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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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灼熱9

「始まったか」


 戦場全体を見下ろせる高さの丘陵に陣を取ったハーベル皇国軍の本陣で灼熱は開始された魔法や矢による攻撃の応酬を見て呟きを漏らした。

 双方一歩も引かぬ意思を宿したその攻防は今まで見てきた戦闘の中で一番熾烈に覗える程に苛烈なものであった。今も皇国軍から放たれた無数の魔法の雨がウェイド王国軍の魔導師の障壁によって阻まれその報復と言わんばかりに無数の矢が魔導師の部隊に放たれる。それらの矢は魔導師達の護衛に配置された重歩兵達の盾によって阻まれまた魔法が放たれ、今度は障壁で防いだ直後に速射性の高い第五位の魔法の雨が殺到してくる。

 また此方の伏兵の策にも感づいているのかウェイド王国軍はある程度の高低さのある箇所では進軍を停止して入念に確認してから進軍を再開するのが見て取れる。灼熱はその様子を見ると口元に笑みを浮かべながら思わず呟きを漏らした。


「流石に我が考える事は分かるという事か、弟よ」


 その呟きが聞こえた者は誰も居ないであろう。応酬する魔法の炸裂する轟音が戦場を支配しているが故に。だから灼熱も誰の目を気にする事もなく呟いたとも言えるのだが。

 地を分けた肉親であり十代の半ばまで共に育ったのだ、弟であるラルフが自らの考えを考察して警戒すると言うのも予測の内であった。そしてラルフの行動が自らにもある程度想定出来ると言う事も。


「誰ぞあるか」


「はっ」


 灼熱は刻一刻と流動していく戦場を見据えながら人を呼ぶ。彼の声に応えて現れた一人の騎士を見た灼熱は戦場の一角を指差し、ただ一言短く命令を下した。


「あの地、焼き落とせ」


「・・・・・・魔導師部隊に直ちに伝達を致します」


 灼熱の指示を受けた騎士は彼の指先が指し示す地を一瞥し、不思議そうに首を傾げたが直ぐに承諾の言葉を返して伝令を飛ばすべく灼熱の下から駆け去って行く。

 灼熱はそれを見届けると自らが指示を出した地を見て目をすっと細める。殆ど進軍してくる部隊も居らず、伏兵として配置させた兵達も居ない両軍からみてややウェイド王国軍寄りの戦場中央部、そこに灼熱は着眼したのだ。一見何の変哲も無い箇所に見受けられるが灼熱の目にはそうは映ってはいなかった。いや、むしろラルフがこのように進軍して来た時点でその箇所を如何に押さえるかが重要であると灼熱は考えていた。

 今も両軍の魔法や矢が入り乱れ、前線では騎士や歩兵同士の激突も所々では開始されており戦場は正に阿鼻叫喚へと入り口へと豹変しつつある。

 この状況から推察するにラルフの戦術としては両翼に戦力を集中させ此方の兵を集め、中央に位置するあの地を堅持しつつ敗走に見せかけ徐々に後退し一定の箇所まで引き付けてからあの地を焼いて軍を分断し各個撃破といった筋書きを思い描いていたのであろう。


「だが甘い。我が気付く事を考慮すべきであった」


 事実ウェイド王国軍の動きは凡そ灼熱の想定した通りに動いていた。近接戦を始めた両翼に徐々に戦力が集中を始め、各地で伏兵を警戒していた部隊がそれらと一戦を交えて退けたから続々と合流を果たしていく。唯一気掛かりがあるとすれば先の一大決戦で戦況を一変させたあの魔導師からの一撃が未だに何も放たれていない程度であろう。

 仮にあれが再度放たれたと考えると此方の被害は甚大になるし敵討ちという義憤に駆られた者達が突出して自然と前線が前へと押し上げられてラルフの戦術を助ける一因と成り得た。

 だが戦闘が開始されてからその兆候は見られず現状は灼熱の望みのままといった流れである。次の指示を出そうと灼熱が新たに人を呼ぼうとした時、ごうっとハーベル皇国軍の陣地を揺らすような轟音が鳴り響き灼熱が先程指示した箇所に大量の魔法が殺到しその地を蹂躙していく。

 その様子を見た灼熱は一人口元を緩め土埃に隠れてしまった戦場を見やりながら思う。これで我らの勝利は揺るぎない、と。


「・・・・・・!」


 刹那、灼熱は今までの余裕の表情を消して咄嗟に全力で障壁を展開する。同時に灼熱の展開した障壁に第三位相当と予測される氷も魔法が殺到して遅いかかり灼熱の障壁と激突する。

 灼熱は障壁を展開しつつこの魔法の射出地点であろうと予測される地に目を向ける。そこは先程魔法が殺到したあの地であり、そこにはこの土煙に紛れて移動して布陣したと思われる一隊が陣取っていた。

 そしてなによりも今防いだ魔法の魔力の波長、それは紛れも無く先の戦いで戦況を覆した魔法に含まれていた魔力である。灼熱はそれを感じ取ると未だ襲い掛かろうとしてくる氷を炎魔法で薙ぎ払いその地を睨みつける。


「来い」


 そしてただ一言告げる。すると灼熱の周囲に濃密な魔力の渦が巻き起こりそれは次第に周囲の空気を加熱させ、呼吸するだけで気管が焼けそうになる程の温度を発生させていく。

 同時に空から巨大な羽ばたきの音が聞こえ始め、本陣の近くに居た騎士達がその音に釣られて空を見上げると見えたのは真紅。何者にも汚されぬという意思を表したかの如き鮮やかな真紅の巨躯が灼熱の袂へと舞い降りると灼熱は何も言わずにその巨躯の背、炎龍の背に飛び乗った。


「我は不安要素を滅してくる。この勢いと情勢を読み違えず見事我らに勝利の栄光を捧げよ」


 巨躯に、炎龍の背に跨った灼熱はそう言い残すと誰からも返答を聞かずに炎龍と共に空へと舞い上がって行く。その姿を見送った周囲の者達は灼熱の言葉の意味をゆっくりと理解し、そして責任の重大さに気付いて急いで戦場全体に指示を飛ばし始める。

 灼熱によって鍛えられた彼らは将たる灼熱が今まで見せてきた采配を参考にしつつ即座に、臨機応変に戦場の流れを観察しつつ奮戦を続ける部隊へと指示を飛ばし始める。同時に灼熱自身が龍と共に戦場へと舞い出たという報せと共に。

 この灼熱の行動が齎す結果は直ぐに彼らの、両軍の目の前に示される事になる。それはウェイド王国軍壊滅という形なのか、それともハーベル皇国軍壊滅という形なのかは誰にも分からない。

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