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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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開かれる戦端4

「中々やり手であるか」


 戦闘が繰り広げられている最前線を後方の本陣から見やり灼熱は感慨深げに声を漏らしていた。

 彼の目に映るのは右翼が徐々に瓦解していきそこを切り口に攻勢を強めていくウェイド王国軍の姿。本陣からも視認出来た敵軍の魔法は本陣付きの魔導師の話によると第三位に位置するものであるらしいが照射時間も威力も本来のソレを遥かに上回っているとの事であった。相当高位の魔導師が随伴してきていてもあのような事象は不可能であり、そもそも脆弱な魔導師が遊撃に動く部隊に付いて動き回るのは想像出来ない。

 灼熱は黙って生き物のように変動していく戦場を見据えながら思考に耽る。この戦況を打破する為に自らの前線へと繰り出しウェイド王国軍を焼き尽くそうかどうかを。だが個人の力で戦争を終結させても残るのは後の反乱への芽だけでもある。個の力ではなく郡による圧倒的な制圧力を敵国民に示すのが重要なのだ。

 それに気がかりもある。自国の龍とジェライド王国の龍を滅ぼした神話の神殺しの存在。ありえない話ではあると思うが滅んでも全てを継承して再誕する龍が言う以上無視できない話だ。何故そのような超越存在が活動し、龍を滅ぼしているのかは想像にも付かないがその行動から考える以上龍を持って戦闘に加われば遭遇する可能性が否定出来ない。


「・・・・・・前衛の重歩兵部隊に撤退の合図を送れ。同時に中軍の魔導師は即座に交代し戦力の温存を。左翼、中軍の前衛戦力はそれらの撤退行動を支援せよ」


 結果、灼熱が出した答えは今暫く出撃を控え、軍同士のぶつかり合いでこの戦況を打破するというものだった。そのためには一度崩れかけた戦線を再構築させる必要があり、直ぐに撤退の指示を出すように側近の騎士に告げる。

 灼熱の指示を受けた側近の騎士は無言で礼をし、その指示を伝達するべく早馬の手配を始める。その様子を見ながら灼熱は再度戦場に視線を向ける。左翼の瓦解に伴い敵の戦力が右翼、中軍へ殺到し始めている以上これ以上時間をかけて戦力を浪費するのは得策ではない。指示の伝達速度が戦力の消費の是非を掛ける状況であった。


「撤退が始まったか。残る気掛かりはあの魔法を放った敵のみか」


 指示を出してから十数分後。灼熱の指示が行き届き始め戦場に変化が訪れ始める。撤退していく魔導師と重歩兵を守るように騎兵と軽歩兵が壁となりウェイド王国軍の行く手を阻み、飛来してくる雨の如き矢がウェイド王国軍の戦力を削っていく。

 その光景を見ながら灼熱は次の展開を頭の中で想像しつつ今までの戦闘の流れであった注視点を思い返していく。此処に至るまで戦闘を繰り広げた王国軍とは兵や騎士の質も上で統制も取れている。機動力も高く流石は敵の精鋭とでも賞賛するべきなのであろう。

 そしてその中でも一番記憶に焼きついているのは右翼を瓦解するまでに追い込んだ現況であるあの魔法を放った敵兵の存在である。もしあのような魔法を連射されるような事態になれば苦戦は免れず、最悪自らが討って出て行かねばならないかもしれない。だがその場合彼の神殺しと相対するかもしれないというとてつもないリスクを背負う事にもなる。

 そんな考えを巡らせながら各部隊からの伝令が届く。指示通り魔導師と重歩兵を撤退させ遅延戦闘を開始するという内容だ。灼熱はその報告を聞くとひらひらと手をふるい報告に来た者を下げさせると戦場に目を向ける。ハーベル皇国がこのままウェイド王国王都を襲撃するか、敗退し戦況を一変させられるのか。両者の命運を分ける戦いは中盤へと差し掛かろうとしていた。




















「追い首を逃すな!」


 撤退を開始していくハーベル皇国軍。その姿を見て王国軍の各所から追い首を求め勇ましい雄叫びが戦場に轟いている。その声を聞き名がらクロウディアは撤退していく重歩兵に向かい目を向けて動きを観察する。

 敵が撤退していくのは中軍の後方、恐らく魔導師と共に運用する都合そこには敵の遠距離火力である魔同士もいるであろう。先程から飛来してくる魔法の数が減少している事もあり重歩兵の撤退に合わせ魔導師の温存も実行するであろうと読んだのだ。

 そして周囲を見渡し、お互いの距離を把握する。敵が展開するのは地形で言えばウェイド王国軍より僅かに低い位置に展開しており、ウェイド王国軍は我龍鱗の陣を敷いているため密集している。これならば前もって考えていた策を実行出来るであろうとクロウディアはすっと目を細め口角を吊り上げて笑みを零す。

 すっとクロウディアが手を空に向ける。それを確認したレナは直ぐに鏑矢を構え空に放つ。空を咲く音が戦場に響き、その音を聞いたウェイド王国軍の部隊、その中でも弓兵達が慌しく動き始める。一部歩兵の部隊も動きを見せ始め策の実行の準備は想像していたよりも容易に完了しそうであった。


「油壷、投擲開始!即座に火矢を放て!」


 そして準備が整い、各部隊の隊長たちが号令を掛ける。ウェイド王国軍より油が詰められた壷が敵中軍からその後方に向かい投擲されていく。そしてその後を追うように火が着いた布を幾重にも巻かれた火矢が放たれる。

 随時着弾していくそれは油の勢いを借りてハーベル皇国軍を真っ二つにするかのように轟々と音を立てて燃え広がり始めていく。低い位置に陣取っていた為に下から上に燃え上がっていく炎の性質に抗う事が出来ず次第にその炎はハーベル皇国軍を全て燃やしつくさんと拡大していった。所々で魔方陣が煌き水の蒸発する音が聞こえはするが消化するよりも油の勢いの方が強く、水を含んで広がった油は更にその炎の範囲を拡大していった。

 どんどんと放たれる火矢と油壷は容赦なく降り注ぎ、いくつかは空中で魔法によって撃墜されるが確実に炎による地獄をハーベル皇国軍に広げていく。人肉が焼ける不快な臭いが戦場に充満し始め、我慢出来ない者達が咽る声がそこかしこから聞こえ始める。

 クロウディアはその光景を見るとこの一戦の勝利を半ば確信し、最後の不安要素である敵の龍騎士が居るであろう後方の敵本陣に目を向ける。敵の本陣は不気味なまでの沈黙を保っており、未だ何も動きを見せる気配がない。

 炎に属する龍が出てくればこの程度の炎などたちまち支配下におき、鎮圧出来るのにも関わらずだ。お互いの思惑が見え隠れする中この場所での戦いはとうとう佳境へと突入していく。

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