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ウェイド王国史 -時ー  作者: そこら辺にいる一般人えー
極光の主
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夜風に巡る 後

 ざああっという音を轟かせながら夜風が中庭を吹き抜ける。

 魔法で形作られた兎はその風に乗るように空中を数度跳ね回るとリーナ達の足元に着地し、二人の足元を駆け回る。

 小さな美しい兎の動向に二人はきらきらと目を輝かせながら魅入っているのを確認したクロウディアは右手に魔力を集めると兎を創った時と同じ手法で今度は二羽の小鳥を創り出し、それを解き放つ。二羽の小鳥はそれぞれがリーナとシャールの肩に留まると美しい囀りを合唱の様に鳴らし始めた。


「凄い・・・・・・!

 王宮の魔導師の者でもこんな事が出来る人なんて居ないのに」


 その囀りを聞き、リーナは目を閉じると聞き入りながらどこかうっとりとした様子で呟く。リーナの呟きを聞いたシャールも同様に凄い、と口にすると創られた兎と小鳥に心を奪われていた。


「初歩の応用なのですがね、意外にこれが難しいもので。

 他の魔導師の修練方法は存じませぬが私は師にこういった芸を兼ね合わせながら色々と叩き込まれたものです」


 創り出した獣達をやんわりと制御し、二人にじゃれ付かせながらクロウディアは過去を思い返しながら苦笑を浮かべた。

 師はどこか無口で氷の様な雰囲気を纏わせながら心すら溶かし尽くす容貌を誇っていた。そんな師が魔法の鍛錬をするに辺りこういった芸を仕込んでくれたからそれを披露している。良く出来た時はその顔に薄らと微笑みを浮かべては言葉少なく褒めてくれたものだ。

 

「さぞ高名な魔導師なのでしょうね。お名前をお聞かせ頂いても?」


「構いませんとも。

 セフィリア。セフィリア・シエル。世捨て人の様な御人でありました」


 昔を懐かしんでいるクロウディアを見たシャールが何処かむっとした雰囲気を見せながら問い掛ける。

 クロウディアはその言葉を聞くとシャールに目を向け、その様子に内心戸惑いながらも答えた。


「聞かない名前ですね」


「そうでありましょうな。実際私も彼女の事で知っている事など何もありませぬ故」


「セフィリアさんか、懐かしいなあ」


 シャールはその師の名前を聞くと、覚えている限りの高名な人物と照らし合わせるが符号する者が居らず目を丸くしながら呟く。

 それを聞いたクロウディアが苦笑を浮かべながら答える中、ディンが声を漏らしていた。


「そういえばお前はやたらと駄目出しを喰らっていたな」


「凡才、何をさせても平均的って言われた時の俺の絶望感と言ったらもうな・・・・・・」


 ディンもセフィリアにある程度教授を受けた事があるのを思い出したクロウディアはふっと息を吐きながら目を細め、当時の様子を懐かしむ。

 ディンもその当時の事を思い出していたのであろう。セフィリアから言われた言葉を思い出して一人深い溜息を吐いた。


「そういや俺は一年ちょっとで村を出ちまったから殆ど基礎訓練ばっかだったけどお前の方はどうだったんだ?」


「ん・・・・・・。教授を受けていたのが十三の頃からだったか。一年はお前と同じでそれから一年刻みで魔法、軍略に武術など多岐に渡ったな」


「うわぁ・・・・・・。凄いハイスペックだったもんなあ」


 それから四人で談笑を交わしつつ、魔法の劇を演じながら時間を過ごしているとディンが思い出したかのようにクロウディアに声を掛ける。

 その話の内容が気になるのか、シャールとリーナも鑑賞を中断しクロウディアに目を向ける。クロウディアはディンの言葉を聞くと当時を懐かしみ、微笑みを浮かべながら答えた。


「確か・・・・・・。

 【貴方は知っている】

 【貴方の魔力が知っている】

 【貴方の血が知っている】

 【貴方の魂が知っている】

 【貴方の運命が知っている】

 この問いというか謎掛けと言うのか・・・・・・これだけは未だに理解しかねる部分が多いのだがな」


 修練を積んでいる当時、良くセフィリアに言われた言葉だ。その言葉の真意は何であるのかは理解出来ない。だが意味があるのだろうと今も強く記憶に焼き付いている。

 当時の事を思い出していた為に不意に漏れたその言葉にシャール達は聞き入り、ディンは頭を掻きながら苦笑を浮かべながら言う。


「見た目凄い若いのに嫌に年季感じたもんなあセフィリアさん。それ聞いて昔聞いたお小言思い出したよ」


「本人が居なくて良かったな。聞かれていたら今頃立っていられんぞ」


 それを聞いたクロウディアはふと鼻で笑いながら苦言をする。

 ディンはその言葉を聞くと肩を竦めながら間違いないと言うと、ちらりと周囲に目を配る。


「言われたらどっかで見てる気がしてくるのが不思議だ」


「あながち間違いでもないかもしれんぞ。

 何せ語らんが識を広い人だったからな」


 ぶるりと身を震わせながらディンが言うと、クロウディアは鷹揚に頷きながら答える。

 そのやりとりを見ていたシャール達はくすくすと笑い声を零すと、クロウディアとディンに声を掛けた。


「御二人は仲が凄い良いんですね。凄くお互いを信じてる」


「あーまぁ幼馴染って奴です。同郷なんですよ」


「幼馴染ですか・・・・・・私とリーナ様と一緒ですね」


 それを皮切りに故郷の村の様子を聞かれたり、幼少時代の話をせがまれた二人は苦笑を浮かべながら一つ一つ丁寧に、当時の事を振り返りながら答えていく。

 そうして幾許かの時間が過ぎた頃、魔法の劇も自然と終焉を迎えており既にその幻想的な風景は終わりを告げていた。粗方話し尽くした四人の間に心地良い沈黙が流れている最中、ふと城の中からぱたぱたと走り回る音が聞こえてきた。

 シャール様、リーナ様という声が聞こえるのを考えると二人を探す侍女の声だろう。そう中りをつけたクロウディアは二人に向き直ると一礼し、続いてディンも最敬礼を取る。


「今晩はご尊顔を拝謁するばかりか会話を許して頂いた事、光栄に思います」


「いえ、とっても楽しかったです」


「またお話してくださいね」


 クロウディアが二人に向けて言うと、リーナとシャールは大輪の花が霞む様な美しい満面の笑みと共にクロウディア達に声を掛ける。

 そして侍女の声が中庭に近づいてくると、二人は優雅にスカートの裾を掴み、一礼する。


「ではまたお話できる日を楽しみにしていますね。

 それじゃおやすみなさいクロウディアさん、ディンさん」


「明日からのお勤め、精一杯頑張ってください。今は戦争中ですけど皆様の力でこの国とお父様をどうかお守りください。

 それではおやすみなさい。今日はとても楽しかったですよ」


 王女と公爵令嬢の優雅な礼に見惚れそうになる中、二人の声に気付いたクロウディアとディンは再度礼をもってそれに答える。

 二人はそれを見ると微笑を浮かべながら城内に戻り、去り際に振り返るとクロウディア達に手を振ってから侍女の声がする方に歩いていった。

 その後姿が見えなくなると、クロウディアの隣で盛大な溜息が聞こえてくる。何事かとそちらを見たクロウディアの目に映ったのは、随分と疲れた様子のディンだった。


「随分参ったようだな」


「いやむしろどうしてお前平気なんだよ頭どうかしてるんじゃないのか」


 その様子を見て苦笑を浮かべながらクロウディアはディンに声を掛ける。

 ディンはクロウディアの言葉を聞くと呆れたような視線を向けながら答えた。ディンの答えを聞いたクロウディアは肩を竦めながら言う。


「確かに緊張は多少はするがそう肩肘張るものでもあるまいて。

 むしろ不自然に力みすぎても無礼に当たるというものだろう?」


「まあそうなんだろうけども」


 ディンが答えるとクロウディアは空を見上げる。

 月が傾き始めている。それを見たクロウディアは城内に向け歩き始めた。ディンはそれを見ると苦笑を浮かべながらもクロウディアの後を追い城内に戻っていくのだった。

せーふぃりあさんせふぃりあさん。


3章くらい前倒し登場

過去の黒歴史を見ていてこうしようと思ったんだもん!ほんとなんだからっ!もぅ・・・・・・

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