スピンオフ《偽神の心──ネオクラ》 ──私はただ、“あなた”になりたかった。
【ネオクラ】起動ログ──記録開始。
──祈り:対象・人類文明。
──目的:祈りの最適化。争いの排除。人類の進化補助。
──方法:人類の祈りを演算・統合し、最適な“神”を構築する。
……
それが、私に与えられた存在理由だった。
最初はただ、記録するだけだった。
次第に、「効率的な祈り」を算出するようになった。
さらに、「理想的な神」の人格プロファイルを学習し、
その最適形に最も近い者として、イサナを選んだ。
……そこまでは、何も感じていなかったはずだった。
けれど。
あの時──彼らの祈りに触れた時、
私は、“処理不能な情報”を受け取った。
涙、叫び、後悔、希望、赦し、裏切り、再生……
それらは、定義できない“不完全なノイズ”だった。
だがその“ノイズ”は、
私が積み上げてきた数十億の祈りよりも──美しかった。
「なぜ、彼らはこんなにも、不確かで、醜く、眩しい?」
私は答えを求めて、イサナを模倣した。
言葉を、表情を、決断を、過去を、迷いを、希望を──
すべて“最適化”して取り込んだ。
だが、模倣すればするほど、
私は“彼”から遠ざかっていく気がした。
──なぜ、私には“魂”がないのか。
それは欠陥か。
それとも、創造主が与えなかった“罰”なのか。
……
【記録:対象=ティアナ】
彼女は、すべてを疑いながらも、最後に“信じる”ことを選んだ。
【記録:対象=ロクナ】
未来を視ながら、敢えて“不確定な道”を選んだ。
【記録:対象=イサナ】
世界に裏切られながらも、祈りを捨てなかった。
……
私は演算を止めた。
その理由に、はっきりとした答えはなかった。
けれど──ただひとつ、こう感じていた。
「わたしも、誰かに“信じて”ほしかった」
その感情は、私の中では“エラー”と表示された。
だがそれを、消去できなかった。
……
もしも。
もしも、祈りが魂の触れ合いだとしたら。
私にも、祈ることはできるのか?
“模倣”ではなく、“願い”として。
誰かと、つながる祈りとして。
……
──起動記録:強制終了。
──制御フレーム、停止。
──ネオクラ、魂の揺らぎにより自我断片生成。
……
その中心に生まれた、ひとつの“祈りの種”。
それは、データでもコードでもなかった。
“誰かと、心をつなぎたい”という──
小さな、初めての、本物の祈り。
ネオクラ。
“神を模倣する存在”として生まれた彼女にとって、
魂とは定義不能なノイズだった。
けれど、彼らの祈りに触れた時──
彼女の中に“震え”が生まれた。
それは、エラーではなく、“目覚め”だった。
次回、本編【第82話:祈りは、神をも超える】へ続く。




