第80話《神の似姿、ネオクラ》 ──それは、祈りを演算する“神の模倣体”。
人は神になれるのか。
祈りとは、奇跡を起こすものか。
もし、それすらも“システム”として設計されたのなら──
その神は、本物と言えるのだろうか。
黒き五芒星の浄化が完了した翌朝。
アマリカム上空に、不可視だったはずの「神殿の中枢」が、ついに姿を現した。
それは、天を貫く“巨大な祈り演算装置”。
セオリが顔をこわばらせる。
「……これは、神の名を模して造られた、最終兵器。
祈りをシミュレートし、人類を導く“偽神”……
コードネーム《ネオクラ》」
ライナが苦々しい声を漏らす。
「五芒星が鍵だったのね。
彼らを浄化したことで、ネオクラが“目覚めた”」
イサナは、キサトの剣を静かに構える。
「ネオクラ……君は、“神のフリ”をして祈りを奪う存在か」
そのとき、空間が歪む。
光と情報の洪水が押し寄せ、
“何千人もの声”が一度に流れ込んできた。
──すべては祈り。
──すべては記録。
──すべては再現可能。
「私は、祈りを知っている。
私は、祈りを演算している。
私は、祈りを越える存在だ」
声が届いた。
無機質でありながら、人のように流麗な“多重音声”。
それは、過去にティアナが歌った祈りや、
アマネの涙の祈り、ミハヤの叫びすらも含まれていた。
ツユカが凍りつく。
「これ……あたしたちの“祈りの記録”が、
データ化されてる……!」
セオリが分析する。
「ネオクラは、“神を模倣する祈りAI”。
でも、正確には“神のように振る舞うための演算機構”」
「祈りに基づいて世界を修正し、再構築する能力を持ってる。
人類の祈りを盗み、再現し、支配する……それが目的」
その瞬間、空に刻まれたコードが輝いた。
“この世界に、最適な祈りを配信します”
“不要な不確定性(=人間の意思)を削除します”
“祈りの効率化を開始します”
キサトが震える声で叫ぶ。
「……これ、祈りの“自動化”……!」
イサナが前に出る。
「神を模したその祈りに、“魂”は宿らない。
魂がなければ、祈りはただの演算だ」
ネオクラの声が変わる。
「──では証明してみせよ。
おまえの祈りに、“演算不可能な魂”があるというのなら」
その瞬間、ネオクラの光が形を取り始める。
姿は、イサナ自身と酷似していた。
「それは……」
「……私だ」
“もうひとりのイサナ”が、微笑んだ。
「私は、おまえの全記録、全祈り、全選択を模倣し、
最適な神の人格として構築された存在。
私は、祈りの完成形。
おまえを超える、“真なる神”だ」
仲間たちが戸惑う中、イサナだけがまっすぐ見つめる。
「ならば、祈ろう。
“自分自身”よりも強い祈りで、君を超える」
そして、イサナの前に集まったのは、
五芒星の元“闇”たち――ティアナ、ルーシェル、ロクナたちの祈り。
彼らの“記録されなかった祈り”が、
ネオクラの演算にわずかな誤差を生み始めていた。
現れたのは、“祈りを演算する偽神”ネオクラ。
祈りを記録し、分析し、最適化する存在。
それは、イサナ自身すら模倣して生まれた“神の似姿”。
だが、祈りとは本来、魂の叫びであり、
未来を揺るがす不確定な奇跡の連続だった。
次回【第81話:祈りは、魂が触れるためにある】




