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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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遭遇3

 轟々と音を立てながら燃え盛る炎が周囲の風景を揺ら揺らと歪め、立ち上る熱気によりからからに乾燥した空気は今にも炎に引火して爆発を起こしてしまいそうなその地。世界に四つある大陸の内の一つ、魔族が支配する魔大陸と呼称されるガール大陸。

 そんな不毛な大地に一人の少女の姿があった。夥しい瘴気を孕んだ風がびゅうっと吹き抜け、少女の透き通るような銀の長髪を揺らす。触れるだけで皮膚がぐずぐずに腐食してしまいそうな程に強い瘴気を孕んだ風を受けた少女は涼しげに目を細める。まるで何も感じていないかのように。

 事実何も感じては居ないのであろう。風が吹いてぼろぼろと大地が侵食され腐食しているのにも関わらず少女の足元の地面は腐食しておらず、少女の周囲の空気は瘴気を孕んだ風すら浄化しこの魔大陸に相応しく無いほどに清浄な空間を形成していた。


「・・・・・・動いた」


 ぽつりと少女が呟きを漏らす。氷のように冷ややかな青い瞳がすっと細められ、口元は愉快そうに釣りあがりその身震いするほどの美貌をより深く彩る。彼女が感じたのは、魔力。それもつい最近まで感じていて教授していた懐かしい魔力であり、ずっと昔から知っている懐かしい匂いをした魔力だ。その瞳が移すのは遥か遠方、クロウディア達が居るハーグ大陸がある方角。

 思い起こすのは禍々しいまでの戦火と生き物達の怨嗟の声。頭の中でフラッシュバックするその光景は彼女にとって絶対に忘れる事が出来ず、忘れる事を絶対に拒む彼女の根源の記憶。ひらひらと雪の様に降り注ぐ白い羽根の吹雪の中で見た最も敬愛していた存在の死の瞬間とそれを成した世界を滅ぼして尚足りぬ程の憎悪を抱く彼の化け物の姿。いと尊きあの御方を殺めその力を簒奪せしめた全ての生命の絶対敵対者の姿。

 どうっ!と轟音を立てて彼女の周りの瘴気を孕んだ空気が弾け、神々しい程の清浄な空間が辺りを侵食していく。彼女が纏っている白き法衣から僅かに覗く数少ない手の甲や首筋に不可思議な紋様が浮かび上がり、それがぼうっと薄く光り輝く度にその空間は徐々に拡張していき魔大陸の僅かな空間を神聖な場所に創り変えていく。

 

「あの子が動く以上奴もまた現れる・・・・・・。

 あの日から続くこの因縁をこの時代で今度こそ終わらせましょう・・・・・・アーク・ロード」


 彼女の口から漏れた言葉はその美しさと神聖性を否定するかのように憎悪に塗れ、その憎しみと怨嗟の炎が隠す事なく溢れ出していた。細められていた瞳がそっと開かれる。その瞳は黄金。何者にも侵食されず、絶対たる意志を貫かんとばかりに潸然と輝く瞳はまごう事なき絶対たる君臨者という証明でもある。

 溢れ出る力が次第に空間すら浸食を開始し、ぎしぎしと音を立てて彼女の周囲の空間が悲鳴を上げていく。その力は世界を育む原初の力にして全ての源。その力をその御身に宿し彼女はその黄金の瞳に凄まじい程の意思を点らせる。

 彼女の名はセフィリア、セフィリア・シエル。クロウディアとディンに師と呼ばれていた女性であった。


「ふふ、うふふふ・・・・・・・・・・・・!あははははははは!」


 狂ったように笑い始めた彼女の放つ力は更に増大し、一気に周囲を侵食していく。そしてそれを止めんと一気に襲い掛かる今までより濃密な瘴気と彼女の原初の力と拮抗するように降りかかった魔力の圧力。

 セフィリアはそれに気付くと溢れ出ていた力を身体の奥底に封じ込め、身体に浮かび上がっていた紋様が消えていく黄金の瞳も元の青い瞳へと戻っていく。すると彼女の力によって浄化されていた周囲の空間が再び魔大陸のおぞましい空間へと塗り替えられていき、何事もなかったかのように復元されていく。

 ふっと微笑を浮かべ、セフィリアは周囲に目を向ける。周りにあるのは彼女の力に中てられ命を散らした力の無い魔物と、彼女自身の手によって破壊されたであろう中型、大型の魔物無残な死骸。それら全ては傷つけられた箇所からぼろぼろと風化していき崩れ落ち始めている。


「・・・・・・これ以上この大陸に居ると魔王が小言を言いに来るわね」


 それを見たセフィリアはほうっと溜息を吐く。頭にふとよぎったのは額に青筋を浮かばせながら自らを睨みつけて苦言を漏らしにくるであろう魔王の姿。自らの力では滅ぼしきれない程度には強力で、されど自らには及ばない彼の王。なまじ見知っている相手であるのがさらに彼女の調子を狂わせてやり難くする。

 彼が魔族を統治してから魔族は秩序を持ち、世界から大規模な種族間抗争の火種は消え去り表面上は平和な時代が訪れた。それが凡そ四千年前の事でもある。そう、その時から魔王と彼女の関係は一切変わる事無くこの時まで続いているのだ。


「出る前にからかってから行くとするかしら。血族に会うのだし」


 ぽつりと彼女は呟くと、法衣を靡かせて静々と歩き始める。その足取りは強く、力強いもの。魔大陸の瘴気すら彼女を避けてその道を譲っていく。ゆっくりと、ゆっくりと彼女は魔王が座す地へとその足を進めていった。




















「始まる。長きに渡る我が大願が成就する時が」


 血の海、まさにこの言葉が適切であろう。

 凄惨な死体が辺りを埋め尽くしその骸から溢れ出る血潮が煌びやかな王宮を真っ赤に染め上げていく。生暖かいそれは季節柄の温暖な気候も手伝って徐々にだか蒸発して乾燥していき、赤黒い染みと咽返るような血の臭いを残していく。

 此処はハーベル皇国帝都オクスメル、その帝都を一望出来る高台にある皇国軍の一大軍事基地。その殺戮を成した張本人である神殺しは目の前で虫の息といった様を見せている龍の頭を踏みつけながら呟きを漏らす。

 凄まじい力であろう、地面が陥没し龍の頭部が地面に埋没していく中神殺しは龍の傍らで倒れている青年騎士に目を向ける。彼は首から上が無く、痙攣している身体には無数の殴打の痕跡だけが残されていた。ひしゃげた鎧がその威力をまざまざと物語っている。だがそんな青年騎士への興味を直ぐに失った神殺しは踏みつけている龍に目を向け口を開いた。


「アールゥは三度目だったらしいが貴様は二度目であったか?氷龍シギスヴァージュ」


-然り。そうそうに滅するが良かろう化け物よ-


 神殺しの言葉にシギスヴァージュはぼろぼろの体躯に懸命に力を込め、諦めを宿した瞳で神殺しを見上げながら答える。

 シギスヴァージュは知っている。永遠に生き、命を断たれても別の場所で新たな体躯を得て記憶と魂をそのままに僅かな時をおいて再誕する我ら龍族であってすら抗うことの出来ない絶対たる暴虐の化身の事を。一度目は彼の戦い終盤。数多の同胞が滅ぼされたあの日、恐怖に慄く己を襲った不条理にして不可避なあの一撃を。

 嗚呼、この世界はなんと儚くも危なげな世界なのであろうか。シギスヴァージュは己の属する属性を統べる頂点の女神に静かに祈るとそっと目を閉じる。


「さあ、貴様で我が力を呼び戻す為の呼び水は完全に整うであろう。そして誇るが良い、汝の一時の消滅を持ってして二度目の狂乱の宴が始まるのだ」


 それを見た神殺しはアールゥを討ち滅ぼしたあの剣を顕現させるとその切っ先をシギスヴァージュの頭にそっと突き立てていく。どんな鋭い剣も弾き、第一位の魔法すらものともせずに弾き飛ばす龍族の鱗がまるで紙のように引き裂かれ、その刀身はずぶずぶと肉体に埋没していく。

 そして剣が突きたてられた場所から、どんどんとシギスヴァージュの力が吸収されていきその身を構成する全てが神殺しへと移動していく。そして一瞬だけ神殺しの瞳が黄金色に輝き、すぐに元の色彩へと戻っていく。にっと笑みを浮かべた神殺しはシギスヴァージュの全てを吸収し終えると辺りの死体へと目を向けた。


「ふむ・・・・・・。力が戻ったかどうか試すのも一興か」


 辺りの死体を見た神殺しはすっと目を細め、彼らの骸に僅かに意識を向けるとぽつりと呟きを漏らす。そしてただ一言呟いた。


「【黄泉返れ】」


 その一言でシギスヴァージュと彼の契約者である青年騎士以外の遺体が巻き戻るかのように復元していき、どんどんと生命の息吹を発し始める。

 神殺しはそれを見るとその奇跡と言うべき光景を見届ける事無くその場からすっと溶けるように姿を消していた。

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