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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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灼熱

 ハーベル皇国軍との激突から一週間後の朝、ウェイド王国軍は制圧された土地を解放しながら進撃を続けとうとうハーベル皇国とウェイド王国の国境に軍を進めていた。制圧された各地の抵抗は僅かなもので少しだけ残された守備部隊と皇国進軍開始時にウェイド王国に反旗を翻しハーベル皇国に寝返った下級貴族の軍勢だけであった。

 ウェイド王国軍はこれらを迅速に殲滅し失地を取り戻すと国境の向こうにまで撤退した灼熱の軍勢との再激突に向けてほんの僅かな間の平穏を国境の傍で過ごしていた。


「クロウディアさん、部隊の損害状況の報告が上がってきたので机の上に置いておきますね」


 当然それはクロウディアの部隊にも訪れており、クロウディアはその時間を使用し部隊の再編成を推し進めていた。

 クロウディアの意思を汲み取りレナとバーンもそれに尽力しており、今も部隊の編成を整え終えてレナが報告にやってきていた。クロウディアはレナの声を聞くと今まで見ていた書類から目を上げ新たに彼女が持ち込んできた書類に目を向ける。ざっと五十枚近くありそうなその紙の山を確認するとクロウディアは苦笑をしながらレナに声をかけた。


「すまないな、折角時間が余っている日なのに」


「いえいえ、どうせやらなきゃならない事ですし間際になって慌てるよりも今のうちに済ませてしまった方が良いですしね」


 クロウディアに声を掛けられたレナはにこにこと笑みを浮かべながら答えると持ってきた書類を机の上に置くと軽く会釈をしてクロウディアの天幕から退出していく。それを見送ったクロウディアは今まで見ていた先程の戦闘での全体の被害を記された書類から目を外すとレナが持ち込んできた書類を手に取った。

 被害の内訳としては歩兵六十三が死亡、二十名が重軽傷。騎兵が二十名死亡に三十名が重軽傷。後方の弓兵や魔導師には特に被害は無いという旨が示されている。敵の両翼を押さえてこの被害ならば代金星といった所であろう。だがクロウディアの表情は書類に目を通す前よりも些か険しいものになっていた。

 彼の胸中にあるのは自分がもっと魔法を連用して敵を効率的に減らす事が可能であればもっと良い結果に繋がったであろうという思いのみ。最初に敵を駆逐してからは低階位の魔法を連用していたのには事情はあれどやはり被害を実際に目の当たりにすると彼にも思う所があった。

 そっと胸に手をやる。力強い心臓の鼓動に連動するかのように感じられる力の塊は頼もしく、されど今自らを攻め立てている原因でもある。仮にあの場に灼熱が現れていればこの思考を振り払えるのであろうが生憎灼熱は結局戦場に現れる事はなくl重要な遠距離火力を残したまま上手く撤退していった。

 一筋縄ではいかないとは想定していたが想像していたよりも敵の魔導師を討ち取る事が出来なかったのがクロウディアの中では唯一の誤算と言えよう。仮に次の戦闘でも同じような戦法を取られれば今回以上の損害を被る事は目に見えておりそれは望ましくない。

 自分達が失敗した時の為に別の騎士団が居る事は間違いないが龍騎士に抵抗出来るかと言えばそれは限りなく不可能であり必然的に対抗手段を有する自分が対応に当たるしかない事が彼にとってのの最大の懸念事項であった。

 ぱらぱらと手早く、されど確実に内容を確認しながらクロウディアはレナが持ってきた書類を確認し終えると机の上にそれを放り投げる。内容としては簡潔だ。残存部隊を中核として本陣の守備に付いていた部隊を引き入れたとの事。

 それにより本陣周辺の守備能力はある程度低下するであろうが特に問題無いであろうというレナとバーンの署名入りの見解とラルフにもその旨を通達し了解を得ているとの旨が記されている。

 ふぅと一つ深呼吸をしクロウディアはこの後の戦の事に思考を巡らせる。先の一戦での勝利は得がたい大切なものであるのはウェイド王国軍にとっては重要である。されど灼熱率いるハーベル皇国軍がわざわざ制圧した土地を放棄しハーベル皇国の国境の中にまで撤退する意図がいまいち判断し辛い。殿を残して撤退し各村落に部隊を配置し防衛を繰り返す事も可能だった筈なのだ。たとえば王国軍が一つの村落を開放しようと戦闘を開始している最中横撃や背後からの奇襲を仕掛けるなど、それこそ選択肢はよりどりみどりだ。

 仮に自らがハーベル皇国軍を率いていたのであればその戦術を採用していたであろうし、飛躍した話になってしまうが前線で敵と戦闘を繰り広げている間に別働隊を後方の本国と結託して編成し敵の都を制圧は出来ずにしろ甚大な被害を与えるのを目的での強襲を仕掛ける事も考えられる。背後から届く物資や王都に座する軍の上層部との連絡が途絶えればそれだけで指揮系統に相当な混乱を与える事も可能だからだ。


「ふむ・・・・・・理解に苦しむが」


 ラルフもそれを見越していたのであろう。敵を追撃してどんどんと皇国と王国の国境に接近するにつれて徐々に斥候を増やし、周囲への警戒を強めていた。

 国境に到達してから既に二日。国境を超えて偵察に出ている部隊の報告では灼熱の部隊に動きは見られず、今日の夜明け前に少数の騎兵と共に馬を駆って自らの目でハーベル皇国軍を確認してみたが怪しい動きも気配も感じ取れなかった。

 今後偵察の頻度を高め灼熱の軍と皇国の首都を往来する伝令の姿を確認し、可能であればそれを捕虜として捕まえ伝令の内容を拷問なり尋問なりをして確認する事が急務であろう。クロウディアは昼前にラルフの下に顔を出してその旨を申告してみようと結論付け、その思考に関して一時終了させる事にする。

 

「ならば残る問題はハーベル皇国首都の制圧戦が最大の難関であるか」


 そして次に浮かぶのは敵の首都を攻略する時の事。皇族の住まう皇城もあり皇帝の一族の全てが住まう城でもある以上その抵抗は凄まじいものであると予想される。何より気掛かりとなるのが彼の城には巫女が住まい神々の神託を聞きそれを告示しているというまことしやかな噂話。

 行商人を介してこの大陸に徐々に浸透していっているこの話は田舎から出てきたクロウディアの耳にも届く程度には有名であった。現在主神として崇められている天空神スティフォニカの声を聞きそれを民に、貴族に、皇帝に告げる巫女姫の存在。

 その虚実は不明瞭であれどもし事実であればかなり厄介な事態にもなる可能性がある。教会の連中が戦争に顔を突っ込んできて停戦、皇国に有利な条件での停戦もありえるのだ。過去からの文献や書物にも教会の、宗教の力は侮りがたく国政の中枢にすら楔を打ち込むほどのものであるのだ。

 仮に巫女姫が教団に神託としてウェイド王国との停戦を臭わせる旨を伝えただけでその可能性は一気に増大する。それほどまでに噂にしか聞かぬその巫女姫の存在は危険因子でもある。これを防ぐのであれば電撃戦を仕掛け灼熱の軍を一気に打ち破りハーベル皇国の首都を襲撃、制圧して巫女姫が神託を告げる間もなく身柄を拘束するという程度だ。

 神殺しとの面識がある以上神々の実態については理解しているが故に彼の巫女姫の実態は疑い深いものであるが警戒に越した事はない。クロウディアはそっと目を閉じると今後の動きについて考えを巡らせ続けた。

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