灼熱7
「伝令!先行して偵察に従事していた部隊が大量の狼煙を確認したとの事!」
「いよいよか」
国境を超えて十日目の昼下がり。轟々と突風が吹き荒れ街道を砂埃が舞い散る中先行して偵察しているディンの部隊より本隊に向けて急遽伝令が向けられていた。
届けられた報告は敵軍の陣から上がっていると思われる大量の狼煙を確認した事。その報告を聞いたラルフは視界が悪い街道の先を睨みつけこの先に居るであろうハーベル皇国軍への警戒心を顕わにしながた呟きを漏らす。
「お前はこの事をそのまま各部隊に報告して回ってくれ。それと随時戦闘に突入出来るように臨戦態勢を崩すなとも」
「了解です」
これからの事を考えながらラルフは報告をしにきた伝令兵に向かい新たな指示を出し思考に耽り始める。微かに伝令兵の了承の言葉が聞こえたので軽く手を上げて答えるとそれは本格化する。
地の利はあちらにある以上苦戦は免れないのは必須であり、兵力敵にも劣っている以上地の利すらも不利であると苦戦どころか敗退すら見えてくる一戦になるであろう。だがそれは相手も同じである筈であり、待ち受ける敵を打ち破れば残る兵力は皇帝を守護するために帝都に残留しているであろう部隊だけの筈なのだ。
ましてや兄が、皇国の龍騎士である兄が敗退したというだけで敵にとっては計り知れない衝撃であったであろうし、それが戦死したとなれば残る龍騎士は一人となり、灼熱が死んだとなれば敵も同様し降伏まではいかずとも講和に持ち込み有利な状況での制圧が可能となるであろう。そして制圧した後に百年単位で民衆を扇動し皇国を瓦解させるのだ。そこまでラルフの頭の中に浮かんではいた。
「・・・・・・・・・・・・」
吹き抜ける風が隊列の合間を駆け抜けラルフの頬を撫でる。そんな風を感じながらラルフは迫る一大決戦へ心を傾けていた。
「どうやら皇国も動き出したみたいですね」
「最低でも倍近い兵力か、結構痺れるじゃねえか」
伝令がラルフの下を離れてから三十分程が経過した頃、その報告は全軍の隅々まで行き渡っていた。当然それはクロウディアの部隊にも届いており、その報告を聞いたレナとバーンが険しい顔をしながらぽつりぽつりと意見を交換していた。
クロウディアはその二人の声を聞きながら一人思案に耽る。尤もクロウディアが考えているのは次の一戦のその先、帝都制圧までの道筋である。
次の一戦を最低限の被害で打ち勝ち帝都へと到着、当然守備の部隊との戦闘が開始され堅牢であろう敵の本城を攻め落としこの戦の発端である皇帝を捕らえるまでが今回の戦争なのだ。
見た事もない土地であり地図ですら詳細なものは無く、唯一入手出来たものは町の商人が使用するような非常に簡略的な地図のみである。当然それはラルフの下にも届けられたが彼はその地図に数分目を通すと使えないと判断し折り畳んで机の上に放り出していた。
「クロウディアさん、貴方はどう思います?」
思案に耽っているのに気付かなかったのかレナがクロウディアに声をかける。その声に気付いたクロウディアは思案を一時中断し、おぼろげながら聞こえていた内容を思い出す。
確か次の戦闘になった場合の動きなどを話していたと思ったクロウディアはつっと顔を空に向けて数秒間を置いて答える。
「すまん、聞いていなかった」
「・・・・・・もぅ。次の戦闘の時に魔導師を優先して殲滅にいくか前線の突き上げを行おうか、って話ですよ」
下手に話が噛み合わなくてもどうかと判断したクロウディアは素直に降参と言わんばかりに手を上げてレナに苦笑を向けながら答える。それを聞いたレナは深い溜息を一つ零すと再度クロウディアに話の内容を伝え彼の意見を仰ぐ。
クロウディアはレナの言葉に今までの思考を一時中断し此方の戦力と敵の想定される戦力をざっと頭の中で想定する。残存兵力は一万五千に届くかどうかと言う所であり、敵地という事もあって緊密に補給などが受けれる状況でもない。おまけに言えば先の戦闘で負傷した怪我が完全に回復したばかりの者も居る。
それに対し敵は庭とも言うべき自国領内でもあり補給は随時行われ物資敵にも兵員的にも潤沢な準備をして迎え撃ってくるであろう。ましてや今回の一戦では灼熱の出陣も予測されている以上楽観視出来る情勢ではないのは明白であった。
それらを加味すると此方は補給にタイムラグがあり兵員の補給も時間がかかり傷病者から復帰した者も多く現存する物資では矢などの消耗品が直ぐに底を尽きてしまう可能性がある。
対し敵は自国領と言う事もあり補給は簡単で兵員の補充も随時行われ士気を突き上げる龍騎士も居て地の利すらもある。簡単に考えるだけで絶望的な情勢であった。
クロウディアはそこまで考えるとそれらを加味して起死回生の一手とも言うべきものを考えてみる。この先時間をかけて戦闘をしても先に体力が尽きて叩き潰されるのは明白であり、削られた兵力の確保が容易ではない以上長期戦は避けるべきであった。対し短期決戦を仕掛けた場合勝利したとしても帝都を落とせるかどうかと言われれば微妙な情勢となるであろう。曲がりなりにも一国の皇帝が住まう城の守備力は尋常ではないはずである。
「・・・・・・前線を突き上げて灼熱が現れるより早く敵を撤退に追い込むのが理想的と言った所か」
「撤退させるっつったってそれも一筋縄じゃいかなそうな気がするんだがなあ。ましてや灼熱が出る前にって言われても正直出てきた瞬間には劣勢にも程があるぞ」
「ですね。
でも魔導師を潰して回っている間に前線が崩壊してしまっては正直意味がないですし」
出した結論は短期決戦であった。そしてその答えを聞いたバーンは考え付いた事をそのまま口にだし、レナも同意しつつ私見を交えて言葉を返す。
彼らの言葉を聞いたクロウディアは静かに頷いて二人の顔を見てから苦笑を浮かべつつ言った。
「どちらに転んでも劣勢は避けられない。なら敵の喉下を食い千切ってやろうじゃないか」
そういった時の彼の真紅の瞳は妖しいまでに輝いていた。




