変態Ⅱ 陰毛森林 上
暗黒森林理論ほんとすこ
ついに変態星人が――宇宙人どもがあまりにもクソみたいな変態所業をするので、みんな自然に変態星人と呼ぶようになっていた――地球に牙を向いた!
一隻の探査船と思しき小型宇宙船が、地球にガンガン迫ってきたのである!!
小型宇宙船の映像を、人類が持てる全ての技術でもって拡大すると、つるりとして、一滴の水のような形状が確認できた。
「美しい――こんな形の宇宙船があるとは。これを【水滴】と呼ぼうか」
世界碩学会合のひとりが、うっとりとそういった。
別のバカが半笑いで【水滴】を指差す。
「変態星人はバカじゃねえの、たった一隻になにができるんだっつーの。しかもめちゃ小さいぜ!コイツはとんだ先走り野郎だ!!」
「カウパー宇宙船!!HAHAHA!!」
小型宇宙船は【水滴】と呼ばれるようになった。最初に「【水滴】と呼ぼうか」とか言ってうっとりしていたジジイはブチギレて地団駄を踏んだ。
【水滴】鹵獲作戦。
さすがに真面目になった地球人類は、なんかすごくデカい宇宙船をありったけ全部、たった一隻のちっぽけな【水滴】に差し向けた。中にはクソむさ苦しい軍人のおっさんどもがびっちり乗っている。一人だけ、調査のために老爺が一人。【水滴】カッコつけジジイである。
大艦隊を組んで宙を飛行する巨大宇宙船の群れ。人類は「あー、こりゃ勝ったな。ガハハ」とお茶の間でおせんべいをかじりながら屁をぶっこいてその中継を眺めていた。
全人類がおせんべいかじりながらぬくぬくと見守る中、至極あっさり【水滴】は鹵獲された。一切の戦闘すらなく、宇宙船から伸ばされたアームにキャッチされて、大人しく一隻の宇宙船の格納庫に収納されたそれを【水滴】ジジイが調査しに来た。
いやらしい手つきで【水滴】を撫で回すジジイ。
「この美しいフォルムがカウパーだと!バカどもが!しかし変態星人は素晴らしい美的感覚を持っているようだ。この丸みを帯びたフォルム、曲線、猛々しく浮き出た血管……血管??」
【水滴】が、変形していた。バキバキと音を立て巨大化、円錐状に尖った角の部分は太さを増して、その先端は円錐形状を維持したままいっそう太くなり、先端は丸みを帯び、途中で段差を作り出して鈍角を成した。段差以降は長く、均一な太さの円柱形状となり、まるで血管が浮き出たような紋様が浮かぶ。そして水滴状の底部だった部分、丸みを帯びたそこはふたつにわかれ、球を並べたような形状となった後、きゅっとしぼみ、表面に細かな横皺を作り出した。
ある、わらべ歌がある。ソーセージ、梅干しふたつ、お稲荷さんの皮――
「ちんぽにゃ!!!!!!」
ジジイ、驚嘆。超弩級ドデカちんぽが眼前に出現した。
なおも肥大化を続けるドデカちんぽ。格納庫の天井を突き破ってなお、雄々しく肥大化を続け――
ジジイの脳裏に、一つの言葉が浮かぶ。
――わたしがおまえたちをドスケベ淫乱アクメ絶頂妊娠確定アヘ顔ダブルピースファックでメチャメチャ犯しまくるとして、それがおまえたちとなんの関係がある?
「アッ――――――――――――!!!!」
中継は、そこで途絶えた。
人類は齧っていたおせんべいを床に落とした。
こらあかんわ。33-4。ちーん。
* * *
予想に反して、地球を出発した巨大艦隊群は一隻のかけもなく、のろのろと地球に帰ってきた。
お通夜のような雰囲気の全人類が、2枚めのおせんべい(1枚めは床に落としてしまったので)を齧りながら復活した中継を観ている。
33-4、33-4、33-4……
脳裏を木霊する謎の数字。特に意味はない。
一隻の宇宙船のハッチが開き、タラップが降りる。最初にタラップを踏んだその人影を見て、全人類は2枚めのおせんべいをも床に落としてしまった。
――妊娠している!!
降りてきたのは、水滴ジジイだった。腹がパンパンに膨らんでいる。彼は、妊娠していた。
その後に降りてきた軍人も、妊娠していた。その次も、その次も――
雄々しく地球を飛びたち異星人へ立ち向かった男たち、その全てが、妊娠していた。
この日、地球上で、160億枚くらいのおせんべいが床に落ちて廃棄された。
――帰ってきた妊娠男たちは、何があったか語らなかった。人類も、彼らに何も聞かなかった。
* * *
「変態星人ヤバい!!さすがにこれは度を越してる!!」
「男が妊娠てどういうことよ!!子宮はどうした子宮は!!」
「シュワちゃんも妊娠したし」
「それは映画!!これはリアル!!もうおしまいだあ!!」
世界碩学会合は集団発狂の有り様です。そりゃ狂うわ。
「うふふ、私、ママになるのね……」
虚ろな顔で、パンパンに張った腹を擦る水滴ジジイ。周囲は完全にげんなりしている。
「何が産まれるんだアレ……」
しかも、問題はカウパー妊娠騒動だけではない。
【水滴】怒張が引き起こした現象なのか、今までAV男優にのみ現れていた「ババア・カウントダウン現象」が、地球上の全人類の男に発現した。
オナニーしたらババア。セックスしたらババア。夢精してもババア、ババア、ババア――。
人類はもうめちゃくちゃや。治安は崩壊、でもレイプは1件もなかった。ババアが出るから――
「どうすんのこれ」
「これもう死ぬ以外ねえわ」
「出生率ゼロ%!!ヒエー、ガチの侵略よこれ。しかもめっちゃ陰湿な」
さしもの世界碩学会合も、打つ手なしといったところか。
一人の男が立ち上がった。なぜこの場にいるのか、千田だ。
「情けねえ。確かに人類は負けるかもしれん。だが、相打ち位には持っていけるはずだ」
「バカな!男を妊娠させるような超技術を持った性癖異常者どもにどうやって立ち向かうと言うんだ!妊娠させられるぞ!!」
「作戦はあるのか作戦は!!」
ダーシーはタバコを吹かし、飲用の水の入ったコップに投げ込んで火を消すと、投げやりに言った。
「簡単だ。あいつらは俺達に嫌がらせをしてきた。嫌がらせっていうのは、普通、自分がやられたら嫌なことをするもんだ。つまり、あいつらに同じことをしてやればいい。
……あいつらは俺達を常時監視しているんだろう?」
問われた科学者が答える。
「えーっと、はい。何らかの手段で、地球上のすべての地点を、もれなく――いったいどういう技術なのやら――常時監視している模様です」
「それが鍵だ。あの陰湿な覗き野郎の変態は、俺達を常に見ている。ならば、逆にこっちは見せたいものをあいつらに見せることができるって事だな」
つまり。
「マジでキッツいAVを撮って、世界中でそれを垂れ流しにすれば、あいつらはそれを見ざるを得ない。ババア・カウントダウンを、そっくりそのままお返ししてやる!!内容はどうでもいい、とにかく奴らがマジでドン引きするような内容のAVを撮るんだ。ババアでもスカでも百貫デブでもなんでもいい。あいつらがイモ引くまで延々と垂れ流せ!!そうすりゃ、地球は監視できなくなる。やつらをインポテンツにしてやれ!!」
会場は静まり返っていた。しだいにヒソヒソ声の相談がかわされ、それはざわめきになり、激論のうねりへと変わった。
「行ける。行けるぞ!!」
行けねえよ。
「勝てるんだ!!」
思い出してほしいが、こいつらはバカのあつまりである。ルビにもそう書いてある。碩学の設定が生かされたことはこれまでもないし、これからもない。
おもむろに、水滴ジジイが妊娠腹を揺らして立ち上がり言った。
「超人を呼ぶ必要がありますな」
そんなものを呼ぶな。