スピンオフ:現代編 第4話 タイトル: 「記憶を呼ぶ祠と、光の名」
御朱印帳が“自らの意思でめくれた”ことに驚く日向。
そこに現れたのは、見覚えのない神社の印。
だが彼は、なぜか“そこを知っている”気がした。
導かれるままに辿りついた次の場所――
それは、彼の魂の名を揺らす“祠”だった。
週明け。
ふだんなら仕事に追われているはずの午前。
速水日向は、なぜか迷いなく休みを取っていた。
(……あのページが、俺を呼んでる気がする)
御朱印帳に現れた“見知らぬ神社の印”。
そこに記されていたのは「光津宮」という名。
聞いたことのない地名に、迷いながらも検索してみると――
山あいの、ひっそりとした土地に実在していた。
(こんな場所に、ほんとに……)
電車を乗り継ぎ、山道を歩く。
やがて現れたのは、深い森の中に埋もれるように佇む小さな社だった。
鳥居をくぐると、すぐに空気が変わる。
まるで境界を越えたような、静謐な空間。
境内の奥には、石垣に囲まれた古びた祠。
そこだけ時間が止まっているようだった。
祠の前に立ったとき、不意に胸が苦しくなった。
言葉にできない感情が、喉の奥で波打つ。
「……ここ、知ってる……」
来たことがあるはずのない場所。
なのに、懐かしい。
切ないほどに、懐かしい。
目を閉じると、
炎の揺らめきと、誰かの名前を呼ぶ声が脳裏に響く。
──ヒカリ。
──ヒュウガ。
──イサナ……。
目を見開くと、視界の端に光がよぎった。
誰もいないはずの境内で、
一瞬、白い着物のようなものが風に舞うのが見えた。
その瞬間、御朱印帳がまた一枚、音もなくめくれた。
そこには――まるで火のように揺れる墨文字で、こう記されていた。
「いざ、目覚めの刻近し。イサナ、その名を忘れるな」
ページを閉じ、日向はしばらく立ち尽くした。
鼓動が静かに高鳴る。
どこか、遠くから“自分ではない誰か”の視点で、景色を見ている感覚。
(……イサナ?)
その名前が、自分に向けられたものだと直感した。
もう、ただの趣味では済まされない。
この御朱印帳は、“記録”ではなく“記憶”だ。
日向は、静かに祠に一礼し、
御朱印帳を胸に抱いて社を後にした。
その背には、
まだ“誰か”の祈りの気配が、温かく残っていた。
現代の“速水日向”の中に、少しずつ浮かび上がっていく“イサナ”の名。
御朱印帳は、神々の記憶を呼び起こす“鍵”となる。
次回、「神域の残響、もう一人の自分(仮)」へ続きます。




