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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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王都ウィロン3

「王都には結構来ているんですけど、こんな風に歩くのって初めてかもしれないです」


 商店街の人の波をかわしながら歩いていると、ふとシャールが呟いた。

 その声に気付いたクロウディアがシャールを見ると彼女の目はせわしなく動く人の波を興味深そうに追い続けており、商品を売り込もうと声を上げる店主達の激しい声は彼女の耳をびりびりと揺らす。余程鮮烈な光景なのだろうと思い、クロウディアは笑みを浮かべながら言った。


「建国してから一度の遷都も行われること無く、魔性や盗賊といった者達との戦火にも晒される事も無くあり続けた正にこの国の中心たる都です。

 自然と王都には人が集まり、王国内の交易都市と遜色しない程の活気をもっています。これも王家が善政を執り行い、貴族の皆様方がその意志を汲んで発展に尽力を注いだ結果でもあります」


「んー・・・・・・。

 えへへ、お父様やお爺様の事なんですけど・・・・・・。面と向かって言われると結構照れちゃいますね」


 言われた言葉に気恥ずかしそうに笑みを浮かべ、シャールは答える。

 クロウディアはそれを見るとシャールの手を引きながら商店街を抜け、南門の前まで移動した。シャールは目の前に見える大きな城壁と王都と外を分け隔てる門を見やり、続いてその門で衛兵に検査を受けている隊商や旅人の列を見る。

 皆粛々と検査を受けて城門を通り抜け、また反対に城門から外へ向かう者達も衛兵に手形を掲示して王都を出発していく。戦争中も変わることのないその風景にシャールはどこか安堵を覚え、自然と溜息を吐いていた。


「このまま東門の方に向かいましょうか。

 あちらの方は商人の多い南門方面と違い詩人や旅の芸者などが多く居るとディンから聞き及んでいますので良いものが見れるかもしれませぬ」


「詩人に芸者さんですか・・・・・・!

 私旅芸人の方の芸を見るのって小さい頃以来ですね。とても楽しみ!」


 南門前で暫し足を止め、シャールが感傷から立ち直るまで待ってからクロウディアは新たな行き先を提案する。

 シャールはそれを聞くとにこにこと笑みを浮かべながら嬉しそうに声を上げると、クロウディアの腕を取って先を急かすように歩き始める。クロウディアはその様子に微笑を浮かべるとシャールに引かれるがままに歩き出す。


「お父様の領地でも時折芸人さんが訪れていたんですけどずっと習い事ばかりしていて、最近は戦争が始まったせいで中々散策にも出れなくなってしまってたんですよね」


「それだけ大切に思われているのでしょう。公爵閣下のご子息はシャール様だけと聞き及んでおります、なればこそ尚更でしょう」


「過保護なだけですよ・・・・・・。

 小さい頃は領地の騎士さん達に着いて来てもらって色んな所を歩いていたんですよ、私」


 交わされる会話に淀みはなく、穏やかな空気が二人の間を流れる。

 クロウディアはシャールが口を尖らせながら幼い頃の話を交えながら語る話に耳を傾けながらそれに相槌を返してはその頃の彼女の事を想像し、くすりと笑う。


「あ、笑いましたね」


「いえ・・・・・・。その頃の愛らしいシャール様の事を思うと微笑ましく」


「むー」


 それに気付いたのかシャールがクロウディアをジト目で見上げながら抗議すると、クロウディアは困ったような笑みを浮かべて答えた。シャールはその返答が不満だったのか声を出してじーっとクロウディアを見上げ続けている。

 クロウディアはその姿にとくんと胸が鼓動を打つのを確かに感じながら、笑みを浮かべながら言う。


「今も十分愛らしいですよ、シャール様」


「・・・・・・様抜きで呼んでくれたら許してあげます。あ、あとクロウさんて呼んでもいいですか?」


「流石に敬称を取ることは出来ませぬよ。私の呼び名でしたらお好きなふうに呼んでください」


 その言葉に機嫌を少し良くしたシャールから出た妥協案に、クロウディアは苦笑を浮かべる。前者は無理だろうと中りをつけ、後者ならばと思い答えると、不満げな様子ながらも幾分か自分を見る目がやわらかくなったように見えた。

 シャールは繋いでいた手を解き、一歩前に出てクロウディアの真横に並び立つ。クロウディアは離れていった手の温もりにどこか喪失感を感じつつも隣に立った彼女に目を向ける。


「もぅ・・・・・・。

 それじゃ今日はこれで我慢しますよー。さ、行きましょうクロウさん!」


 クロウディアとシャールの視線が交わると、彼女は悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべながらクロウディアの手に抱きつくように腕を絡めてきた。

 その行動にクロウディアが呆気に執られている中、シャールは許しを得たばかりの呼び方でクロウディアに声を掛けながらまた歩き始める。手の平から消えた暖かい温もりの残照はゆっくりと自分の熱と同化していくような錯覚を覚え、新たに腕全体を通して伝わってくるシャールの暖かさにクロウディアは微笑を零す。シャールはクロウディアの微笑を見ると満足そうな笑みを浮かべ、より力強くクロウディアの腕に抱きついた。


「・・・・・・それでは進みましょうか。あまり遅くなると城に戻る頃合には夕日が沈んでしまうかもしれません」


「そうですね。あんまり遅くなると侍女さん達やリーナも心配するでしょうし」


 じんわりと染み込んでくる熱の心地よさを感じながらクロウディアは空を見上げ、頂点からだいぶ西に傾き始めた太陽を見てシャールに声を掛ける。

 シャールはそれに同意するとクロウディアの腕に抱きついたままクロウディアを見上げた。それに気付いたクロウディアは苦笑を浮かべると、彼女を導くように歩き出す。


「エスコートさせてもらいましょう、シャール様」


「えへへ、お願いします」


 そうやらそれは彼女の望みに叶っていたようであり、クロウディアに告げられた言葉を聞いたシャールは満面の笑みを浮かべながらクロウディアに合わせるように動き始める。

 当然クロウディアは歩幅を調整して彼女に負担を掛けないように歩いている為、その進みは先ほどの手を繋いでいた時よりも遅くなっている。だが二人の間にはどこか幸せな空気が漂ってるのだけは間違いなかった。


「不思議ですよね」


「どうしましたか?」


 ゆっくりと歩き、時折言葉を交わして進む。そして二人の目に東門が見えた時になってシャールがぽつりと呟きを漏らした。クロウディアはそれを聞くとシャールに目を向けながら言葉の続きを促す。


「こうして貴方と腕を組んで歩いているのがずっと昔から当たり前で、何の違和感も感じないんですよ」


「・・・・・・奇遇ですね。私もです」


 気恥ずかしそうにシャールが言うと、クロウディアも同じ事を思っていたのかと感じつつ素直に同意の言葉を返す。シャールはそれを聞くと笑みを浮かべながらクロウディアを見上げ、クロウディアも穏やかな面持ちでシャールを見つめる。

 不思議だ、どうしてだろう、何で?落ち着く、心地良い。

 二人の心に飛び交う疑問など瑣末な事でしかないのであろう。周囲から見た二人はそれほどまでに幸せに満ち溢れていたのだから。

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