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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
13/38

出陣の兆し

 クロウディアが第四混成騎士団に入隊してから十日目の朝。王城は一つの報告により右往左往の様を見せていた。

 一つは侵攻していたジェライド王国軍の突如の消滅。威力偵察に赴いた部隊の報告によると本陣が敷かれていた盆地には兵一つの影も無く、陣は無残に破壊されきっており、その周囲には戦闘を行った様子も敗残兵の姿も認められない事。ハーベルとジェライドが争ったと仮定してもこれは絶対にありえず、新たな敵の出現かそれともジェライド王国内で動乱が発生しその鎮圧に赴いたのかと意見が分かれた。

 もう一つは補給や軍の再編成の為に侵攻を一時停止していたハーベル皇国軍の侵攻が再開され、駐留地より全軍を持って南進を開始し既に二つの関所と一つの砦を陥落させ着実に王都への道を切り開いているとの報告だった。


 前者は数十分程王が出席する御前会議で論争され、後者は数時間にも及ぶ時間を掛けて対処が話し合われてた。そして下された結論は進撃してくるハーベル皇国軍を迎え撃ち撃退、勢いに乗り奪われた各領土全てを奪還するというものだった。

 第一混成騎士団は王都及び王都周囲の警備。第二混成騎士団は奪われた領土への強襲及び皇国軍を撃退した時の敗残兵の討滅。第三混成騎士団は補給線の確保及び各軍への補給。そして第四混成騎士団はハーベル皇国軍の迎撃及び第二混成騎士団と協力しての掃討。

 この指令を受け各騎士団は即座に行動を開始し、第四混成騎士団も指令を受けた日の夕方には既に行動を開始していた。


「矢の予定数量が揃いそうにです」


「急な指令だし多少は目を瞑るべきであろう。それに現地で調達すればいい」


「糧食の数は揃いそうですけど水の手配が・・・・・・」


「水ならば川などの水を煮沸して使えば平気でしょう。最悪魔導師に水魔法を使わせて揃える手もある」


 数々に舞い込む進軍への準備の報告と問題点。それをラルフとクロウディアの二人が話を聞き、順当に指示を飛ばして捌いていく。


「しかしクロウディアよ。多才であるな」


「師から様々な事を仕込まれましたので。一通りの事は出来ますな」


 指示を求める人の波が途切れた僅かな時間。ラルフは今まで共に様々な指示を出していたクロウディアの事を面白そうに見やりながら声を掛けていた。

 クロウディアはその言葉を聞くと昔の事を思い返したのか、苦笑を浮かべながら返答をする。


「我々が迎え撃っている間に第二の方が上手いこと制圧をしてくれればよいのですが」


「どうであろうかな。

 確かに退路を立てれば補給も立てて持久戦に持ち込め、勝率も跳ね上がるであろう。だが敵もそれは知っておるであろうしそこに龍騎士を配置しておくはずだな」


「なれば実質は我々のみで敵を退けてあちらと合流ですか。此方は正規軍一万に民兵二万。相手は総勢三万八千でありましたか。

 後方の守勢に手を裂いたとしても最低三万と当たり、運が悪ければ龍騎士付きと。中々に心躍るものがありますな」


 また現れ始めた指示待ちの者を二人で処理しながら今回の進軍及び敵の話をし、二人はそれぞれの頭の中で戦の軌跡を描き始める。内容は違うであろうが最終的に目指すものが同一な以上、それぞれの意見を突き合わせながら話は続いていく。


「正面から当たるのは厳しいのは目に見えている。火か石でもって大勢を決したい所なのだが」


「なれば火でありましょう。今の時節柄雨も降らずに地も草も乾いておりますので。石を使うとなるともう少し懐に案内することになるので今の国の情勢では適切ではないでしょうな」


「然らば火で持って攻めるとして火力が足りん。余分に使う油も備蓄にはないし民衆から徴発するのは陛下が許可なさらないであろう」


「それならばご安心を。

 魔法にも通じておりますので広範囲を対象とした火の魔法も扱えます」


 少しずつではあるが頭の中の絵が完成に近づいていく。二人はそれからも細かい話をしつつ順次指示を飛ばして行軍の準備を進めていった。


「それじゃお前は遊撃が主任務か」


「そうなるな。健闘を期待しているぞディン」


 当日の夜中。

 一通りの指示を出し終え後は準備が完了するのを待つばかりとなったクロウディア達指揮官の面々は思い思いの時間を過ごしていた。

 クロウディアはディン、バーン、シャドウ、レナと一緒に王都の一角にある古びれた老夫婦が営む酒屋を訪れて酒を酌み交わしながら親交を深めていた。それぞれに当てられた任務を伝え合い、激励の言葉を掛け合いながら呑む酒は思った以上に進み既にクロウディアとディン以外の者達の顔には赤みが浮かんできている。


「シャドウとバーン、レナは撹乱だったか。成果が求められる事柄だな」


「あー……まぁ頑張るかな」


 クロウディアに言われシャドウは苦笑を浮かべながら頬をかきつつ答える。

 バーンは既に調子良く酒を煽っており、レナはそれを苦笑しながら諌めつつ、なんだかんだと酌をしてやっている。


「この戦闘で皇国を押し返して失地を回復して、どう動くと思う」


 グラスに残っていた酒を一気に飲み干し、手酌で酒を足しながらシャドウがぽつりと口を開く。

 それを聞いて酒を飲んでいたバーンも手を止め、少し動きを止めて考える。クロウディアとディンは既に答えを決めているのか、考える素振りも見せずにちみちみと酒を煽っていた。


「・・・・・・まー打倒な所でそのまま国力の回復に努めて準備が出来次第侵攻じゃねえかな」


「かなあ」


 止めていた手を再開し、ぐいっと酒を飲み干したバーンが口を開く。レナもそれに同意見なのか特に言及せずにいる。その言葉を聞いたシャドウは呟くと、クロウディア達の意見を求めるように目を向ける。

 それに気付いた二人は目を合わせ、無言で意思を交わすとディンがやれやれと肩を竦めながら答えた。


「多分そのまま皇国に攻め入って早期に決着をつけてジェライド王国に転進って形になるんじゃないかな。此方も疲弊しているけど出征してる分敵の方が負担は大きい訳だしそこを見逃す程上層部も優しくはないと思う」


「でも長期間の戦争は民衆に負担がかかるし陛下も認めないと思うんだけどな」


 ディンの返答を聞いたシャドウは首を傾げながら意見を述べる。

 その意見は確かに的を射ており、歴々民衆を大切に扱っていた王家としては考えられない対応ではあると全員が分かってはいる話だからだ。


「なればこそ疾風が如く攻め上がり決着を着けるという事も念頭に入れておいたほうがいい」


「・・・・・・うん」


 その空気を断ち切るようにクロウディアが言うと、シャドウも納得したのか短く返事をすると酒を再び飲み始める。

 それを見届けたクロウディアは自身も酒を煽ると空になったグラスに手酌で酒を足すとそのまま一気に飲み干す。そして五人はそのまま日付が変わる時間まで酒を酌み交わし続けていた。

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