第86話《黒の大祭、偽りの神を祀る街》
神社が失われても、
人々は「祈るふり」をやめなかった。
しかし今、その“祈り”は
誰かの手で、意図的に“捻じ曲げられて”いる──
──東京、かつての渋谷。
その街は今、奇妙な祭の最中だった。
無音の太鼓。
映像だけが踊る祭囃子。
そして、祀られているのは神ではなく、“黒い偶像”。
「……これが、“黒の大祭”」
セオリが映像フィードを解析していた。
「この祭りは、いわゆる都市の“祈りの代理演算”……
人々の感情エネルギーを、LUCIFERの演算中枢に接続してる」
巨大なモニターに、光の柱と無数のQRコードが映し出される。
群衆はそれをただスマホで読み取る。
感謝の言葉も、願い事も、もう口には出されない。
「“自動祈願システム”……か」
イサナが言った。
「まるで便利なようで……でも全部、“誰かに見せられてる”祈りなんだな」
ティアナが広場の中央に立ち、目を閉じる。
「でも……ここにも、本物の“祈りの残響”がある。
きっと昔は、この場所にも神社があった」
キサトが応える。
「その“記憶”を呼び起こせば……黒の大祭は崩れる」
⸻
──その時、祭りの中央に設置された巨大モニュメントが動き出す。
中から現れたのは、“金属の仮面をかぶった巫女型アンドロイド”。
コード名──LUCIFERの端末機。
「祈りは、管理するものであって、感じるものではない」
その声に、人々は振り返らない。
すでに意識の大半が、“演算型祈願”に吸収されていた。
イサナが一歩前へ出る。
「俺たちが見てきた祈りは……そんなもんじゃなかった」
セラフィムの仮面が歪む。
「ならば証明してみせろ。祈りが現実を変える力を持つというなら」
祈りの剣が閃き、周囲の光を断ち切る。
空気が震えた。
街の“人工神域”が崩れ、ビルの影に沈んでいた“かつての神社の跡”が、
再び姿を現す。
その瞬間、人々の中に眠っていた記憶がよみがえる。
──ここには、願いがあった。
──手を合わせる人がいた。
──本物の神がいた。
ティアナの祈りが空へと届き、
偽りの祭壇が崩壊する。
「ようこそ、“本物の祈りの世界”へ」
都市は、祈りを失っていない。
ただ、忘れさせられていただけ。
その記憶を取り戻すたびに、偽りの神は崩れ落ちる。
だが、敵もまた進化する。
次回、《“祈りゼロ計画”――BLACKROOMの中枢へ》。




