chapter17 歪んだ輪廻
私は一息ついたとき――父上が、唐突にブレスを放った。
「父上? どうしました?」
〖……いや、なんでもない。
ヴァリアスよ――息子たちの様子を見てこい〗
その声音に、妙な重さを感じた。
私は慌てて兄弟竜たちのもとへ駆け寄る。
しかし、彼らはぐったりと横たわり、ピクリとも動かない。
胸の奥がざわめく。
嫌な予感を押さえ込み、魔法を詠唱する。
「《魔獣鑑定》」
光が兄弟竜たちを包み、文字が浮かび上がる――はずだった。
けれど、そこに表示されたのはたった一文。
『成竜の亡骸』。
ついてきた兄弟竜は十体。
その全てが、あの死霊竜たちに殺されていた。
私は唇を噛みしめ、父上の方を振り返る。
首を横に振ると、父上はわずかに目を細め、低く言った。
〖……そうか〗
短いその言葉の中に、深い悲しみが滲んでいた。
しばしの沈黙の後、父上が再び口を開く。
〖ヴァリアスよ。こいつらを――アイテムボックスに納められるか?〗
「できると思います。
持ち帰って……弔うのですか?」
〖いや、回収するだけでいい。
そいつらの行く末は、お前が決めろ〗
「……私が?」
〖我ら魔物は、人間の国では“資源”として取引されると聞く。
売るもよし、迷宮の成長に使うもよし。
あるいは、静かに眠らせておくのもよい。
どうするかは――お前が選べ〗
淡々とした声の裏に、私への試しのような響きがあった。
"自分で考えろ"という父上の教えなのだと、すぐに分かった。
私は無言でうなずき、兄弟竜たちの亡骸をひとつずつアイテムボックスに収めていく。
骨と鱗が触れ合う音が、やけに冷たく響いた。
すべてを終えたとき、父上が再び問う。
〖ヴァリアス――この周囲の残骸、回収はできるか?〗
「……残骸を、ですか? どういう意味でしょうか」
〖死霊竜どもが喰らい散らした鱗や爪が、そこかしこに転がっておる。
放置すれば――やがてそこから新たな死霊竜が生まれるやもしれぬ〗
父上の声音は、低く、重い。
〖お前の魔法で瘴気はわずかに晴れた。だが、根は断てておらぬ。
“因子”に触れれば、再びアンデッドが芽吹くことがあるのだ。
魂が戻ればどうにもならぬが――せめて、その芽は摘まねばならぬ〗
一瞬、背筋に冷たいものが走る。
“もしここで新たな死霊竜が生まれたら”――その意味を、私は理解した。
〖息子たちを媒体とした死霊竜は、先ほどの奴らよりはるかに強大になるだろう。
現れれば、この世界は滅びを迎えるほどにな〗
その言葉に戦慄し、私は即座に魔力を練る。
両手をかざし、静かに詠唱を口にした。
「《ウェーブコレクト》」
波のような光が広がり、鱗も骨も、大地を染めた血痕までも――すべてが吸い込まれていく。
最後の破片が消えるまで、私は目を逸らさなかった。
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