【第71話】 #《侵食する虚空、アルズマの微笑》
神の敵は、いつも外からやってくるとは限らない。
それは、信頼という網の隙間に忍び寄る、
微笑を浮かべたまま根を張る “支配の毒”。
次に現れた黒き五芒星は、
戦いを挑まず、内側から崩してきた──
アマリカム城・政務殿。
イサナたちが“祈りの光”を星へ返した直後から、
城内には不穏な声が静かに広がり始めていた。
「イサナ様が“神”を名乗ってるって本当か?」
「結局あの国も、神権支配じゃないのか?」
「境界があっても……うちの村には薬が来てないぞ……」
誰が言い出したのかもわからない。
けれど、確かに広がる“疑念”と“疑心”。
ツユカが城内の空気の異変に気づく。
「……この感じ、どこかで……。
ソラノヒメだった頃、都が腐っていったあの時に似てる……」
その瞬間、セオリの情報端末が警告を発した。
「アクセスログに……異常な干渉が!?
誰かが国内ネットワークの“祈りの流れ”を……書き換えてる……!」
そして現れたのは、黒衣に仮面をまとった人物。
「ご機嫌よう──創造主さま」
イサナが立ち上がる。
「……誰だ?」
仮面の者は、ゆったりと礼をする。
「私は──アルズマ。
五芒星のひとつ、“毒”と“支配”の神」
仮面の奥から、笑みがにじむ。
「戦いなんて、非効率だろう?
争うより、“同調”の方がはるかに速い。
自分で考えるより、与えられた“祈り”に従うほうが楽だと、
人はいつしか気づいてしまうから」
その言葉と同時に、
城内の一部の兵士や民が無言で跪き始めた。
「……っ!?」
アマネが駆け寄るも、彼らの目は虚ろだった。
「彼らは、祈りを“注がれる”ことに慣れすぎた。
自分で祈ることを忘れた者は、
支配される側に、自然と落ちていくのさ」
イサナが歯を食いしばる。
「ふざけるな……祈りは“与える”ものじゃない。
“共に創る”ものだろう……!」
アルズマは、肩をすくめて笑う。
「共に? 本当に皆がそれを望むかな?
“選ぶ”ことに疲れた人間は、
強い誰かの言葉にすがりたくなるもんだよ」
そのとき、イサナの背後にいた役人の一人が
短剣を抜き、彼の背に迫ろうとした──
「──ッ!」
だが、その手を止めたのはヒユだった。
「ここは、まだイサナの世界。
毒の回路は、まだ完成してない」
アルズマが細めた目でヒユを見る。
「おや……時間切れか。
ならば、私はもっと深い場所に、種を撒こう」
黒い蝶のような霧を残して、アルズマの姿は消えた。
セオリがつぶやく。
「まずい……この“毒”は、祈りの記憶と信頼を静かに蝕んでいく。
今後、アマリカム内の“絆”そのものが試されることになる……」
イサナは一度、目を閉じて深呼吸した。
「──信じるよ。
僕たちは……祈りで結ばれている。
絶対に、バラバラになんてならない」
第三の黒星「アルズマ」は、
イサナたちが築いた“祈りの共同体”を内側から蝕む存在。
毒は目に見えない。
それは信頼や希望の皮を被って、静かに忍び寄ってくる。
次回──
【第72話:キサト、時の檻より(仮)】
ヒユの守っていた“時の神殿”に異変が起こり、
かつて封印された少女・キサトが目覚めようとしています。




