墓
何だか全て流風の思う壺になっているようで少し癪だった楓は、一度も振り返らずに里への道を歩いた。
里に戻っても幸い、里の人々は起きがけだったり、朝の支度をしていたりで、楓の帰還どころか不在にも気付かなかったようだ。
一度家に戻ったが、お咎めも詮索もない。
「あら? おはようございます楓様。今日はお早いですね。」
「おはようございます。何だか目が覚めちゃって。」
「残念そうに言わないで下さいよ、早起きは三文の得ですよ?」
侍女が声を掛けてきた。
朝の弱い楓を珍しく思ったらしい。
聞くと、まだ母は部屋から出てきていないとのことで、楓は今度はちゃんと言伝てを残して、もう一度家を出た。
片手に、傘狸のくれた撫子の花を握り締め、楓はとある場所へ向かう。
山の入口から道を外れて歩いた先に、それはある。
桜の墓だ。
破魔の里では本来、墓は作らない。
遺体や骨を狙った妖に荒らされるからだ。
そのため、細かな灰になるまで燃やし、山や海に散骨するのが通常である。
だが、それではあまりにも寂しかったので、楓は内緒で墓を作った。
桜の遺品を棺に見立てた小さな箱に入れ、地中に埋めて土を盛り、その上に大きな石を引き摺り上げた。
見た目は墓だが、その下に桜は眠っていない。
傘狸から桜の墓前にと渡されたこの撫子も、「墓は無い」と断ろうかと一瞬考えたが、ここの事を思い出して受け取った。
楓にとっては、ここが桜の墓なのだ。
根の付いたままの撫子を盛り土の脇に植え、線香を立てて手を合わせる。
実はね……__
ふと、桜が教えてくれた事を思い出した。
「私、妖の友達が出来たの。」
ああ、そうだ。確かに桜は嬉しそうにそう言っていた。
もしかすると、それは傘狸のことだったのかもしれない。
それとも…__
楓は浮かび上がった考えを、ぶんぶんと首を振って打ち消し、立ち上がった。
「また来るね、お姉ちゃん。」
墓を背に去る楓を見送るように、そよそよと吹く風に撫子の花が揺れた。




