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「楠、そんなに柱を囓ったらこの小屋が壊れちゃうよ。遊ぶならこれにしよ?」

廃小屋の中、杏が楠に遊んで良いものといけないものを教えている。

年の離れた弟がいるからだろうか、杏は楠が何かしでかしても頭ごなしに怒らず、してはいけない理由と、代わりの案を示してやめさせる。

“蓮は少し__だから___してみたら_…”

(何か…涼水に似たような言い方されたっけ。)

記憶の中で薄っすらと浮かぶ涼水の言葉は、朧気で掴み取れない。

「蓮くん?どうしたの?」

「別に。」

「そっか。」

吽蓮の淡白な物言いにも慣れたらしく、杏も物怖じせずに受け答えている。

楓はまた街での任務が下され、里の面々と忙しく動き回っていて廃小屋には来ていない。

「あいつ、言い出しっぺのクセに全然来ない。」

「仕方ないよ、楓ちゃん忙しいから。」

ぼそりと零した呟きにも杏がしっかり拾って返す。

「楓ちゃん、私達の代では右に出る者は居ないんじゃないかって言われてるんだよ。術もたくさん知ってて、難しい退魔符だって使えちゃうんだから。苦手って言ってる剣術だって私よりもすごくて…」

「乱暴だから合うんでしょ」

気が強く沸点の低い彼女が妖にキレ散らかして退治する図を鮮明に想像する吽蓮。

「そんな事ないよ。楓ちゃん、距離を取るのが上手なんだって。」

「距離?」

首を傾げる吽蓮に杏が頷く。

ここまで踏み込めば牙を向かれる、攻撃が来る、といった敵との距離感の測り方が絶妙なのだと杏は語った。その感覚が冴えているからこそ自身の攻撃も相手に届きやすく、戦いにおいて上位に立てるらしい。

「私は見たことないから又聞きなんだけどね。でも、人との距離感の取り方も楓ちゃん上手いから。すごい納得。」

「アンタは任務とかには行かない?」

「私はそんな…戦うどころか後方支援にだって出た事無くて…」

俯いて苦笑いする杏の表情が影を帯びる。

「元々、グズなのもあるけど…その、すごく怖がりで…何でもすぐ怖いって思っちゃって…“こうなったらどうしよう”って思ったら足が竦んで動けなくなったり…そんな危なっかしいのは任務に出せないよね。」

任務の中には命懸けとなるものもある。身内を守る為にまだ危うい存在である杏は同行させられないようだ。

「でも、それでも良いかなって…もっと後ろ…里で怪我して帰ってきたみんなを支える役目だってあるし…」

こちらをじっと見る吽蓮の視線から逃れるように杏は楠に向き合いその頭をわしわしと撫でる。

「杏はオレが怖い?」

「えっ?」

「楠が怖い?」

突然の問い掛けに杏はブンブンと首を振る。

「じゃあ大丈夫。『怖い』が解けるのが人より時間掛かるだけ。」

「ありがとう…」

吽蓮はその場しのぎの言葉や、おべんちゃらを口にしたりはしない。そう理解があるからこそ、杏は卑下したりせずに素直に吽蓮の言葉に頷いた。

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