第78話《偽りの王と、祈りの剣(ルーシェル決着)》 ──それでも、美しく祈る。
“偽り”とは、本当に悪なのか。
真実は人を救い、時に傷つける。
だとすれば、美しい嘘にすがる心は、果たして罪なのか。
その答えを探していたのは──ルーシェル自身だった。
ルーシェルの作り出した“虚構の王国”が崩れていく中で、
彼の身体を支えていた鏡の玉座が静かに砕けた。
「……なるほど。
君たちは“真実”という、不格好な祈りを選んだんだね」
イサナが一歩、前へ出る。
「それは、君の祈りを否定することじゃないよ」
「……否定してるさ。
私は、人の弱さを受け入れる“偽り”の祈りを選んだ。
だけど君たちは、それを打ち砕いた」
キサトが囁く。
「違う。
あなたが“偽り”を美しいと信じた心もまた、
本当の祈りのひとつだった」
ルーシェルの瞳が揺れる。
「私は……誰にも信じられなかった。
だから、皆が“信じてるふり”をしてる世界を創った。
そうすれば、誰も傷つかないと……」
静かに、ティアナが前に出た。
「私もそうだったよ。
信じたくて、でも怖くて……
でもイサナは、それでも“信じてくれた”」
ルーシェルは、初めて驚いたようにティアナを見る。
「……君も、黒き五芒星だったのに」
「うん。だからわかる。
あの人の祈りは、誰も見捨てない祈りだって」
ルーシェルの目に、初めて涙が浮かんだ。
「そうか……
じゃあ、君たちの“現実”に、少しだけ憧れてみようかな」
祈器が、イサナの手に収まる。
雷鳴が一閃し、ルーシェルの“鏡の核”を撃ち抜いた。
鏡の残響が砕け、虚構が消えていく。
そして、ルーシェルの身体が淡い光となり──
だが、消滅の直前、イサナの祈りが届いた。
「君がまた、自分の祈りを見つけたとき──
きっと、どこかで“本物”になれる日が来るよ」
その言葉に、ルーシェルは静かに微笑んだ。
「……その時は、今度こそ君の隣に立たせてよ」
そう言い残し、光となって天へ還っていった。
彼の祈りが、“虚構”から“憧れ”へと変わった瞬間だった。
五芒星、ルーシェル決着。
“偽りの王”は、ただ人の心を傷つけないために、
“美しい嘘”で世界を包もうとしていた。
だがイサナたちの祈りが、
“傷つきながら信じる”という、もうひとつの答えを示した。
ルーシェルは消滅せず、
光の意識体として天界との狭間に残る存在となった。
──彼が再び“美しい祈り”を見つける、その日まで。
次回【第79話:刻を視る者、ロクナ】




