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「あ。」

目が合った。

どこかへ行ってしまったと思った流風は、ただ黙っただけのようだ。

予想外に近くに居た流風と目が合い、楓は固まってしまった。

流風は一瞬きょとんとして楓を見つめ、ふっと吹き出した。

「何よ、いきなり笑って。」

状況が理解出来ない楓は、笑われた意味もわからず、少しムッとした声で問う。

「すまない、こちらの話さ。ハクア、君の企みは逆効果だったようだよ?」

一頻り笑った後、流風が木の上に声を掛けた。

釣られて見上げた古木の枝には、楓の追っていた白いカラスがじっとこちらを見下ろしていた。

「あ、泥棒カラス!」

「僕の友人が迷惑を掛けたようだね。代わって詫びよう。すまないことをした。」

「友人? カラスが?」

不思議な言動に、楓はもう一度木の上を見上げる。

白いカラスは確かに珍しいが、やはりただのカラスにしか見えない。

「妖さ。」

「なっ…!」

意表を突かれたのか、カラスが思わず声を出した。

(カラスが喋った!?)


二重に驚く楓を他所に、流風とカラスが言い合いを始めた。

「貴様! 何故ばらした?!」

「僕が無駄な隠し事を好まない事は、重々承知だろう? 君こそ、ばれたくなければ白を切れば良いではないか。カァとでも鳴けば良い。」

「不意を討つからだ! 急に口外する愚か者がどこに居る?!」

人間とカラスの言い争いを、楓は物珍しげに眺める。

「紹介が遅くなってしまったね。彼は『白鴉』。僕の、妖の友人さ。」

「……。」

声からして、さっき流風と話していたのもこの白鴉なのだろう。

見上げる楓を白鴉が無言で見下ろす。表情は読み取りづらいが、黒く円らだった瞳が細くなっている。きっと睨んでいるのだと思う。

「白鴉はあまり人間が好きではないのだよ。だから、友人である僕が君と関わるのを嫌って、これを勝手に持ち出してしまったようだ。」

流風の手には、楓が借りていた手拭いがある。

白鴉が足で掴んで運んだ為か、皺だらけになってしまっている。

「思いの外、君がここに辿り着くのが早くてね。白鴉の目論みは失敗に終わってしまったけれど。」

どこに居たのか、飛燕が飛んできた。

不機嫌そうな白鴉を見ながら笑っている流風の肩に、とん、と止まる。

「飛燕、君も白鴉に撒かれず、よくここまで追ってこられたね。良い使妖だ。」

「何で飛燕の名前を知っているの?」

「さっき自己紹介してくれたのさ。彼はなかなか礼儀正しい。」

飛燕が羽ばたいて楓の元へ帰ってきた。

主である楓にはわからない飛燕の言葉を、赤の他人の流風が理解しているのが少し悔しく感じる。

「あなた、本当に何者?」

初めて会った時にもした問いを、もう一度投げてみる。

「何者と言われてもな…。君より妖に精通しているのは確かかな? 君さえ望めば教えてあげよう。この森や巷に住まう妖達の事を、僕の知る範囲で。」

楓は真意を量ろうと、しっかり流風の目を見据える。

悪意や敵意は感じないものの、にこりと浮かべた流風の笑顔からは何も読み取れない。

「…流風、私は知らんぞ。」

白鴉が呆れたように吐き出した。

「きっとこうなったのも何かの縁さ。」

そんな白鴉を少し困った笑顔で見やり、流風は楓に視線を戻す。

「里の近くまで送ろう。近道がある。」

そう言って彼は、楓の通ってきた所とは少し違う方向へ歩き出した。

「ちょっと、私まだ帰るなんて一言も――」

「大方、白鴉を追い掛けて誰にも何も言わず飛び出して来たのだろう?早く戻った方が賢明だと思うが?」

至極尤もな意見に、楓は黙って流風の後をついて歩いた。


そんな二人の後ろ姿を、金色の瞳をした白鴉が目で追う。

やがてその姿が見えなくなると、白鴉はその真っ白な翼を広げ、大空へと飛び立っていった。

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