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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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灼熱2

「それでは改めて被害の報告をせよ」


 朝の陽光が照らすハーベル皇国領内の丘陵地帯、そこに灼熱率いる軍は撤退し陣を構えていた。ウェイド王国軍の追撃から昼夜駆け抜け疲労困憊の様子を隠すことも無く陣内の至る所で地面に体を投げ出している兵達の姿が見える。

 その陣の後方に設営されている天幕の中の一つ、そこで灼熱と部隊を率いる指揮官達が集まり軍議を開催していた。まず灼熱は生きて集まった指揮官達の顔を見渡すと被害状況の報告を求める。

 指揮官達は灼熱の言葉を聞くとそれぞれの部隊の被害状況を報告し始め、それを灼熱の側近の一人が羊半紙に手早く記載していき集計を始めていく。


「三万八千の軍が今や二万七千か・・・・・・中々に笑えない被害であるか。

 誰か本城に伝令を走らせ、増員と物資の手配をせよ」


 結果、先程の一戦だけで八千名もの死者が出ており重軽傷者を合わせればその被害は万にも届く勢いであった。事実上の壊滅的な打撃を受けた事を知った灼熱は士気を高め、勢いを取り戻す為にも後方の軍の上層部に人員の補充と失った物資の手配を決める。

 灼熱の指示を聞いて彼の側近の一人は無言で礼をして天幕から出ると伝令の手配をする為に離れていく。その足音を聞きながら灼熱は改めて集った指揮官達の顔を見渡す。血や泥、あの火計による煤で顔を黒く染めている者も居り前回の戦闘が如何に熾烈であったかを覗わせた。

 

「次回の戦では前に出て敵を焼き払ってくれよう。皆そのつもりで居よ」

 

 その姿に灼熱は静かに燃え盛る怒りの炎を胸中に秘めながらただ淡々と告げる。指揮官達はその言葉を聞くと皆歓喜の声を上げ腕を挙げただ叫ぶ。王国打倒、皇国の勝利を、と。

 灼熱は彼らの声を聞きながら巫女姫の神託を思い浮かべる。自らの龍によりその存在を認識し警戒していた相手がこの大陸から居なくなったと判断できるその言葉を何度も、何度も。神話の話が真実であるならばあのような化け物と対峙して生き残る事など、いや不興を買えば皇国そのものすら滅ぼされかれない。

 彼の存在が一体どのような思惑でジェライド王国と皇国の龍騎士を滅ぼしたのかは理解出来ないが居ないのであれば前線に出てウェイド王国軍を蹂躙する事に何の障害もないのであるのだから。


-次は力を貸してもらうぞ、炎龍ファルアージュ-


-・・・・・・彼奴めが居らぬのが気に喰わぬが盟約である。良かろうぞ-


 未だ続く指揮官達の鼓舞の声を聞きながら灼熱は自らの龍である炎龍ファルアージュと念話によるやりとりをする。ファルアージュは灼熱の意思を感じ取ると荒ぶる怒気を少しも隠そうともせずに思念に乗せ灼熱に承諾の意を返す。

 その意思を受け取った灼熱は一つ深呼吸をして腰に挿してある剣の柄をそっと撫で上げる。無機質な手触りが彼の手のひらをすっと滑っていき、その感触に灼熱は胸中で燃える怒りを静めようと勤める。


「それでは各自迎撃戦の準備を開始せよ。

 我々は此処でウェイド王国軍を迎え撃ち先の戦によって味わった屈辱をそのまま叩き返してやるのだ」


「はっ!」


 そうして幾許か怒りが静まったのを自覚した灼熱は締めとして指揮官達に指示を下す。彼らはそれを聞くと鼓舞の声を上げるのを止め一様に礼をしてその言葉に答えると直ぐに行動を開始するべくそれぞれの部隊へと戻っていく。

 灼熱はその様子を見ながらそっと目を閉じる。彼の瞼の裏に映っているのはファルアージュを駆る自らによって焼き払われる王国軍と、地上戦力である歩兵や騎兵といった皇国の兵達によって蹂躙されていく王国軍と王国領。

 巫女姫の神託をどのように皇帝や軍の上層部が解釈をしたのかは分からないが、彼女の神託によって始まったこの戦争。

 灼熱の頭の中にあるのはただ命令を実行し皇国に勝利を捧げるという一念のみである。


「ラルフよ・・・・・・貴様の首だけはせめて私が刎ねてくれようぞ」


 そして灼熱一人になった天幕に、彼の呟き声だけが不気味な程までに響き渡った。













 同刻、ハーベル皇国首都にある本城内にある壮厳な雰囲気の一室にて巫女姫と呼称される第二皇女ルゥ・ハーベルが聖水の溜められた池に身を浸し静かに祈りを捧げていた。

 彼女が願うのはただ一つ、この戦争の早期終結のみ。自らの断片的な神託で始まったこの戦争に彼女自身も心を痛めているが故の行動であった。戦争の切欠となった神託と、つい先日唐突に下った神託の内容とその真意は彼女に理解しきれるものではない。

 ただ伝えるだけの彼女にはそれを解釈し行動を起こす父である皇帝や軍の上層部を支配する大貴族達には意思を押し通すだけの力がないのだ。


「・・・・・・・・・・・・」


 だから彼女は祈る。

 信仰の対象である偉大なる天空神スティフォニカに一心不乱に、ただこの大陸の平穏を願って。彼女の祈りに答える声はいまだない。ただ祈りを向けられている彼女の神は沈黙を保ち続けているのみだ。

 ルゥは合わせていた手をそっと解き聖水の池に手を浸すとそっとそれを掬い取って呆然と聖水の揺らぎを見つめ続ける。水面に映りこむのは彼女の顔と天井に張り巡らされた採光用の小さな窓一つ。


「スティフォニカ様、どうぞ答え、お導きください」


 ルゥはそっと呟くと手に掬い取っていた聖水をこくりと喉を鳴らして飲み干し再度手を合わせて祈りを捧げ始める。流れ込む聖水の音を聞きながら彼女はただ待つ、神の言葉を。

 そうして幾許かの時が過ぎた頃、彼女は祈るのを止めて聖水の池の中から立ち上がる。ぱたぱたと彼女の髪から聖水の雫が滴り落ち、聖水が溜められている池の淵に聖水の後を残す。

 そっと濡れた体を見下ろし、禊用の薄着が張り付いて薄らと見える自らの体を見る。穢れを知らず、箱庭に捉えられていると錯覚するかのように育てられた彼女の体は白く美しい。神託を初めて受けて以来それはどんどんと強く感じられるようになった。

 下着も身につけていない為女性を象徴する部分も薄らと見えており彼女はそれに気付くと反射的にそれを手で覆い隠し、うっすらと体を桜色に染め上げる。

 ああ、このままじゃ出ても恥ずかしいかなという感覚が彼女の中に沸き、彼女はもう一度祈りを捧げようと思い立ちその身を聖水に沈めようと振り返る。


「!?」


 そして彼女は見た、聖水の池の上に立つ真紅の髪の男を。

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