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事件

翌日は朝から西山別院の研修センターは大騒ぎになった。晨朝勤行をしていると指導員の先生たちが慌てて走り回っていた。4班の担当の指導員の先生も

「ここから後は最後までみなさんでやっていてください。終わったら後片付けをして朝食の準備に入ってください。」と指示をして出て行ってしまった。何があったんだろうという思いを持ちながら晨朝勤行を最後までやり遂げ、片づけを終えると食堂方面に戻っていった。すると食堂近くの職員事務室には何人もの警察官が多くの指導員の先生たちに話を聞いている。一部の警官は誰かの机の引き出しを開けて何か探しているようだ。研修員のみんなは朝食の準備をして座席に着いて待っていると、研修センターの所長さんがみんなの前に立って事態を説明した。

「みなさん、おはようございます。朝から警察官が入っていますから驚いたと思います。実はみなさんの指導にあたっていた田島栄心指導員が昨晩殺害されたそうです。京都市内のビジネスホテルで絞殺死体となって今朝発見されました。詳しいことはまだ捜査中なので今後の報道を確認したいと思いますが、今回研修の皆さんはあと数日で研修終了ですので、何とか無事に研修を終了して資格を取得して欲しいと思います。」と説明してくれた。

 研修生たちは入所以来、テレビも見ていないし携帯電話も事務所に預けているので、事件について報道を確認するすべもなかった。指導員に聞くしかなかった。

 朝食を終え、午前中の研修を済ませると昼食時間に再び説明があった。指導員の人は

「みなさん、今朝の事件について心配されていることでしょう。現在の段階でテレビの報道で放送されていることは事件現場は四条烏丸のビジネスホテル8階の部屋で遺体が発見されたのは今日の朝ですが、推定死亡時刻は昨夜の午後8時半ごろということです。今のところはこれくらいしかわかっていません。マスコミの取材を受けても推測で物を言わないでください。」と説明があった。食堂のテーブルで他の研修生と一緒に話を聞いた杉下は昨日のことを思い出していた。夕方の食事の準備が始まる頃、事務室横で田島が帰って行くときに

「きちんと話してきます。先日は話を聞いていただいて有難うございました。頑張ってきます。」と言ってくれたことを思い出した。田島指導員と付き合っていたのはあの式務部の青年だったはずだ。結婚する予定で付き合ってきたが彼が大きなお寺に婿養子として入ることを考え始めたので、別れ話になっていると言っていた。しかも田島指導員が出て行ったあとを追いかけるように出ていったのは、後輩の小谷指導員だった。杉下は小谷指導員に話を聞いてみたくなった。

 昼食を掻き込むといつでも出られるような準備を整えた。食事の最後の感謝の言葉を唱え終わり、一目散に指導員のテーブルに駆け寄って小谷指導員に声をかけた。

「小谷先生、少しお話良いですか。」と杉下が言うと彼女は

「では、片付けを済ませますから外で待っていてください。」と言って食器を片付け始めた。杉下は食堂を出て廊下のベンチに座って待っているとすぐに小谷が来て隣に座ると

「田島先輩のことですか。」と心配そうな顔で杉下の顔を覗き込んだ。

「小谷先生、昨日田島先生の後を追うように帰って行きましたね。僕はここで見ていたんですが、先生、もしかしたら田島先生の事件に何か関わり合いがあるんですか。」と事件の本筋に迫った。小谷は驚いた様子で

「私を疑っているんですか。違いますよ。私は田島さんの後を追いましたが、彼女が入っていったホテルのロビーで出てくるのを待っていたんですが、出てこないから諦めて帰ったんです。警察からもこの後、話が聞きたいと呼ばれています。」と苦しそうに話した。杉下はさらに追及して

「田島さんがホテルで待ち合わせしていたのは誰なんですか。式務部の彼ですよね。」と言うと小谷は苦しそうにもぐもぐして

「私は知りません。田島さんの恋人がどんな人か興味があっただけで・・・。」と口を濁した。杉下は小谷がまだ何か隠していると確信した。しかし午後の講義が始まるので挨拶をしてその場を立ち去った。しかし2人が話しているのを京都府警の林田刑事が事務所の奥から見ていた。


 事務所の奥の会議室に小谷が呼ばれたのは午後の講義が始まった時刻だった。講義が始まると全研修生が研修室に集まるので研修センターは静寂に包まれる。小谷が会議室に入るとテーブルには2人の刑事がいた。そのうちの背の高い中年の刑事が名刺を出して

「京都府警の捜査一課、林田です。こっちは同じ捜査一課の泉です。」と自己紹介して椅子に座るように指示してきた。小谷は言われるままに椅子に座ると林田が

「昨日、こちらの田島指導員が殺害されました。そのホテルのロビーの防犯カメラを調べたらロビーのソファーに7時ごろから11時ごろまで座っていた若い女性がいたんです。それでその方の写真をこの研修センターの方に見ていただいたら、小谷さんだということを教えていただいたんです。犯行時間は8時30分頃ですから小谷さんが犯人ではないことは確かなんですが、あのロビーにはなぜ行かれたんですか。」と聞いてきた。小谷は堀川のことが頭に浮かんだが刑事の前で彼の名前を出すわけにはいかないだろうと考え

「確かに私は昨日先輩の後を追いかけてあのホテルまで行きました。それは先輩が彼氏と合うからうれしいというオーラを全開にしていたから、私、興味がわいてしまったんです。河原町のレストランで食事する程度だと思っていたんですが、まさか直接ホテルに入っていくとは予想してなかったんです。それでどんな男性なのかな、顔を見て見たいと無作法なことをしてしまったんです。でも彼女も彼氏も出てこなかったんです。あきらめて帰ったんです。」と嘘は言わなかったが核心部分は刑事には話さなかった。しかし林田刑事は小谷の証言に違和感を感じ、彼の手帳には重要人物として小谷清香の名前を記入した。

 林田はお昼休みに小谷と話していた研修生のことを思い出し、研修センターの所長に頼んで杉下との面談を設定してもらった。面談は午後の2つ目の研修が始まる3時からになった。会議で林田が待っていると杉下研修生が入って来た。林田は名刺を差し出し

「京都府警捜査一課の林田です。こっちは同じ捜査一課の泉です。お忙しいでしょうから手短にお聞きします。さっきお昼休みにそこのベンチで小谷さんとお話ししてましたよね。杉下さんも今回の事件について何かご存じなのではありませんか。」とダイレクトに聞いてきた。杉下はどこまで話していいのか迷ったが田島指導員の無念を晴らすためにもと考え

「実は昨日、夕食の準備の時間だから夕方6時ごろです。仕事を終えた田島指導員が急いで帰って行くところを見ていたんです。それで彼女の様子が変だったので『どうしたの』と声をかけたんだけど、彼女が『彼と話し合ってくる。頑張ってきます。』って言ってたんです。その彼というのは西本願寺の式務部でお経を上げる役割の青年らしいんです。以前から彼女の悩みについて相談されていたので『頑張ってね。』と声をかけたんですが、その彼女の後を小谷指導員が慌てて追いかけていったので、今日昼休みに小谷指導員に『何か知っているんではないんですか。』と話していたわけです。」と説明した。林田刑事は

「彼女の悩みを聞いていたとはどういうことだったんですか。」と掘り下げてきた。杉下はどこまで話していいかを悩み言葉を選びながら

「田島さんはお寺の娘さんですがお兄さんがいて名古屋のお寺はそのお義兄さんが継いでいるそうです。田島さんがつき合っていた彼氏はどこの人かは知りませんが次男でお寺は長男が継がれるそうです。その彼は大きな寺を継ぐには婿養子になるしかないと考えて、彼女との別れ話に発展したそうです。でも彼女だって28歳まで彼と結婚することを夢見て待っていたので、解決策がなくて苦しんでいたみたいです。」と話した。林田刑事は杉下に礼を言って研修に戻るように言った。杉下は田島さんのためになればと話をしたが小谷さんと式務部の彼に疑いがかかることに心残りがあった。



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