浦島太郎プロジェクト
「お爺ちゃん、お話って何?」
「お前に大事な話があるんだよ。聞いてくれるかい?」
「うん!」
「それじゃ話そう。お前なら信じてくれるかもしれない、私が体験した話を………」
私はその日、仕事が長引いて真夜中に帰る事になってしまったんだ。
そしていつのまにか、帰りのバスの中で寝てしまった。
起きた時、何故か私は真っ暗な部屋に横たわっていた。
最初私は、この部屋の異質な臭いと嫌な湿り気に吐き気を覚えた。
真っ暗な部屋には、西暦、月、日、時間、の示してあるデジタル時計だけが不気味に赤く光っていた。
暗すぎて自分の手さえ見えない。
私は誘拐されたのか?
ここはドコなんだ。
私は慌てて手探りで出口を探した。
しかしこの正四角形の部屋のドコにも扉らしき物はなかった。
私は叫んで助けを呼んだ。
「誰かぁー助けてくれぇー」
「助けを呼んでも無駄だ。ここは人の手の及ばない森の奥に建てられている。」
真っ暗な部屋に低い男の声が響いた。
「誰だ!」
私は見えない監視者に叫んだ。
「君には我々の実験に強制的に協力させてもらう」
奴らは私の質問を無視して言った。
「君はその部屋で長い月日を過ごしてもらう。生活に必要な物は、規則の範囲以内の物ならよういしよう。」
「待ってくれ!長い月日ってどれくらいなんだ?」
「それはまだ決まっていない。」
「私がいない間、妻や子供はどうなるんだ?」
「それはこちらでもう対処している。」
「なんなんだよ、あんた達は?」
それっきり奴らは何も言わなくなった。
それから数日間、私はここから出るためさまざまな行動をした。
はじめは、壁を思いっきり叩いた。どうやら壁は厚い鉄板で出来ているようだった。
壊す事は不可能だ。
他にも色々ためしたがどれも無意味に終わった。この部屋での生活はとても辛いものだった。
食事は決まった時間に決められた場所から出された。
しかし真っ暗で何も見えないので食べるのにとても苦労した。
もう一ヵ月もたつ。不気味に光る時計のおかげで時だけは正確にわかった。
さすがにもうここから逃げるという考えはなくなり、毎日ダラダラと過ごす日々が続いた。
月日がたつにつれ、私は老いていった、手足は衰え、顔にはシワが増えていった。それは手で顔を触るたびにわかった。
私がこの部屋で過ごして、ちょうど四十年がたったある日。
それは突然だった、部屋が突然明るくなった。
いや正確に言うと天井の電気がついた。
私は四十年ぶりの光に目がくらんで、しばらく目が開けられなかった。
奴らの声が聞こえた。
「実験は成功した。君を元の生活に戻す。協力に感謝する」
すると部屋の壁の隙間から煙が出てきた。
その煙を吸ったとたん私は、深い眠りにはいった。
気が付くとそこは、見慣れた家の近くのバス亭だった。
やっと解放された。あの地獄のよいな監禁生活から解放されたんだ。
私は急いで家に帰った。
ヨレヨレの足を懸命にばたつかせて走った。
そして勢い良く玄関のドアを開けて叫んだ。
「帰ってきたぞ!やっと戻れたんだ。」
最初にその声を聞いてやって来たのは、お前だった。
お前は私に向かって言った。
「お爺ちゃん、だれ?」
私は愕然とした。そうだ私はこの四十年で変わり果ててしまっていた。
お前がわからなくて当然だ。
しかし私はある疑問に気ずいた。
四十年で私はヨボヨボの爺さんになったのに何故?お前は昔のままの姿なんだ?
私は玄関に飾ってあるカレンダーを見て、呆然とした。
まだ一年しかたっていない!?
そんな馬鹿な。あの部屋の時計ではもう四十年も………
私はその時奴らが何の実験をしたのかがわかった。
あの部屋の時計はあっていなかったんだ。通常よりも早く時が進んでいた。
それを信じた私は四十年たったと勘違いをしていたんだ。
そしてそのせいで、身体まで…………
その後妻もやってきたがお前と同じ反応をした。
「この話を信じてくれるかい?」
「それじゃお爺ちゃんは………」
「そうだ。お前のお父さんだよ。」
「嘘だ!お父さんはちゃんといるもん」
遠くから四十年前の私にそっくりな男が歩いてきた。
「あっお父さんだ!」
そ、そんな馬鹿な。
「コラ、晶!知らない人と話ちゃダメだろ、早くお家に帰りなさい。」
男は息子にそう言うと私に近ずいてきた。
息子は男の言うとうり家に帰っていった。
男は私に言った。
「実験にご協力ありがとうございました。それでわまたの機会に。」
次の日、身元不明の老人の首吊り死体が公園で発見された。