スピンオフ:現代編 第6話 タイトル: 「熊野・元伊勢・伊吹山──交差する祈り」
伊勢神宮で“ただいま”と呟いた日向。
御朱印帳は、次なる地を「南の水」と告げる。
導かれるままに、熊野本宮、元伊勢、伊吹山へ。
三つの神域を巡る中で、彼の中に眠る“イサナ”の魂が、いよいよ輪郭を帯びはじめる。
伊勢から南へ。
紀伊山地の深奥、熊野本宮へ向かうバスの車窓を、日向は静かに見つめていた。
目を閉じると、川の音。
その中に混ざるようにして、かすかに祈りの声が聞こえる気がした。
熊野本宮。
あの大鳥居の下で手を合わせた瞬間、胸の奥に熱が走った。
「……ヒユ……」
自分の口から漏れた名に、日向は驚いた。
(誰だ、それは……いや、“誰だった”んだ?)
御朱印帳のページが静かにめくれ、
そこには、熊野の神の印とともに、“火”のような文様が描かれていた。
⸻
続いて向かったのは、元伊勢・籠神社。
丹後の海にほど近い、静かな社。
神域に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
(ここも……知ってる)
日向の中で、“日向”ではない視点の記憶が目を覚ます。
それは、ソラノヒメという名を持つ巫女の視線だった。
境内にある「真名井神社」への小道を歩いていると、
不意に風が吹き、木々の葉がざわめいた。
“戻ってきたね”
声にならない声が、確かに聞こえた。
御朱印帳の次のページには、風を模したような銀の文様が現れていた。
⸻
そして最後は、伊吹山。
かつて、ヤマトタケルが命を落とした場所。
山頂に近い霧深い神域で、日向は祠の前に立った。
ここでは、何も言葉は浮かばなかった。
ただ、手を合わせた瞬間、霧の中から白い蝶が現れ、彼の肩にそっと止まった。
その蝶が舞い去った先――
御朱印帳の最後のページに、星を結ぶ五つ目の点が浮かび上がる。
そこに書かれていたのは、ただ一言。
「いざ、淡路へ」
⸻
(次が、最後の場所……)
日向は静かに御朱印帳を閉じた。
五芒星が描き終わったその瞬間、
目の奥に強烈な光が差し込んだ。
──赤い空。
──戦いの炎。
──誰かが、自分の名を叫んでいる。
「イサナッ!」
目を見開いた日向は、霧の中に“かつての自分”がいたことを確信する。
もう迷いはなかった。
すべての点が結ばれ、五芒星は完成した。
最後の地、淡路島・伊弉諾神宮。
そこには、速水日向=イサナの魂が再び目覚める扉が待っている。
最終話、「伊弉諾の社と、目覚めの刻」へ――。




