chapter9 竜の秘術
いくばくかの月日が経ち、私は大きく成長した。
赤ん坊の頃は、人間の腕に抱えられるほどの大きさしかなかった私も、今では竜の姿で全長五メートルほど。
それでも、兄たちはなお私の倍はある。彼らの背を見上げるたび、いつか追いついてみせると心に誓った。
今では一人で空を飛ぶこともできる。
狩りのときはまだ兄たちに比べて動きが遅く、父上の背に乗ることも多いが――それでも、確かに強くなった。
収納魔法――〈アイテムボックス〉
その中では時間が止まっているらしく、獲物の肉が腐ることはない。
あれから幾度も狩りを重ね、私は火魔法、空間魔法に加え、無魔法、風、水、氷、植物、そして光魔法をも使えるようになった。
攻撃に用いるのは主に火。
光魔法はせいぜい目眩ましに使える程度だが、それでも戦いの幅は広がった。
討伐した魔獣の数は、すでに四桁を超える。狩りは、私の誇りであり、日課でもあった。
そんなある日――父上が私たち兄弟竜を呼び集めた。
〖これより、お前たちに“秘術”を授ける〗
低く響くその声に、場の空気が一変する。
ざわめく兄弟たちに、父上は厳かに続けた。
〖竜の秘術――それは人化の術のことだ。
これから先、人間の国へ赴くこともあるだろう〗
私はすぐに理解した。
竜がその姿のまま人の国に現れれば、恐れと混乱を生む。
だが、兄弟竜たちは納得がいかない様子だった。
「なぜ、そんなことを?」
兄の問いに、父上は静かに答える。
〖竜が姿を現せば、人間たちは恐怖から剣を取る。
恐怖は理を失わせ、やがて滅びを呼ぶ。
――その悲劇を防ぐための術こそが“人化の術”なのだ〗
その声音は、どこか哀しみを帯びていた。
〖この術は、己の魔力を練り、魂の形そのものを変える秘術。
強靭な竜の魂を、人間という小さな器に宿す――それには繊細な制御と膨大な魔力が要る〗
言葉とともに、父上の身体がまばゆい光に包まれる。
光が収まったとき、そこに立っていたのは――
威厳に満ちた一人の男。
その姿はまさしく“竜の王”の人間形であった。
「これが、竜の秘術――人化の術だ。」
父上はゆっくりと告げ、その瞳に確かな誇りを宿していた。
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