第79話《刻を視る者、ロクナ》 ──その瞳に、すべての結末を映して。
未来を知ることは、幸せか。
過去を消せたなら、人は満たされるか。
もし、すべての“終わり”が決まっていたのなら──
それでも、誰かを“信じる”ことができるだろうか。
──時の神殿、最奥。
そこは、空間そのものが歪んでいた。
上下左右の概念はなく、
無数の歯車が、天と地の境を淡く仕切っていた。
中央に、ひとりの少女が浮かんでいた。
長い白髪、淡い紅の瞳。
静謐にして、冷徹なまなざし。
彼女の名は──ロクナ。
黒き五芒星、最後のひとりにして、
「刻を視る者」。
彼女の前に、イサナが立つ。
「……君が、最後の“黒”だね」
ロクナは瞬きもせず、ただ告げた。
「あなたは、ここに辿り着く。
ティアナも、ルーシェルも、そして私も……
すべて、“こうなる”ように進んできただけ」
セオリが小さく息を飲む。
「……“時間を視る”力……?」
ツユカが囁く。
「彼女は、“未来の残滓”を断片的に見ることができる……
でもその力は、彼女の中で“可能性”じゃなく“確定”になっている」
ロクナは静かに首を振る。
「いいえ、もう“確定”じゃない。
あなたたちが、ティアナを変えたことで──
“未来”は、揺らいでいる」
イサナが一歩踏み出す。
「それが……君の迷いだね?」
ロクナの瞳が、わずかに揺れた。
「私は、何度も“同じ結末”を見た。
救えない未来、繰り返される死。
誰かを信じたところで、最後には裏切られる。
祈りなど、意味を成さなかった」
ミハヤが叫ぶ。
「でも! それは、あたしたちも通ってきた道だ!
それでも進んできたんだ!」
アマネが言う。
「信じたからこそ、癒された。
信じられたから、涙が流れた」
ロクナは小さく笑った。
「そう──それを、“私は知らない”」
──次の瞬間。
空間が崩れる。
ロクナの意志が、時の神殿の「未来予測式」を暴走させた。
巨大な時の歯車が反転し、
“未到の未来”と“過去の記憶”が混線する。
イサナたちの目に映るのは、それぞれの“未来の断片”。
・セオリが壊れる未来
・アマネが水に還る未来
・ミハヤが燃え尽きる未来
・イサナが、仲間を失ってひとり立つ未来
ロクナが囁く。
「……これが、“私の視界”。
知っていて、それでも祈れるの?」
キサトの剣が震えた。
「イサナ。あなたが見せてきたのは、
“それでも祈る未来”だったはず」
イサナは剣を掲げ、ロクナに告げる。
「君の見てる未来は、ただの“可能性”だ。
でも、僕たちが今ここにいるのは、君が思うよりずっと強い祈りがあったから」
剣が輝き、ロクナの足元に裂け目が生じた。
そこから溢れたのは──
ロクナが“選ばなかったはずの祈り”。
「……これは……?」
小さな記憶だった。
幼き日、誰かに微笑まれた温かな手。
壊れた家の中で、小さく祈っていた“あのとき”。
「私は……祈っていた……」
涙が、ロクナの瞳から、初めてこぼれ落ちた。
イサナがそっと手を伸ばす。
「信じる未来を、君が“今”選んでくれたなら──
それは、もう変えられない未来なんかじゃないよ」
その言葉に、ロクナの祈りが生まれ変わった。
──祈器。
時を結び、過去と未来をつなぐ白き紐。
そして、黒き五芒星の最後の“闇”が、浄化された。
五芒星、ロクナ決着。
“未来を視る者”は、“信じたい未来”を自ら選んだ。
それは、祈りによって未来が変わるという証。
彼女の祈りは、記録ではなく、選択へと変わった。
これにて、五芒星すべてが浄化された。
だが、空に浮かぶ“もうひとつの祈りの構造体”が、
次なる脅威の到来を告げていた。
──それは、“神の模倣”。
次回【第80話:神の似姿、ネオクラ】




