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夕暮れの山道を早足で歩く。

体も大きく、四足歩行の山犬は移動も早いらしく、里の仲間と決めた楓の担当する区画は疾うの昔に越えているが、なかなかその姿を見つけられない。

「見覚えのあるひよっこが彷徨いているかと思えば…やはりお前か、小娘。」

聞いた声に空を仰ぐと、白鴉が居た。

思わぬ到来に楓は足を止めて問い掛ける。

「白鴉…。この辺に山犬が来なかった?」

「山犬……阿蘭の事か?」

確か、少年も山犬の事をそう呼んでいた。どうやら知り合いらしい。

「多分……あ、あと男の子! 私と同じくらいの背丈の……」

「吽蓮か。何の用だ?」

「あの子、吽蓮っていうの? 山犬を探すのを手伝うって約束したの。」

要領を得ないようで目を瞬かせる白鴉に、今までの経緯をごく簡単に話した。

「なるほどな、彼奴らそれで手こずっているのか。」

「どういう意味?」

「お前たち破魔の里の人間の存在感は喧しいのだ。他の人間の気配や匂いを辿ろうにも、お前たちが邪魔でなかなか目標に辿り着けないでいる。」

山犬が楓の前に姿を現した理由も、きっとそれなのだろう。

気配に誘われて出てきたが、目的の人物ではないと判断し、すぐに去ったのだ。

「仲間を連れて山を下れ小娘。彼奴らは今朝お前が雨を凌いだ神社の神体を取り戻そうとしている。お前たちと標的は同じ盗人だ。お前たちが手を出さずとも盗人は罰される。」

「それはダメ。その盗人は他にも沢山手を出しているの。盗まれた御神体も神器も取り返さなきゃ。」

言い聞かせるように話す白鴉に、楓は頑なに譲らない。

「お前たちに神体など必要なのか? 都合の良い時だけ、やれ神頼みだ祈りだなど詭弁を吐き、見返りがないと過去に受けた恩恵も忘れ、存在すら忘れ去るではないか。」

白鴉が人間を嫌う、その理由の一面を垣間見たような気がした。

今朝、流風と雨宿りをしたあの廃れた神社も、その成れの果てだ。楓は返す言葉がすぐには見付からず、口を噤んだ。

「彼奴らは違う。神が宿らなくなった神体でもいつまでも大切に守り、自分たちを見守り育ててくれた神を想っている。人間にその誠実さがあるか?」

「人間全ての代弁は出来ない。けど!私は、人のした悪さを拭うのは人でなきゃいけないと__」

ようやく探し当てた言葉を紡ぎだそうとする楓の耳に、悲鳴のような叫び声が届いた。

山の中にいるであろう、よく知る里の仲間の声ではないが、鬼気迫るその声色に、楓の身体は白鴉の制止も聞かず、反射的にその声の元へと走り出していた。

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