第74話《闇に棲む毒、祈りの光》 ──毒に触れ、信じる力が試される。
毒は、人の心を支配しない。
人が“信じることを諦めたとき”、
それはただ、静かに広がっていくだけだ。
──だからこそ、信じ続ける者がひとりでもいれば、
祈りは、毒を越えて届く。
政庁の大広間──そこはもはや祈りの中心ではなく、
毒の温床となりつつあった。
人々は笑わず、語らず、祈らず、
ただ“指示”を待つだけの存在になっていた。
そんな中、イサナはただ、ひとつの祈りを握り続けていた。
その手にあるのは、
かつて“時の神殿”から覚醒した剣──キサト。
その刃がふるえたとき、
黒い霧のような毒が再び形を成す。
──アルズマ、再臨。
「やあ、創造主。
思ったよりも君は諦めが悪い」
仮面の奥から流れる声は、すでに人ではなかった。
その存在は、祈りを喰らい、信頼の構造を侵す“毒の権化”。
「もう気づいてるだろう?
“この国の祈り”そのものが、
徐々に死にかけていることに」
イサナは静かに剣を構える。
「それでも……信じるよ。
君の毒より、僕たちの祈りのほうが強いと」
アルズマが首をかしげる。
「“信じる”って言葉は便利だね。
そうやって何度も裏切られてきたはずなのに」
剣から──キサトの声が響く。
「それでも、祈りは消えなかった。
誰かが失敗しても、また誰かが信じ直す。
それが、人間の祈りだから」
その瞬間、剣が光を放つ。
その光に照らされた民の目に、
ほんのわずかに“感情”が戻っていく。
「……っ、ここは……?」
「イサナ様……どうして、泣いてるの……?」
イサナの頬を伝う一筋の涙。
「僕は、誰かに信じられることが、
こんなにも怖くて、こんなにも嬉しいなんて……知らなかった」
アルズマの黒い仮面に、ひびが入る。
「……理解できない。
人は弱くて、裏切って、崩れていくものなのに」
キサトの声が応じる。
「だからこそ、信じるんだよ。
不完全だからこそ、祈ることに意味があるの」
アルズマの身体が崩れ始める。
黒い毒が、音もなく霧となって、宙に漂う。
だがその中心から、かすかな光が浮かび上がる。
──それは、かつて“祈り”であったものの名残。
イサナは目を閉じ、その光へと手を伸ばす。
「君の中にも、“祈り”があったはずだ。
それが歪んでしまっただけだとしても──
最後まで、それを見届けたいんだ」
その言葉に応えるように、
毒の霧は静かに光へと昇華された。
アルズマ──五芒星の“毒の神”は、
祈りに還元され、光の意識体となって静かに消えていった。
アルズマ、完全浄化。
この“毒の祈り”との戦いは、刃ではなく、
祈りと信頼によって終わりを迎えた。
浄化されたアルズマは消滅せず、
“光の意識体”として時の狭間に残される。
それは、いつかイサナたちが再び迷ったとき──
導き手になるか、再び毒となるか。
次回:第74.5話【導かれし残響(ライナ覚醒)】
→ 祈りの残響が雷を呼ぶ。ライナ、覚醒。




