王都ウィロン
「人を呼びつけておいて待たせるとはいいご身分だな」
「まぁそう怒るなって。今のご時世考えて見ろよ、多少は考慮してくれるべきかと思うんだけどな?」
王都の東西南北に存在する全ての門から続く位置にある王都の中でも随一の広さを誇る大広場。そこにクロウディアは居た。その隣には茶髪の短髪の騎士が苦笑を浮かべながら立っている。
騎士の言葉を聞いたクロウディアはどこか愛嬌を感じられる笑みにふっと息を吐くと空を見上げる。太陽は既に西に傾き始めてから一刻ほどの位置にいる。正午前から待っていたのだから既に3時間程こうして広場の噴水の前で待ちぼうけていたのだ。
「まぁ、いいか。
ところでディン、前もって言っておくが私は軍に身を置くつもりは毛頭ないからな。昔馴染みのお前の顔を立てて態々庵から出てきたのだぞ」
「そう邪険にすんなって、案外お国勤めもいいもんだぜ。俸給は良いし、街じゃちびっ子達のヒーローにだってなれる」
騎士、ディンを見やりながらクロウディアは呆れ混じりに告げる。それを聞いたディンはにっと笑みを浮かべるとつらつらと軽い口調で語り始めた。
「今は戦争中だから機会もないけど、覚えが良ければ高値の花の護衛にも抜擢されたり海を超えて派遣される使節団の護衛に任命されて見識だって深められて人生経験も豊富になるし」
そこで言葉を区切ったディンは得意げな笑みを浮かべ、王城に目を向ける。
その動作に釣られるようにクロウディアも王城に目を向け、言葉の続きを促すように目を細めた。
「王国の麗しの花、リーナ王女殿下に声を掛けてもらえることもある」
どうだ。そう言わんばかりに胸を張ったディンを見てクロウディアは苦笑を浮かべる。
幼い頃からの友で、何かにつけて共に居た。ここ3年程はディンが王城に騎士として仕官してから顔を合わせていなかったがその変わらない人をおちょくりながらも何処か許してしまえる柔和な笑みを見て安堵したからだ。
「結局お前の行き着く所はそこなのか」
「はははっ。
まぁ途中はホントで最後は一年に何度もない奇跡みたいなもんなんだけどな」
王城に向かい足を進め始めながらクロウディアはディンに語りかける。
ディンはそれを聞くと子供っぽいような笑みを浮かべながら歩き始め、クロウディアの横に並んで堪えた。
「それでお前の所属している第四混成騎士団だったか。私はそこの傭兵って扱いと考えて良いのか」
「あー・・・・・・国が雇ったって訳じゃないからなんとも。
お前の話をしてそれを聞いた団長が個人的に雇ったって感じになるのかな。軍部のお偉いさんにも話は通してないみたいだし」
「・・・・・・大丈夫なのかそれ」
「多分」
広場から北東に抜ける道の先に見える王城。そこを目指しながら二人は大通りを歩く。
戦争中なのに。いや、だからであろう。恐怖を隠すように活気付いた商店街を他愛ない雑談を交わしながら歩いている時、ふと思い浮かんだ疑問をクロウディアが口にした。
それを聞いたディンは若干言いよどみながら答えると、駆け寄って来た数人の子供の頭を撫でながら空いている手で頬を掻いた。
クロウディアはそれを聞くと呆れ混じりに呟き、ディンが確証も持てない故に曖昧な返事を返す。
「ま、いざとなったら現地雇用した兵って事で押し通すと思うぜ」
「猫の手も借りたい状況なのは理解できるのだが、本当にいいのかお前の所属している騎士団」
「ふふふ。
ま、成るように成るだろ」
商店街を抜け、次第に近づいてくる城壁。陽光を浴びて白亜に見えるその色合いを見ながらクロウディアは眉間に手を当てながらディンと会話を続けながら歩く。
城門の傍まで来るとディンは軽い口ぶりで告げると、城門の脇に待機している衛兵の傍まで進んで行った。2,3言葉を交わし、軍式の敬礼をしあったディンと衛兵。どうやら話が終わったようだ、そう中りをつけたクロウディアは城門に向かいディンの後を追うように進んでいく。
クロウディアが来たのを見たディンは城門の脇にある衛兵用の潜り戸を開き、手招きをしてクロウディアを呼ぶと戸を潜り中に入っていく。それを見たクロウディアは衛兵に軽く会釈をすると潜り戸を抜け、王城内の敷地に足を踏み入れた。
「意外と質素な造りなのだな。もっと華美なものかと思っていた」
「前にシルクの王城に使節団の護衛で行った先任の話じゃうちの国が質実剛健なだけで他は絵に描いたような豪華絢爛さだってさ」
王城の敷地内に入りまず見えたのはイメージしていたよりもずっと質素な造りの庭園だった。もっと彫刻が点在し、多様な花が植えられ、趣向を凝らした造りになっているかと思っていたが実際目に見た庭園は石畳の道が王城へと真っ直ぐ向かい、正門の前で四叉路になっている。その脇を四季折々の木々が植えられ、木々の合間に小さな花壇がある。その木々の向こうに見えるのは外部に面した開放廊下から時折見える侍女の姿だけ。
イメージと違う事に少し関心を抱いたクロウディアが呟くと、ディンはにっと笑みを浮かべながら相槌を打った。
「それじゃ、とりあえずうちの騎士団長とご対面してもらおうかな。その後同期の同僚達を紹介するよ」
「・・・・・・ああ」
王城に入る正門の手前、石畳の道が四叉路になっている場所に着くと、ディンは正門へと向かう直進の道から王城外部を回るように伸びている左の道に入りながら言う。
クロウディアはそれを聞きながら正門を一瞥し、その後を追うように歩き始める。
「お前が所属している騎士団の団長、どんな人物なんだ」
「団長は面倒見の良い、人間族の準貴族の人だ。元は平民なんだけど長年仕えたのと盗賊、魔物魔獣の討伐で功を積み上げていって準貴族に拝命されたらしい」
外周を沿うように歩き始めて数分。初夏の柔らかな匂いを運んで来る風を感じながらクロウディアは先を歩くディンに話かける。
ディンは少し目を細めると、今まで聞いた事のある話をつらつらと語り始めた。
「今回の戦争が始まってもう3ヶ月程になるけど、一~五ある騎士団とその直轄軍。その中でも一番少ない死者数と勝利数を誇っていて、部下の進言も真摯に聞き入れる度量の深い人って所かな」
「戦略にも機敏なら大局を見通す戦術眼も持ち合わせているという解釈でいいのか。
ん・・・・・・?」
ディンの話を聞き相槌を打っていると、ふと感じる視線にクロウディアは右手に見える王城を見やり、視線を上に向ける。
遠目になって顔は確認出来ないが、金髪の女性と蒼い髪の女性が王城のテラスからこちらを見下ろしているように見えた。魔法を使って顔だけでも確認してみるか、そう思っていた時に蒼い髪の女性と視線が交差したような気がした。
それは相手も感じ取ったのだろうか。金髪の女性の手を引くと、すっと王城の中に姿を消していく。
「どうしたー?」
「いや、気にするな」
クロウディアが少し離れた事に気づいたディンが足を止め、振り返りながらクロウディアに声をかける。その声を聞いたクロウディアは最後にもう一度だけテラスを見ると、ディンの横に再度並び立った。
どこか印象に残る蒼い髪の女性、その姿がひどく頭に残り、言い様のない感情をクロウディアの胸中に残す。されどその感覚は煩わしいとも感じられず、けれど好意的なものとも言えない不思議な感覚。クロウディアはその感覚に微かに繭を顰める。
「っと、到着。
ここが第四混成騎士団の団長と、騎士達が勤めている宿舎だ」
あの女性のことを考えながらディンと雑談を交わしていると、ふと建物が目に留まる。木造の平屋のようだが、中々年季と重厚感を感じさせる様相をしている。
それを見たディンが口を開き、クロウディアに向き直るとおどけたように礼をしながら言った。
「ようこそ第四混成騎士団に。
これからは楽させてもらうからな、クロウ」
「・・・・・・まぁ、考えておいてやろう」
その様子を見たクロウディアは苦笑を浮かべると、ディンに促され建物の中に足を踏み入れた。
エルフまだです 龍もまだです 魔族もまだーで 魔物もまーだっ!
え、エロフ? なにそれこわい