【第68話】 #《新たなる祈りの名》
ティアナが放つ“否定の海”が、世界を呑もうとする中――
イサナの中に浮かぶ声。それは誰のものでもない、“自分自身の祈り”。
受け取るだけだった祈りの旅が、今、創造の旅へと変わる。
ティアナの黒き海が、アマリカムの南部を飲み込もうとしていた。
空が暗転し、風が止み、祈りの柱すら砕けていく。
その中で、ミハヤの炎も限界を迎えようとしていた。
「くっ……止まらない!」
ミハヤの足元に、水が浸食してくる。
その時だった――
イサナの瞳が、静かに輝いた。
「もう……奪われるだけの祈りじゃ、ダメなんだ」
その言葉に、皆が振り返る。
セオリの瞳に、一瞬だけ“神域の光”が走った。
「イサナ……あなた、まさか……」
イサナは一歩、ティアナに向かって踏み出す。
「ティアナ。君は祈りに縛られたって言った」
ティアナは何も答えない。ただ、虚ろにイサナを見ていた。
「でも――僕たちは違う。
僕たちは、“祈り”を創る。誰かに与えられた祈りじゃなくて、自分たちで選ぶんだ」
イサナの手が光を纏う。
その光は、今までとは異なる色。
白でも金でもなく、透明な祈り。
“まだ名前を持たない祈り”だった。
「僕の祈りの名は――ヨルハ」
その瞬間、空が震え、波が止まった。
「……なに?」
ティアナがわずかに顔を歪める。
「ヨルハ。それは、“夜に寄り添い、朝を紡ぐ者”の祈り」
ミハヤがはっとする。
「それって……イサナの……」
アマネが微笑む。
「優しさの名、なんだね」
光が集まり、黒い海に対抗するように結晶していく。
ティアナの足元から、黒い海が引き始める。
「その名……私の中の何かを、止めようとしている」
ティアナの声が震える。
「でも……でも、私はもう、祈れない……母になんて、戻れない!」
「戻らなくていい!」
イサナの叫びが、世界に響いた。
「君は君のままでいい。だから僕たちは――“その存在ごと”祈るんだ!」
波が光に包まれ、崩れていく。
ティアナの身体が霧のように揺らぎ、その中心から、
涙を流すひとりの少女のような姿が現れた。
「……そんなの……ずるいよ……」
イサナは、ただ黙って手を差し出す。
そして、ティアナの影が、光の中に溶けていった。
祈りを“受け取る”だけだったイサナが、
ついに自分自身で「祈りを創る存在」へと進化しました。
その名は「ヨルハ」――
夜を否定せず、光に変えようとする、優しき再生の言霊。
ティアナは“救済”され、黒の五芒星の一角が崩れました。
しかし、これを許す存在が――ひとり、黙ってはいません。
次回【第69話:カボシア、星の封印を破りし者(仮)】
“封印されし神”アマツミカボシ系の者が動き出します。




