第75話《導かれし残響(ライナ覚醒)》 ──迷いに走る雷、祈りに届く刃。
人は、迷う。
だからこそ、祈る。
迷いがなければ、祈りは生まれない。
祈りがあるから、人は誰かを想える。
それをまだ知らなかった少女が、
自らの雷を見つめ始める──
──アマリカム・北東の神殿跡。
セオリの調整していた祈器の端末が、微かな雷鳴を拾った。
「……また、鳴った」
「これは……神殿の“残響”だね」
かつて通過したはずの「雷の神殿」。
しかしそこには、まだ“応えられなかった祈り”が残っていた。
「ライナ、君にしか聞こえない音があるはずだ」
イサナが静かに語りかける。
その言葉に、ライナは眉をひそめる。
「……あたし、そーいうの苦手なんだけど」
ライナは誰よりも早く動く。
考えるより先に身体が反応する──
それが、これまでの“自分の生き方”だった。
「任せるとか、信じるとかさ。
自分でなんとかするほうが、早いって思っちゃうんだよね」
それが間違いとは思っていなかった。
でも、心のどこかで──
“誰かのために祈ったことはあるのか?”という問いが残っていた。
祈器の欠片が震え、空気が光に満ちる。
雷の神殿の“残響”が、彼女の心に問いかける。
(──あのとき、お前は誰のために走った?
あの一閃は、何を守るためだった?)
映し出されたのは、幼い頃の記憶。
燃え落ちる村。
必死に走る自分。
抱きかかえた誰かの手。
「やめてよ……そーいうの思い出させんなって……!」
だが、その記憶の中の“自分”が叫んでいた。
「どうか──間に合え!!」
雷鳴が落ちる。
その瞬間、ライナの胸に“祈り”が宿る。
(あれは……祈りだったんだ。
あたし、自分でも知らないうちに……)
イサナがそっと手を添える。
「君の祈りは、“速さ”じゃない。
“誰かの願いを、自分の命より先に届けること”だよ」
光の中に、一本の刃が浮かぶ。
──祈器。
一瞬の閃きで真実を切り裂く、雷の祈り。
ライナがその刃に触れた瞬間、
神殿の残響が音もなく霧散した。
「……よくわかんないけど、これが“あたしの祈り”なんだな」
イサナは微笑む。
「うん。君の祈りは、確かに届いたよ」
雷の巫女・ライナ、覚醒。
神殿の“残響”が教えてくれたのは、
祈りは言葉だけじゃない、ということ。
誰かのために走った記憶。
守りたかったものに届かなかった過去。
それらすべてが、祈りの核になっていた。
そしてライナは、
“雷の祈り”を自覚し、祈器を手に入れた。
残るは──黒き五芒星のひとり。
ティアナが、ついにイサナの元へ戻ってくる。
次回【第76話:君を信じるという祈り】




