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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
32/38

灼熱4

「不気味、その一言に尽きる」


「ですな。

 皇国との国境に至るまでの道程に殿も居なければ制圧していた街や砦に防衛部隊が配置されておらずまるで誘い込むかのような速さで一気に奪回出来たのは」


「うむ・・・・・・。

 各々、何か意見があるのならば遠慮せず発言して欲しい」


 ハーベル皇国との国境線の手前に陣地を気付いたウェイド王国軍は一時その足を止めていた。理由はただ一つ、先の戦闘で潰走させたハーベル皇国軍の抵抗がまったく見られず開戦初期から制圧されていた地方を簡単に開放出来た事だ。

 主要な街道には殿も残されておらず、少数でも立て篭もられれば奪回に多少の時間を食う砦や街などといった拠点にも敵の姿は見られなかった。その事がウェイド王国軍の中に不気味なまでの猜疑心を呼び起こし、それを検討するための軍議がいまこうして開催される流れとなった。

 生き残っており、偵察などの任務に付いていない各部隊の指揮官は一様に軍議用の天幕に集められ今までの経緯を思い返しながら投げかけられるラルフからの言葉に答えていく。

 ディンは国境を超えての偵察任務に部隊を率いて陣を出払っていたがクロウディアは残っていた為副官であるレナとバーンに部隊の損耗状況などの確認を任せてそれに参加していた。


「ここから先はハーベル皇国領となり地図上では地形は把握出来てもその高低や緩急などは我々には判断が出来ません。

 恐らく要所で戦闘を仕掛けてきて我々の戦力を徐々に削ぎ落としていこうとしているのでは」


「いや、増援を待って我々を取り囲み一気に殲滅に来るかもしれない」


 参加している指揮官達は思いつく限りの可能性をそれぞれが口にし、お互いの意見を交換しあう。その様子にラルフはただ黙って意見を聞き続けており、彼の傍らに居る側近が次々発言される内容を走り書きながらもメモしている。

 その様子を見ながらクロウディアももし自分が皇国軍を率いる立場だったらと頭の中で仮定し、三つの仮定を思い浮かべていく。

 一つは先程指揮官の誰かが言った通り要所での戦闘で此方の戦力をどんどんと削ぎ落と殲滅可能と判断でき次第一気に叩き潰しに来るというもの。ただこれの欠点は此方が敵の望む要所を避ければ良いという事だ。これは偵察を密にすれば可能である。

 もう一つはもっと内地まで誘い込んで砦なり街なりを制圧した時に、此方の退路と進路を大軍でもって塞ぎ伝令の一つも許さずに此方が干上がるのを待つというもの。だがこれも欠点があり被害覚悟で一転突破された場合広がり過ぎた軍によって敵の動きが遅くなり此方に致命傷を与えるのが難しくなると言う事だ。

 そして最後に、正面からの決戦を仕掛けてくるというもの。正直これが一番可能性が高いかもしれない。先程の戦闘で灼熱と冠する龍騎士の軍を炎で退けたのだ、怒りによって正面からぶつかり合う事になったとしても不思議ではない。


「・・・・・・そうだ、クロウディアよ。お前はどう思うか」


 一頻り指揮官達が意見を述べ終えると天幕の中はしんっとした沈黙に包まれる。そんな中ラルフはクロウディアからの意見を聞いていない事に気付くとクロウディアに声を掛けた。

 クロウディアはラルフの声に気付くと考えるのを中断し一礼してから今考えていた三つの事柄を口にする。


「なるほど」


「付け加えるならばいつ龍騎士が襲撃を仕掛けて来ても可笑しくない情勢にもなってきていますな。

 此方としても相応の被害が生じる覚悟を持ってこの先は挑まねばならぬでしょう」


 ざっと思いついた事を説明したクロウディアの意見を聞いたラルフは一つ頷くと腕を組んで考え込み始める。

 クロウディアはそれを見ると話の絞めにと懸念している事項を告げるとそっと一礼して口を閉ざした。そして天幕の中を沈黙が支配する。誰もが皆ラルフの最終判断を待っているのだ。

 ラルフは彼らの気持ちを知ってか知らずか長い沈黙を保ち続けどんどんと時間だけが経過していく。


「たとえ我らが死しても」


 そして、とうとうその沈黙をラルフが破る。厳かな口ぶりで紡がれる彼の言葉に天幕の中が一気に呑み込まれ、視線がラルフに集中する。

 ラルフはその視線を感じながら伏せていた顔を上げると静かに、力強く言い放つ。


「たとえ我らが死しても第三、第二、第一と王国を守護する勇士達が必ずやハーベル皇国を征伐し王国に再びの平和を取り戻す。

 ならば我ら総員烈火となりて敵を切り裂き例え皆死に果てようとも後続のために道を切り開こうぞ」


 その言葉は間違いなく死すら覚悟してのもの。それを聞いた者達は皆ごくりと生唾を飲み込みラルフの醸し出す雰囲気に圧倒されて呑み込まれていく。

 クロウディアはそんなラルフの雰囲気にすっと目を細めると彼の覚悟を感じ取る。間違いなくこの男はこの一戦で死ぬ事すらも恐れておらずただ王国の未来のために散る覚悟があるのだと。

 

「陣を引き払い行軍を再開する。これより先敵の全てを跳ね除けて我ら最後の一兵と成り果てるまで熾烈に敵を殲滅する」

 

 そして下る出陣の言葉。それを聞いた指揮官達はばっと敬礼をすると急いで陣を引き払う準備を進めるべく自らの部隊へとだっと駆け足で移動していく。

 クロウディアも最後にラルフにそっと一礼すると天幕を立ち去りバーン達が待つ部隊の陣地へと移動していった。

 

「・・・・・・そう、絶対に勝利するのだ」


 誰も居なくなった天幕の中、ラルフの呟きだけが残った。




「よし、こっちは準備完了だぜ」


「傷病者も全員快復、戦闘に支障はなさそうですね」


 部隊に戻ったクロウディアはラルフからの出陣の旨を全体に通達するとすぐに陣の撤収を開始し、それぞれ指揮を執っていたバーンとレナがクロウディアの下に報告に訪れる。

 彼らの報告を聞きながらクロウディアはどんどんと動いていく王国軍全体を見渡し一人思う。皇国との戦争の終結が徐々にだが見え始めてきたと。


「問題が無ければ待機し団長の号令を待つとしようか。

 準備が完了した者から直ちに整列を開始してくれ」


 そして大まかな準備が完了したとの報告を受けたクロウディアは思考を中断して部隊の兵員に声をかける。彼らはクロウディアの言葉を聞くとざっと隊列を組み始め数分もしないうちに行軍陣形へと整列を整えてみせた。

 クロウディアはそれを見るとふと微笑を浮かべるとラルフの号令を待つべ彼が待機している陣の中央に視線を向けた。


「それでは全軍、行軍を再開するぞ!」


 そして十五分後、ラルフの雄叫びにもにた号令が魔法によって軍全体に拡散され広がっていく。その号令を聞いた部隊からどんどんと雄叫びを上げて空を揺らし、足音で地鳴りを起こしながらずんずんとハーベル皇国とウェイド王国の国境を超えるべく行軍していく。

 クロウディアもそれを見るとふっと後ろを振り返りバーンとレナと視線を合わせる。二人は何も言わずにただ頷いて見せ、クロウディアは彼らの意図を察するとまた前を向いて号令を下す。


「往くぞ」


 そして先に進んだ部隊を追うようにクロウディアの部隊もハーベル皇国とウェイド王国の国境を超えるべく進軍を開始した。

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