春風に誘われ
りめーく前との相違がでるお
凄いどうでもいいけどmry
ラルフの先導に付き従う事十分ほど経過した頃だろうか。二人の前でラルフは金属が打ち合う音を響かせる扉に手を掛けるとその扉を押し開き中に入っていく。
クロウディアはその音から錬兵場であろうかと想定すると、先にその中に入ったディンを追うように扉を潜った。
石畳の床に古ぼけた煉瓦造りの室内の壁には刀剣や戦斧といった武器がかけられており、その傷つき具合から年代ものなのであろう事を容易に想像できた。見れば三十人程が動き回っても余るような広さの中で数名の騎士達が鍛錬に励んでいる。
クロウディアはそれを見ると視線をラルフとそれに付いて行ったディンに戻す。見ると彼ら二人は金髪のエルフの女性と赤髪の何処か野性味を感じさせる騎士と話をしている。クロウディアは止めていた足を再度動かし始め、彼らの下に向かっていった。
「クロウディアよ。このエルフ族の女性レナがお前の副官になる。
軍の事は先達の彼女から分からない事があれば聞いてくれ」
「初めまして、レナと言います」
ラルフの紹介を受けエルフの女性、レナはふわりと微笑を浮かべながらクロウディアに声を掛けた。
エルフ族と言えば魔力も高くその寿命の高さから魔法にも通じ、森での生活を主体としている為か狩猟に使う弓の腕も上々であり、男女隔てなく端麗な容姿を誇るものが大半を占めている。風の噂程度ではあるが南の大陸では高級な奴隷として扱われ、高級娼婦として取引されている種族でもある。
そんな話を聞いていたクロウディアはレナの瑞々しい身体つきと人形のように整っている顔立ちと柔和な笑みを見ながらそう思い至る。
「クロウディア・アスティアと言う。今後よろしく頼む」
そんな考えを一蹴するとクロウディアはレナに名を告げると改めて彼女と目を合わせてた。
探るような視線をレナから向けられていたクロウディアは訝しげに繭を顰める。何かあるのであろうかと思い声を掛けようとするが、それはレナの声によって遮られた。
「珍しいですね。
人とエルフと魔族の混血の方でしたか」
「ああ。
初見で魔族の血も分かられたのは初めてではあるが」
にこりと笑みを浮かべながら告げられた言葉にどこか毒気を抜かれたクロウディアは苦笑を浮かべながらレナの言葉に答える。
レナはくすくすと声を押し殺しながら笑うと、優しい色合いをした若葉色の瞳でクロウディアを見ながら口を開いた。
「人にしては魔力の性質が重くて、魔族にしては精霊に愛されていま。エルフの私から見ても面白いくらいに。
ですがその白銀の髪を見る所、祖先にハイエルフの血があったようですね」
「・・・・・・ずっと昔にハイエルフと祖先が子を成したとかいう眉唾ものの話は聞いたことはあったな」
「その白銀がエルフの血が混ざっていても発現するようであれば実話なのでしょうね。
今のエルフ族よりずっと精霊に近い存在であった彼らは一様に白銀の髪をしていたとエルフ達の間では語り継がれていますし」
並べられていく言葉にクロウディアは感心を抱きながらレナの言葉に答えを返していた。
流石長寿の一族なだけはある。恐らくこのレナという女性も見た目の美しさにそぐわず相当な年月を生きているのだろう。固体によっては千年近くも生きたという話を聞く種族である彼らエルフは総じて死ぬ十数年前まで年をとらずに若い姿のままあり続けるのだ。それがどういった事柄が原因であるかは誰も解き明かせていない謎ともいえる。
そんなクロウディアのクロウディアの内心を見透かしたかのようにレナは恥ずかしそうに頬を染めながらわたわたと取り繕いを始めていた。
「あ、言っておきますけど私まだ百十三ですからエルフの中でもまだまだ若い方ですからね?」
「……種族による価値観の違いはあるだろうが君がそう言うのであればそうなのであろうな」
先ほどとはうってかわって少女のような様子を見せるレナにクロウディアは微笑を浮かべると可もなく不可もなくといった答えを返すと、ラルフの隣に立っている男に目を向ける。
男はそれに気付いたのか快活な笑みを浮かべながらクロウディアに話し掛けた。
「俺はバーン。バーン・ストラだ。ディンからちょくちょく話は聞いている、宜しく頼むぜ」
「こちらこそ」
邪気など一切感じさせないその物言いと態度に好印象を抱いたクロウディアは笑みを浮かべながら答えていた。
ラルフはそれらを見届けるとにっと笑みを浮かべると口を開く。
「今日はこれでいいだろう。後はディンに城の中を案内してもらっておくように」
「了解」
「そうさせてもらいましょう」
その言葉を聞いた二人が言葉を返すとラルフはバーンとレナに数言声を掛けると足早に錬兵場から退出していく。恐らく手がけていた執務を再開するのであろう。
それを見送ったクロウディアは改めれレナとバーンに向き直った。
「それでは失礼させていただくとしよう。明日から宜しく頼む」
「はい、此方こそ」
「おうよ」
二人が綺麗な笑みを浮かべながら答えを返すと、クロウディアはディンに目配せをするとラルフが出ていた扉に向かい歩き始める。ディンはそれを見るとレナ達に軽く別れを告げるとクロウディアの後を追うように錬兵場から出て行った。
「城の中に入るのは良いがいったい何の意味があるのであろうか」
「そりゃお前あれだろう。
万が一城が攻められた時に城内で迷子になりましたなんて笑えない」
その足で駐屯している建物から出た二人は元来た道を引き返していた。
時刻は既に月が顔を出し始めており、どこか穏やかな空気が世界を支配し始めている。クロウディアはそんな空を見上げながらぽつりと呟きを漏らすと首を傾げる。それを聞いたディンは苦笑を浮かべながらクロウディアの疑問に答えると、同じように空を見上げていた。
「気のせいか」
「んー?どうしたよ」
微かに、ほんの微かに感じられた懐かしくも恐ろしい気配を感じ取ったクロウディアは微かに目を見開くが、直ぐにそれが消えた事を感じ取ると頭を振りながら呟きを漏らす。
それを聞いたディンが不思議そうに声を掛けると、クロウディアはふっと息を吐きながら気にするなというと前を向いた。
そうして二人は正門まで辿り付くと王城の衛兵に挨拶をし、王城の中に足を踏み入れていった。