第四混成騎士団
ディンに促され建物の中に入ったクロウディアは年季を感じさせる木材の色合いと、派手に見えないようにさりげなく置かれている絵画や調度品などに目を向ける。
入り口からすぐに見えるように置かれている絵画に描かれている山々は年を経ているせいか色褪せてはいるが、中々の著名人による作品なのだろう。見るに心を掴んでは忘れがたい不思議な印象を残してくれる。
「ぼろっちい所だけど、ここに第四混成騎士団に所属している騎士の約6割、六百人が常駐してる。
残りは王都にある自宅からの奉公になるんだ。ま、ある程度の期間で入れ替わってるんだ」
「交代制か。まぁ妥当といった所なんだろうが」
調度品に目を向けていたクロウディアにディンは苦笑を浮かべながら屯所として使用されている建物の事を一言評価すると、勤務体制について話し始める。クロウディアはその話を聞きながらディンに視線を向けた。
「当分私には縁の無い話であろうな。そもこの王都に住居を構えようなどとは思わんし」
「住めば都って言うじゃないか。
同僚の何人かはもう借家なりを借りて交代制を適応してるんだが、やっぱり故郷の村や町より広いし活気もあるから違和感があるって言ってたけど慣れてくると故郷の村や町の静けさがどうにも馴染めなくなるってよ」
「一理あるのであろうがな。私は静かな所で自己練磨してるほうが性に合っているさ」
ふと小さく微笑みを浮かべながらクロウディアが言うと、ディンは肩を竦めながら言葉を返す。それを聞いたクロウディアは苦笑を浮かべながら答えると、建物の中に入ってから止めていた歩みを再開した。
当然それを見たディンがクロウディアの横に並び、案内を始める。途中ディンの同僚や先任の騎士達とすれ違ったが、同僚には軽口を叩き、先任には一定の敬意を払いながらも真摯に意見を交わしている様子を見るとクロウディアは感心したかのように言った。
「存外上手く交友関係を築いているのだな。
お前の事だから阿呆な事ばかりいって迷惑を掛けていると思ったのだが」
「何年前の話をしてやがるんだこの野郎」
昔馴染みが上手くやっている事に少しからかいを交えながら告げてみると、即座に返ってくる言葉にクロウディアは笑みを浮かべる。
それを見て毒気を抜かれたのか、ディンは右手をひらひらと遊ばせながら口を開く。
「まーうちの騎士団は見ての通り連携や伝達に関しては他の騎士団よりも良好なのは理解してくれてると思うけど、他は貴族の子息とかがいて派閥があったりして機能不全になったりしてる部分はあるかな」
「良き事ではないか、情報と戦略が上手く噛み合う土台がある。それだけでも勝率も生き延びる確率も跳ね上がるものさ」
「確かに団長の指示がスムーズに行き届く分、尻尾巻いて逃げ帰るのもうちが一番だな」
その言葉を聞いたクロウディアが相槌を返すと、ディンは過去にあった撤退戦の事を思い返したのだろうにっと笑みを浮かべながら答えた。
「そういやお前さんの事は大雑把にしか説明してないんだけど、とりあえず指揮も出来るって話はしてあるから小規模な部隊を持つことになると思うんだけど大丈夫だよな?」
建物の中を進む事十数分、時折すれ違いディンと会話を交えながら、ディンとその仲間の騎士達のやり取りを見ているクロウディアに唐突にディンが声を掛けてきた。
見ると黒髪の短髪で、何処か幼さを残した顔立ちの騎士がクロウディアの事を見ている。聞き流してはいたが口ぶりからして恐らくディンの同僚の騎士なのであろう。会話の流れはいまいち良く掴めては居ないのだが恐らく会話の折にそんな流れになったのであろう。そう中りをつけたクロウディアは答えた。
「特に問題はない。ある程度自由に動いてもいいなら尚さら都合がいいのだが」
「それは問題ないと思うよ。ディンから君の話を聞いた時に団長とそんな話になっていたから。
・・・・・・っと、初めまして、僕はシャドウ。シャドウ・ラースって言うんだ。ディンの同期の騎士で突撃兵を指揮してる」
「私はクロウディア・アスティア。宜しく頼む」
クロウディアの言葉に黒髪の青年が答え、途中で自己紹介をしてないのに気付いたのか照れくさそうに頬を掻きながら名を名乗ってきた。クロウディアは軽く一礼すると同じように名乗り返す。
「団長なら丁度この先の執務室で次の出陣の編成を纏めているから丁度都合が良いんじゃないかな。
それじゃ僕は新人達の訓練があるからもう行くね」
それじゃ、と言い残しシャドウは二人の下を離れると建物の入り口の方に向かい歩み去っていく。
それをある程度の距離まで見届けた二人は再度歩き始めた。
「執務室ってことはここだな」
それから数分、建物の奥の方にまで進んだ二人の前に今まで見てきた扉よりも幾分か豪華で重厚な雰囲気を放つ扉が目に映った。
それを見たディンが口を開くと共に、簡易的に身なりを整える。それを見たクロウディアは苦笑を浮かべながら言った。
「国勤めの哀しい習性ってやつか?」
「上司だし、もう癖になってると言うかなんと言うか」
声を掛けられたディンは一通り身嗜みを整えると、苦笑をしながら答え扉をノックした。
「ディン・サーディン、先日お話した者をお連れしました」
「うむ、入れ」
扉越しに聞こえる壮年の男性の声。それを聞いたディンはゆっくりと扉を開いた。