周りの空中を本物の兎のように動かし始める。

 美しくも可愛らしい兎が周囲を駆け回る様は二人には嬉しかったらしく、目を輝かせながらその動向を伺っていた。


「っと」


 それを見ながらクロウディアは微細に魔力を調整しながら、今度は兎の内部にだけ小さな、極小の静電気を発生させる。

 それによって兎は自らもうっすらと発光を始め、そうして観客二人の為だけの魔法を駆使した幻想的な催し物が開催された。

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