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動乱の世の中、戦や貧困、飢饉に流行り病。人々が恐れる大きな存在がもう一つあった。


“妖”(あやかし)。

気付いた時には既に確固とした存在となっていた妖は、この数十年で世に蔓延った。

各地で人の前に姿を現し、獰猛な妖は村を襲い、知性ある妖は時に人の世の要人を狙い──


妖を退治する術を手に入れた者達は新たな力を求めて集い、いつしか集落を作り上げるまでに膨れ上がった。


力を持たない者は尊敬と畏怖の意を込めてその集落を“破魔の里”と呼ぶようになった。

それが楓の住む里だ。


「すると、もしかして今から妖退治に向かうつもりだったのかい?」

それならば邪魔をしてしまった、と謝る彼に楓は首を振る。

「あんたの…想像通り。どうなっても良いと思ってた。」

先刻まで目の前の男を無視しようとしていた自分はどこへ消えたのか、一度話してしまうと言葉が止めどなく溢れ出してくるようだ。自分の変化に溜め息を漏らしながら楓は口を開いた。

「姉がね、死んだの。これでやっと一周忌…」

楓には姉が居た。桜という名の、少し年の離れた唯一の姉で、破魔の里に住む一族のこれからを担う存在として家人の言い付けをしっかり守って修行をしていた。

その桜が死んだ。

原因はよくわからなかった。病気だったらしいが、何の病か、原因も対処法もわかる前にこの世を去ってしまった。

たった一人の姉を失った楓はあまりの哀しさに来る日も来る日も沈んで過ごしたが、周りの大人達はそうではなかった。

桜に代わる存在として妹である楓に白羽の矢を立て、次々と修行を課したのだ。修行が嫌だったわけではない。桜のことを最初から居なかったものとして回っている生活が堪らなく嫌だった。


「お姉ちゃんも私も、家を守る為の単なる道具なんでしょ?」

家を担う筈の父が死に、姉も死に、流れ作業のように次は楓にその役が回ってきた。自分が居なくなったら当然のように誰かにその役が回るのだろう。

突っ掛かった楓に祖父は否定も肯定もせず一言、“つまらない事を考えるな”と答えるだけだった。心のどこかで否定して欲しいという気持ちがあったのだと思う。楓は祖父の言葉にひどく失望した。

桜がどれほど家のために生きてきたか、皆わかっていない。

本当は普通の女の子として過ごしたい思いもあったはずだ。

それなのに、死んだ途端に存在まで薄れていくなんて──桜が報われない。

悲しいような、悔しいような、やるせない気持ちが渦巻いて楓は何も言い返せずにその場を去った。

ただ無性に苛立ち、でもそれをぶつける場所も無く楓は里の外に出た。

破魔の里は妖がよく出るという山のすぐ近くにある。山から下りてくる妖を街に行かせない為の盾の役割を果たしているのだ。小者から凶暴なものまで様々な妖の住むその山へ単体で入るというのは自殺行為だ。しかし楓の足は止まらなかった。

妖に出会して自分が死んで、祖父達は次期を継がせるのに体面上便利な血縁が居なくなって困れば良い。そう思った。

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