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天使ちゃん

転校生の天使の女の子との恋愛のお話。

2025年の夏、僕が通ってる桜川高校に転校生がやって来た。その子の種族は天使だったけど羽や輪っかの1部が黒く染まっていて堕天になりかけていた。


「そ、その……よろしくお願いします。名前は──」


僕はこの子に興味が無かった。自己紹介の途中で寝てしまうほどにどうでも良かったんだ。女性と言う情報以外は何も知らないがそれで良かった。


僕はいつも1人で本を読んだりお弁当を食べて静かに学校生活を楽しんでいるただの高校生。種族も人間でなんの変哲もない人生を謳歌している。


「お前堕天なんだろ?早く死ねよ」教室の隅で転校生が虐められているのを発見した。転校生は(うずくま)るだけで「痛い」「やめて」など言うわけでは無くただ黙って蹴られていた。僕は「可哀想だな」と思ったがすぐに頭を切り替えて本を読んだ。


転校生がやって来て1ヶ月が経った。相変わらず転校生は虐められていてその光景が日常になり始めていた頃、僕は転校生に「大丈夫?」声を掛けてしまった。転校生は全身怪我をしていたので絆創膏を貼ってあげる事にした。そうすると彼女は輝かしい笑顔で僕に「ありがとう♪」と言ってくれた。嬉しかった。


「別に良いよ、人として当たり前のことをしただけさ」


嘘だった。本当に当たり前なら彼女が虐められている時に、もしくはもっと初めの頃に手を差し伸べていたはずなのに変にかっこつけて当たり前のことと言ってしまった。でも彼女は「ふふっ」と小さくだが優しい顔で笑ってかれた。


そこから仲良くなるのに時間は掛からなかった。好きな漫画やアニメの話をしたり日常のことを話したりして仲良くなっていった。


「お待たせ♪」


彼女改めフィナは綺麗な純白のワンピースを着てやって来た。今日は一緒に映画を観る約束をしていたからだ。フィナは一生懸命に隠したのだろうが体の傷が見え隠れしていてとても痛々しかったが自分の右腕を見て「僕も同じか」と声が漏れた。僕の右腕には縫い目があり始めて見る人ならとても驚くだろう、昔に治癒が得意な種族に縫ってもらったので問題無く動くが少し色が違うのが目立つ。


「行こっか!」フィナは僕の手を引っ張って映画館に向かった。小走りなのはクラスメイトに目撃されたら僕に迷惑がかかると思ったからと推測できた。僕たちは学校外だと仲が良いが学校内だとフィナが僕を巻き込みたくないと言う理由であまり話すことはないからだ。もしくは堕天が処刑対象だからであろうか?


「俺は君が好きだ!」映画の中の主人公が言った。僕達が観ているのは恋愛物なのだが設定がベタで告白のタイミングもおかしい。何故こんな駄作を観ているのか途中から分からなくなったがフィナの感動で泣いているところや笑っているところを見るのは楽しかったので結果的には良い映画だったのかもしれない。


「面白かったね!」

「そうだね、また今度他の映画も観てみようか」


面白いとは思えなかったが嫌われるのが嫌だったのでそう返した。ついでに次の映画を観る約束も出来たので心の中でガッツポーズをしながらその日は解散することにした。


家に帰るとフィナから電話が掛かってきた。「もし良かったら何だけどね、その……またデートしてくれないかな?」電話越しだったがフィナが恥じらってるのが分かるほどに吐息が聞こえた。


「うん、今度はカフェにでも行こうか」


内心今にも叫びそうなほど嬉しく幸せだった。今までは仲のいい友達だったが今この瞬間から僕達は友達からワンランク上がったからだ。「うん!美味しそうなとこ探しとくね!」フィナは嬉しそうに話していてこっちまで嬉しく久しく忘れていた心が温かくなる感覚を思い出した。


1週間後、フィナが風邪を引いて1週間の間学校に来れなくなってしまった。何度かお見舞いに行こうとしたが「移っちゃうからダメ」「恥ずかしいからダメ」などと理由をつけられて断られてしまった。僕は何か嫌われることをしたのだろうか?そんなのが頭をよぎった。


更に1週間後フィナは再び学校にやって来た。だが久しぶりに会った彼女は更に黒く染まっていて以前よりも堕天に近づいていた。幸いな事に虐めっ子達は標的を変えたようでフィナを虐める事は無かったが代わりに教師達のフィナを見る目が変わっていた。まるで化け物を見るかのようなそんな畏怖が混じった嫌な目だ。


「おはよう♪」久しぶりに聞いたフィナの声に僕は癒された。見た目が多少変わろうとその人の本質が変わる事は無いからそれに安心して癒されたのかもしれない。そして僕は同時に誓った。「フィナが完全に闇に落ちても僕だけは見捨てず国からも何からも逃げて一緒に生きて行こう」、と。そしてそれを考えた瞬間に僕の頬は赤く染まった。一緒に生きて行こう=付き合う、又は結婚すると言う事だからだ。


「どうしたの?」彼女が僕を心配して話しかけてくれた。僕は咄嗟に「何でも無いよ」と言い返したが顔が赤いので何か勘付かれたかもしれないなと思いつつ照れ隠しで本を読んだ。


最近になって読む本の内容がライトノベルから恋愛物に変わっているのにふと気がついた。無意識のうちにフィナの事を意識して本を手に取っていたのだろうか?再び頬が赤く染まり照れ隠しで本で顔を隠した。


「ふふっ、顔赤くなってるよ?」

「何でも無いさ……」


咄嗟に言われたので小さな声で答えてしまった。だがちゃんと伝わったようでまたフィナは可愛く儚い顔で微笑んだ。


そこからまた1ヶ月が過ぎた日。彼女は堕天化は目に見えて進んでいた。もう純白な箇所は翼の2割を下回っていた。


「私もそろそろ終わりかな」フィナは今まで僕に見せたことのない悲しげな顔で言った。そんな彼女の顔を見て僕は胸が締め付けられ今の自分にできる事を考えた。だが答えが出るより先にフィナが口を開いた。


「私が完全に堕天になったら国に殺されちゃうからこれだけは言っとくね」先程までの暗い顔では無く頭の満面の笑みで話していて少し僕の気が楽になるのを感じる。


「私◯◯のことが大好き!もうそんなに無い命の私だけど付き合ってくれませんか」


嬉しくて嬉しくて無意識に嬉し涙が流れた。フィナは慌てて僕の涙を拭いてくれてその表情や仕草がとても可愛くて思わず抱きついた。


「っ!これはYESったらことで良い……のかな?」


コクッ、僕は無言で頷いた。その日から今までの人生を合わせても足りないほど幸せだった。毎日のようにデートをしたりくだらない会話で笑い合ったり兎に角幸せだった。まさに幸せの最高潮だ。


だが幸せな時間はそう長くは続かなかった。僕達が付き合ってから3週間後、フィナの体は9割が黒くなっていた。もう白い箇所は羽が数える程度しか無くこの羽が抜け落ちたらもう処刑対象になってしまうほどにだ。


「話があるから放課後私の家に来て」


初めてのお誘いだった。付き合う前も後もフィナの家に行った事は無かったので少し楽しみな反面確実に堕天に関係する事なので気が重かった。どんなに長く見積もっても1週間もしたら彼女は処刑されてしまうと思ったからだ。


放課後彼女の家に着くと家の外装に「死ね」「消えろ」などの暴言がスプレーで書かれているのを見つけた。だがそんなのが軽く感じるように内装はもっと酷い有様だ。まるで強盗に入られたかのような、まるで大地震が来た後のようなゴミ屋敷で少し驚いたがすぐに状況を察して何も言わない事にした。今日両親がいないのはそう言う事なのだろう。


「こっち」フィナに案内されて彼女の部屋に入った。今思うと女性の部屋に入ったのは初めての経験なのでとてもドキドキして足を踏み入れた。


「これ持って」

「こ、これって包丁?何で急に」


フィナから渡されたのは鋭く今にも肌を切り裂きそうな包丁だった。これで何をするのか検討もつかなかったが少し頭を働かせるとその意図が分かった気がして吐き気を覚えた。


「これで私を殺してほしいの、どうせ死ぬなら愛した人に殺してほしいからさ?だからお願い。私が死んでも◯◯君が罪になることは無いから」

「でも……僕は……」


僕はまた罪を重ねるのか?自分の右腕を押さえながら思考を巡らせたがこの状況を打開するのは無理だと悟った。フィナは僕以外に殺されるのは嫌なのだと言ったので10分間考えた後に決意した。


「……分かった。フィナ、君を殺すよ」

「ありがとう♪私はこの世界じゃちゃんとした天使になれなかったから今度は◯◯君の心の中で天使になる──よ…」


フィナが言い終わる前に僕は彼女の胸を刺した。心臓は避けたので即死はしないように手加減をして刺した。


「……」痛みでなのか刺されたからなのかフィナは喋る事は無くただいつもの優しい笑顔で僕を見つめながら抱きついて来た。


そして彼女はそのまま絶命した。不思議と悲しさは無く「あぁまたか」と思うだけですぐに頭を入れ替えてフィナの死体を持って病院に行く事にした。


フィナを殺してから何日が経っただろう?僕は今病院のベットの上で手術の余韻に浸っている。今も悲しさは無く後悔も微塵もしていない。こんな僕は人間性が欠けているのだろうか?


「どうなのかな、フィナ」


僕は心臓に手を当てて話しかけた。もちろん返答が返ってくるはずが無いのに何故話しかけたのだろうか?右腕を無意識に押さえながら考えた。


「やっぱり分からないや、灯火もそう思うだろ?君が教えてくれた人間性を僕は守れているだろうか」


再び右腕を押さえながら話しかけた。やはり返答は返ってくるはずが無いが少し気が楽になるのを感じたのでその後もしばらく話しかけていた。


退院してから3ヶ月が経ったある日、転校生がやって来た。自己紹介を一切聞かず性別が女性なことしか分からなかったが1つ目が行ったのは「あの足良いな……」そう呟き1ヶ月後、僕は虐められていた彼女に手を差し伸べた。





「何で助けてくれなかったの?」「何で見るだけで手を差し伸べてくれないの?」自分の体からそう聞こえた気がした。

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