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ループ10回目の雑草令嬢ですが、英雄魔導士様とは初めてお会いしましたよね?  作者: As-me・com


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3/3

3:ループの記憶

 薬草に興味を持ったのは、たぶん子どもの頃の“出来事”がきっかけだったと思う。しかしその“出来事”についてはとても曖昧で、何があったのかは全然思い出せないでいた。


 なぜ曖昧かと言うと、それが1回目の人生での事で記憶がハッキリとしないからだ。私は断罪されて死ぬと新たに人生をやり直していたが、そのスタートはいつも殿下の婚約者になるようにと王命が下った3年前からだった。そのせいか、ループを重ねるたびにそれ以前の……幼い頃の記憶が薄れていくのである。


 記憶の中には確かに()()がいた気がするのに、モヤがかかっているようにぼやけてしまっていた。



 それにしても毎回、殿下の婚約者に選ばれたショックでループしたことを思い出すのだから厄介だった。何回目かのときに「それだけは絶対に嫌!」と咄嗟に叫んでしまったことがあって、激怒した両親からしつけという名の折檻を受けて傷が残ったことがあった。その人生ではそのときの傷痕を知った殿下に「よくもこんなキズモノを押し付けてくれたな!」と両親も一緒に責められていたが、私だけが責任を負って殺されてしまっている。


 その他のループでもだいたい同じで、あの両親には何を言っても通じないのだ。こちらから婚約解消を願ったら「口を慎め」とまたもや折檻され、殿下の不貞を訴えたら「女のくせに生意気だ」と殴れる。そして兄はいつもそれを黙って見ているばかり……。


 それならばと、せめて王妃様と仲良くなろうと贈り物をしようとすれば「下心が丸見えで卑しい」と罵られ、見た目を変えようとドレスを作ったら「無駄な金を使うな」と怒鳴られるのだ。


 そんな3年間を何度も繰り返す内に眠ると悪夢に魘されるようになった。


 両親も兄も、決して私を守ってはくれない。そんな事などとっくに分かっていたのに、何を期待していたのか。




 でも。と、思ってしまう。


 私は魔導士様から与えられた部屋に足を踏み入れ、フラフラとベッドに倒れ込んだ。()()マトモに眠れないだろうが、体を横にするだけでも違うはずである。明日からは“目的”のためにも魔導士様に気に入られるようにもっと頑張らないといけないのだ。まずは早起きして、とりあえず掃除をしようと思っていた。どうせいつものように夜明け前には目が覚めるだろうし。


 真新しいシーツの匂いになんだかホッとしてしまった。シンプルだけど可愛らしい部屋からは不思議と懐かしさすら感じる。公爵家にある私の部屋なんて居心地が悪くて苦痛しか感じないというのに、初めての部屋でこんな風に感じるなんて笑ってしまう。



「……今回は、頑張ったんだけどな」



 これまでのループとは違い、両親の願い通り王命を受け入れて従順な娘を演じた。出来るだけ目立たず逆らわず、学園では優秀な成績を維持する。()()の情報を集めつつ、その裏でこれまでのループで知った公爵家に起きる不幸を取り除くために動いては兄に情報を流して手柄を渡したりもしたのだ。あのときはあんなに喜んでくれていたのに、やはりダメだった。これまでの断罪の時は私の目の前に姿を現していたけれど、今回はそれすらなかったのだ。


 別に、仲良し家族になりたかったわけじゃない。そんなのはとっくに諦めていたけれど……昔は両親だってもう少し優しかったはずだ。もうほとんど思い出せないからこそ、わずかな記憶にすがっていたのかもしれない。


 疲れたな。と、大きく息を吐いた。


 せっかく生き残ったのだから、どうせなら全てを放り出して逃げ出してしまいたい。そんな衝動に駆られる。でも、私には目的があるのだ。わけがわからないまま繰り返される3年間をやけにならずに生きてこれたのはその目的があったからだった。本当ならいつもの断罪前にあの場所へ行けるはずだったのにと思うと、少し悔しい。


 ……ああでも、なんでそれを目的にしていたんだっけ?それに、なぜ10回もの人生をこんなにがむしゃらに頑張ってきたのか。もちろん生き残りたかったのもあるけれど……。


 いつからか理由も思い出せなくなっていたが、それでも、その“目的”だけは決して忘れなかったのだ。


 その時、どこからともなく柔らかな風が私の頬を撫でた気がした。





 ────ああ、そうだ。“約束”をしたんだっけ………………。





 急激に瞼が重くなる。今、何かを思い出したような気がしたが……体を包む心地好い浮遊感に思考が奪われていった。




 その日、私は3年ぶりにぐっすりと眠ることが出来たのだった。









 ***







 ────やっちゃった!



 目を覚ますと、部屋にあった窓から顔を覗かせた太陽はだいぶ高くにあった。朝というよりは昼近いのだろう。


 私は飛び起きて魔導士様のところへと急いだ。私は助手として命を救ってもらったのだから、本当なら早起きして魔導士様が起きてくるのを待っていなくてはいけないのにまさかの寝坊をしてしまったのである。


 いつもなら少し眠っても必ず悪夢で夜明け前に目が覚めるし、これまでのループの世界でも寝坊するなんてことなかったのに。まさか、夢も見ずにあんなにぐっすりと寝てしまうなんて想定外だった。



「も、申しわけありませ……へ?」


 事前に教えてもらっていた部屋へ慌てて入ると、目の前に広がる光景に私は言葉を失ってしまった。もしや今頃になって夢を見ているのだろうかと、思わず頬をつねりそうになる。


 すると私に気付いた魔導士様がくぐもった声で『ちょうどよかった。そろそろ起こしに行こうと思っていたんだ』と私に椅子を勧めてきた。


 そこには形の違う小さなテーブルがくっつけられるように並んでいて、その上にはまだ湯気の立つパンやスープが乗せられていたのである。


「これは……もしかして魔導士様が?」


『……テーブルがこれらしかなくてな。誰かに振る舞うのは初めてだが、味は大丈夫なはずだ。まぁその、パンの形が歪なのは見逃してくれ』


 なぜか黒マントで隠された顔が照れているように見えて、この食事が魔導士様の手作りなのだとわかると同時に私のお腹がきゅるると音を立てた。そして、魔導士様が『ふっ』と小さく笑う。


『食べてくれるだろう?』


「い、いただきます……」


 恥ずかしさを誤魔化すために椅子に座りスープをひと口啜ると、なんだか胸が暖かくなった気がしたのだ。


 ぐっすり眠れたのも、食事を心から美味しいと感じたのも本当に久しぶりだった。


 でも。




 ────どうして魔導士様はこのスープの味を知っているのだろう?


 だってこのスープの味は、薄れゆく記憶の中でわずかに覚えている思い出のスープだったのだから。


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